不登校になった子どもに、親ができること[不登校との付き合い方]

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不登校の子どもが増えています。我が子がもし、「学校には行きたくない」と言い出したとき、親としてはどうしたらよいのでしょうか。多くの不登校の子ども、不登校を卒業した大人たちの話を聞いてきた「不登校新聞」編集長の石井志昂さんが、不登校について保護者が知っておくべきことを伝えます。

この記事のポイント

Q.不登校の子どもの人数、原因は?
A.小中学生のうち約18万人が不登校。原因の半数は「いじめを含む人間関係」

文部科学省の発表によると、2019年度、小中学校で不登校の児童・生徒の数は18万人以上にのぼります。

<小学校・中学校の不登校児童・生徒の人数>

さらに、この7年間、全児児童・生徒に占める不登校の割合は、増え続けています。

不登校の原因のトップは、いじめを含む人間関係で、約半数を占めています。さらに、「勉強が分からない」が1/3、「生活リズムの乱れ」が1/3、「先生との関係」が1/4と続きます。これらの回答は複数回答で、原因が重複している場合がほとんどです。

いずれにしても、いじめなど、友達や先生を含めた人間関係で悩み、「学校へ行きたくない」という結論を出した子どもが、不登校のうちの半数以上を占めることは間違いないでしょう。

<不登校のきっかけ>

Q.不登校の子どもの心の状態は?
A.学校を危険な場所と感知して、体まで動かなくなった状態が不登校

不登校の子どもは学校で、悩み、傷つき、学校を危険な場所と感知して、「学校へは行かない」という選択をしています。精神科医の明橋大二先生は、不登校は「心がオーバーヒートした状態」だと表現しています。まるでサーモスタットが発動してモーターのスイッチが切れるように体が動かなくなる、つまり安全装置が発動している状態だといいます。

不登校の子どもは、家から一歩も出られない、ずっと引きこもった状態と思われがちですが、実際には必ずしもそうではありません。不登校でも、学校とまったく接触がないという人は少なく、保健室登校や、スクールカウンセリングの面談など、学校とつながりをもっている人が約9割。そのうち半数の人は、週の半分ほどは学校へ通っています。

このほかに学校以外の場所に通う人たちもいて、約7割が教育支援センターの適応指導教室、放課後等デイサービス、フリースクールなどに通っています。地域のサークル活動が居場所になったという人もいます。

その一方で、不登校の中でも、まったくどこへも行かずに引きこもっている人が1割います。

Q.不登校の子どもに保護者ができるサポートとは
A.心の回復のプロセスに沿った、家庭でのサポートが必要

多くの人は、不登校になった日からどんどん状態が悪くなっていくイメージをもつかもしれません。しかし、本人にとっては、心身ともに傷つけられる場所になってしまった学校からは離れられたわけです。そういう意味では、一番の危機を脱したことになります。だから、不登校になって、学校から距離をとった瞬間から心のダメージの回復は始まります。

心のダメージを回復するプロセス1 まずは体を回復する

回復は、段階を踏んで進んでいきます。まず、学校を休むことによって、体の回復期が始まります。だから、不登校になった直後の子どもは、極度な緊張で疲れ果てた体を休めるために、寝てばかりいるかもしれません。

この時期は、無理に生活リズムを立て直させようとせず、できるだけ、本人のペースを尊重してあげてください。学校の先生や友達が訪問してくるかもしれませんが、本人に必ずどうしたいかを聞いてください。「会いたい」と言ったら会わせるし、何も答えなかったらそれは「NO」の意思表示となります。

心のダメージを回復するプロセス2 感情を噴出させる

体が回復したところで、感情の噴出という時期に入ります。ものすごく甘える、突如として怒りだす・泣きだす、感情のコントロールができない状況になります。小学校高学年でも、まるで赤ちゃん返りしたように甘えたり、フラッシュバックが起きたように泣いたりすることもあります。

この時期、保護者はそばについているしかありません。とても大変ですが、本人の苦しんでいる気持ちに付き合うことで、子どもには愛情が伝わってしみこんでいき、心の傷が癒されていきます。

心のダメージを回復するプロセス3 何があったかについての言語化

その次にようやく、自分に起きたことを言語化する時期がきます。話は長くて回りくどいかもしれないけれど、本人はアドバイスがほしくて話しているのではなく、ただ話すことで気持ちの整理をしています。保護者はひたすら、話を聞いてあげてください。

こうして言語化の時期が終わると突然、親離れ、支援者離れします。やっと「不登校」が終わり、心の傷が癒えたということになります。

傷が癒えるプロセスは、ほとんどのPTSDに起こるものと同じ

この回復のプロセスは、必ずしもスムーズに移行するわけではなく、行ったり来たりします。もちろん個人によって違うけれど、ある一定の心理状態のプロセスを経るということが、臨床的にもわかっているそうです。これは不登校だけではなく、ほとんどのPTSD(心の傷)と言われているものにおいて起こるものだそうです。

どのくらいの期間がかかるのかについても、個人差があります。私の場合は、4~5年かかりました。その間、私は学校には行きませんでしたが、学校に行く人もいます。学校に行くかどうかといったことは、不登校のゴールではないことも覚えておいてほしいです。

Q.不登校の子どもに接するときに保護者が注意したいことは
A.間違った対応は不登校を長引かせる原因にもなる

この「回復のプロセス」の中で、保護者が気をつけたいことがいくつかあります。大前提として、間違っても学校に無理に早く戻そうとしないこと。焦って子どもを学校へ戻らせても、「不登校の問題」は終わりません。学校へ行くことが不登校のゴールでもありません。

また、大人たちが心配するのは学習面の遅れかもしれません。特に高校受験を考える中学生の場合はなおのことだとは思います。本人に勉強する体力も気力もないときに、何かさせようとしてもどうにもなりません。逆に言えば、本当にやる気が出たときには、学習面はいくらでも追いつくことができる、ということです。それも本人が「そうしたい」と思うことが優先です。本人の意思を一番大事にしてほしいです。

不登校の子どもが、大人にしてもらってよかった、と言っている3つのこと

不登校の子どもに、「大人にはどうしてほしかったか」と聞くと、たいていの場合は「ほうっておいてほしい」と答えます。何もしないでほしい、という意味ですが、そこからもう一歩、踏み込んで聞いてみると、「好きにさせてほしい」「感謝されてうれしかった」「気持ちを聞いてほしい」という3つのことばが浮かんできます。

まず「好きにさせてほしい」というのは、たとえば、不登校で家にいる間、起きる時間を自分で決めさせてくれた、ゲームをしてもよかった、といったことです。そのことで、自分の気持ちに整理をつけられたと、子どもたちは言います。好きにさせたら、どんどんダメになるばかりだと大人は思うかもしれませんが、そうとは限りません。好きなことを思い切りできる環境の中で、自分が本当にやりたいことに気づくプロセスが大事なのです。

2つめの「感謝されてうれしかった」は、家事などをしたことで「ありがとう」と言われて、家族の一員としてここにいていいんだと思えた、ということ。感謝されることは活力になります。もちろん、そこまで支えてもらってきたからこそ、今度は役に立ててうれしいという気持ちなので、子どもに感謝の言葉を言うために、むりやり家の用事をさせるというのはナンセンスです。

そして3つめ、最もよく聞くことばですが、「気持ちを聞いてくれた」。ポイントは「話」を聞いたではなく「気持ち」である、ということ。子どもは、同じ話を何度も何度も堂々巡りしながら話します。それを聞いて受け止めてくれたことによって、つらい話には一緒に心を痛めてくれた、と感じるのです。

話を聞くときに、話をさえぎったり、先回りしたりしないで

大人が子どもにかかわるとき、話をじっくり聞くことが非常に大事です。子どもが自分のことや将来について語ろうとしているときには、黙ってうなずいて聞いてあげましょう。そのときに、話を先導したり、話をさえぎったりしてはいけません。「だったらこうしたらいいじゃない?」と、聞かれてもいないアドバイスをすることは、もっともしてはいけないことです。

もし、大人が無理に提案したとしても、絶対に言うことを聞きません。大人から見れば、論理的にも状況的にも「こうしたほうがいい」とわかりきったようなことでも、多くの子どもは、自分の人生だから自分で決めたいと心の底から思っているからです。意思決定は子ども自身がすることです。

不登校の子どもが、大人にしてもらってよかった、と言っている3つのこと

  • ・好きにさせてほしい
  • ・感謝されてうれしかった
  • ・気持ちを聞いてほしい

Q.不登校に関する相談先は?
A.今通っている学校以外に相談する方法もある

子どもが不登校になった際、相談相手として今通っている学校の先生と衝突してしまったという話はよく聞く話です。不登校になった学校で、そもそも子どもに対応ができていないから不登校になったとも考えられます。親が相談しても担任とは衝突するばかり、校長先生は「学校に来なさい」の一点張り、最終的に救いとなったのは、不登校児を受け入れる中学校の先生たちだったというケースもあります。

また、学校に通うということ自体が難しい様子だったら、フリースクールに電話で相談してみてください。実は、フリースクールが実質的に心強いのは、学校との交渉役になってくれること。高校生の場合は、フリースクールが通信制高校と連携して卒業までをサポートというところも増えてきました。

フリースクールは、相談だけなら無料で受けているところが多くあり、また、相談先として親の会を紹介してもらうこともできます。今は、オンラインの親の会もありますし、不登校を受け入れている高校や通信制高校も相談先の選択肢として考えてもよいでしょう。

Q.学校以外の選択肢としてのフリースクールとはどんなところ?
A.子どもの自由を尊重し、子どもの気持ちに寄り添うスタッフがいる場所

ところで、不登校の子どもたちが集まるフリースクールとはどんな場所か、まだそんなには知られていないと思います。私がこれまでに取材してきたところはどこも、子どもの自由、自治を尊重する場所です。子どもたち自身がミーティングで決めたルールは守る必要がありますが、いわゆる校則はほとんどなく、制服もありません。教科学習としての講座と、体験学習があり、いずれも出欠席は自由です。

フリースクールの良い点として挙げたいのが、子どもの心理的ケアに非常に長けているスタッフがいる、という点です。前述のように、子どもの話に口をはさまずに、じっくり聞くことが、不登校の子どもには大切なことですが、それを何時間でも根気強くしてくれるスタッフがいます。スタッフが話を聞いてくれたおかげで、生活そのものを立て直すことができた、という例もあります。

欠点として挙げられるのは、費用が高いことかもしれません。平均の月謝が3万3,000円というのは、私立学校の学費に近い金額。ただ、これは公的支援がないせいで、スタッフのほとんどが低賃金労働者である場合が多く、やる気や熱意で支えられている場合が多いということも、頭の隅に入れておいてほしい情報ではあります。

Q.不登校を乗り越えた先にあるものは?
A.不登校を経験した子どもの進学率は85%、将来の職種もさまざま。意外と「普通の大人」になっていく

小学校・中学校の時期に不登校だった子どものうち、85%は高校に進学しているというデータがあります。進学しなかった15%の人も、高卒認定試験を受けている可能性もあるので、かなりの子が進学の道を選んでいます。

さらにその後の就職に関していえば、本当にありとあらゆる職業の人がいます。消防士、大工、主婦、会社員、学校の先生、弁護士、タレント、地方公務員になった人もいます。

不登校から20~30年たった大人たちに会ったときに、私がいつも感じるのは、「普通のおじさん、おばさんたちだな」ということです。もちろん、大人になってから、苦労はあるだろうし、つらいことも経験すると思います。でも、それは不登校ゆえではないでしょう。やりたいことが見つかって進むうちには、逆風が吹くこともあります。一方で、努力が実って成功につながり、生きることが楽しくなることもある。そんな「普通の人生」を歩むようになるのだと思います。

Q.不登校はいつ終わる?
A.つらいことを乗り越えるということが、不登校の終わり

不登校の終わりとは、「学校へ行くこと」ではありません。不登校とは、学校に対して体が動かなくなったという状態です。学校に行けなくなった原因である「つらいこと」がなくなる、あるいはそこから真の意味で回復する、といったことでしか、実際の不登校は終わらないのです。

不登校すると子どもは心に傷を負います。そして、自分と向き合い、親との関係を再構築するという時間を持ちます。そういう意味で、不登校は成長過程のひとつです。成長したことによって、ものごとがうまくいかないときに耐えることができる力がつく、ということが、不登校を経験することのメリットではあるかもしれません。

苦しかったことに決着をつけるための時間の長さは、人によって違うでしょう。不登校が終わるのは、大人になったときかもしれないし、大人になってからも不登校ということを良くも悪くもずっと抱えている人もいます。不登校は、それくらい厳しくつらいことだと、保護者や学校の先生には知ってほしいです。

まとめ & 実践 TIPS

不登校は、子どもにとってとてもつらい経験です。親にできることは、本人の意思を尊重して、ただひたすら子どもの話を聞くことしかないかもしれません。どうにかしたいと、つい提案をしたくなる気持ちをぐっとこらえて待つことは、とても忍耐のいること。でも、それが実は、「この子は大丈夫」と、子どもを信じるということに他ならないのです。

(取材・文/関川香織)

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写真:オンラインで取材に対応してくださった石井志昂さん

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不登校との付き合い方 バックナンバー一覧

出典
「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について/4.小・中学校の長期欠席(不登校等)の状況」
https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf

「不登校に関する実態調査 平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書」不登校生徒に関する追跡調査研究会 2014
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/08/04/1349956_02.pdf

「不 登 校 に 関 す る 実 態 調 査 平成 18 年度不登校生徒に関する追跡調査報告書」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/08/04/1349956_02.pdf

プロフィール


石井志昂

『不登校新聞』編集長。1982年生まれ。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。17歳から不登校新聞社の子ども若者編集部として活動。不登校新聞のスタッフとして創刊号からかかわり、2006年に編集長に就任。現在までに不登校や引きこもりの当事者、親、識者など、400名以上の取材を行っている。

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