教育用語解説|STEAM教育

2024.6.13

「STEAM教育」とは?その内容やメリット、取り組み事例を解説

「STEAM教育」という言葉、聞いたことはあるものの、いま一つ分からないと感じるかたは多いようです。STEAM教育とは、さまざまな学問領域を土台にしつつ、特に理数系の学びを中心に多様な知識を活用しながらそれを統合して、社会の問題を発見・解決していこうとする学びのことです。AIに代表される科学技術の急速な進展によって社会が変化し、人間が数多くの課題に直面するとき、これまでの教科や文系・理系といった領域の枠にはまった学びだけでは解決できない問題が増えていきます。そうした状況に対応できる力を育成する必要性が高まっていることが背景にあります。

STEAM教育の3つのポイント—AI時代に生きる理数系プラスαの問題解決力を育む学び

「STEAM」は「スティーム」と読み、重視すべき主な学問領域5つを英語で表した語の頭文字をとったものです。

  • 科学(Science)
  • 科学技術(Technology)
  • 工学(Engineering)
  • 芸術(Art)
  • 数学(Mathematics)

2000年代に米国で始まり、当初は芸術(Art)が入っておらず「STEM」と表現していました。最近では上の5領域だけでなく、ロボット工学(Robotics)や倫理学/環境学(ethics/environmentology)を加えて「STREAM」「eSTEAM」などと表す場合もあります。いずれの言い方にも共通するSTEAM教育のポイントは、次の3つです。

  1. 理数系分野を中核とした、学際的・教科横断的な学びであること
  2. 知識を統合的に活用しながら実社会の問題解決をめざす学びであること
  3. 知識・技能だけでなく関心・意欲・態度も高まる学びであること

単なる「理系重視」ではない、STEAM教育で大切な考え方

3つのポイントを踏まえて強調したいのは、これからの社会課題に立ち向かうためには、理数系分野を中核としつつも、幅広い知識を統合的に活用しながら解決しようとする意志や力が不可欠ということです。
発祥のきっかけが、当時の米国における理工系人材の不足であったことからわかるように、STEAM教育の中心は理数系の領域です。しかし、日本におけるSTEAM教育では、理数系に加えて、国語や社会なども含めた教科横断的な学びであることが強調されています。また、特定の分野をよく知っているだけではだめで、持っている知識を社会に役立てようとする気持ちや、その気持ちを実際に行動に移すことに価値がある、という考えも重視しています。
実際、2019年4月に中央教育審議会に諮問された「新しい時代の初等中等教育の在り方について」(※1)でも、これからの高等教育のあり方として、文系・理系にかかわらず様々な科目を学ぶことと併せてSTEAM教育の推進が取り上げられました。

科学技術が独り歩きしないためにも STEAM が必要

芸術(Art)について補足すると、芸術といっても、絵を描いたり歌を歌ったりする力のことではありません。モノや技術ではなく、「人間」を主語にして課題にアプローチする学びのことを指します。科学技術や数学は物事を数字で表そうとしますが、実社会では、数字そのものではなく、人間にとってその物事がどのような意味や価値があるかも重要です。

つまり芸術(Art)は、数字では表しにくい概念も大切にして問題解決にあたろうという考えの表れなのです。ですから、リベラルアーツやデザインといった領域も関係しますし、一般に文系といわれる内容を多く含んでいます。実社会でも、データそのものを扱うエンジニアだけでなく、データをどう解釈するかを判断したり、組織戦略を実行していくマネジメントの力が発揮されてこそ、データを生かした事業が可能となります。STEAM教育では、その両者に通用する力を育てようとしています。

学校現場での課題は「とことん取り組ませる余裕がない」

日本では、最新の学習指導要領でもSTEAM教育の考え方が生かされており、プログラミング教育の導入や、高校での「総合的な探究の時間」「理数探究」の導入などはその代表です。プログラミングは校外学習の場でも人気が高まっており、ベネッセが提供しているプログラミング講座も好評を博しています。特に都市部では、英語に次ぐ人気ぶりです。

とはいえ、全国的に見るとSTEAM教育を学校外で学ぶ子どもは少数であり、学校教育が推進の中心となりますが、課題があります。例えば、小学校では多くの教育活動を担任の先生が担うため、理数系に苦手意識を持つ担任のクラスでは指導が進みにくい場合があります。また、STEAM教育は本来、見つけた課題に対して時間を気にせずとことん取り組むことが理想ですが、どの学校もカリキュラムに余裕がないために十分な時間をかけられないのが実状です。

さらに、STEAM教育に必要な指導者や設備などの資源に地域差がある点も課題です。これは地域の国公立大学が起点となり教育機会を増やしたり、オンライン環境を活用したりすることで改善していく必要があるでしょう。

家庭でできるSTEAM教育のカギは「親子の会話」

家庭では、子どもとたくさん会話することで、子どもが「あれ?」「なぜ?」と気づいたり、疑問を持ったりする機会を作るようにしましょう。何かをじっと見つめていたら「〇〇だね。どんな風に面白いの?」と子どもの思いに共感し深める声掛けをします。

社会をよりよくするための課題や可能性は、人と人の会話の中から生まれます。親子の会話そのものがSTEAM教育になるのです。前提となる身の回りで起きていることへの興味関心や問題意識を持たなければ、いくらプログラミング教室に通い理数系の知識を豊かにしても意味がありません。

さらに、考えを深めたり物事を判断したりする際は、客観的なデータを基にすることの大切さを伝えると、なおよいでしょう。声の大きい人や経験に無条件に従うのではなく、「本当にそうだろうか?」「他にはないだろうか?」「常にそうだろうか?」と自問する癖をつけておくと、入試はもちろん将来、社会に出た時にも必ず役立ちます。

まとめ

日本の理数系学力は実は世界トップクラス。実社会にどうつなげるかがカギ

もともと日本は理数系の学力が高く、世界でもトップクラスです(※2)。今後、子どもの「なぜ?」「どうして?」を引き出すワクワクする学びの実現や、高校段階で本格的な探究・STEAMの学びを実現できるように、学校だけでなく社会全体で学校や子どもの学びを支えることが望まれます。そして、理数系の学問は一部の研究者だけのものではなく、社会を変えていくために有用であることを、多くの子どもが実感し、社会で生かしていけるといいですね。

取材・執筆:神田有希子

(出典)
※1
中央教育審議会/新しい時代の初等中等教育の在り方について

※2
最新の国際調査結果(PISA2022)では、日本はOECD加盟国中、数学的リテラシー1位、科学的リテラシー1位。過去の調査結果も常に上位を維持している。
文部科学省・国立教育政策研究所/PISA2022のポイント

※掲載されている内容は2024年5月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

小村 俊平こむら しゅんぺい


ベネッセ教育総合研究所
教育イノベーションセンター長

1975年東京生まれ。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員との毎週のオンライン対話会「気づきと学びの対話」、中高生との定期的なオンライン対話会「SDGsユース」、中高生との探究的な学びのコミュニティ「ベネッセSTEAMフェスタ」を開催するなど教育イノベータが集まる場を主宰しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな官庁や自治体の委員、大学・高専・高専の委員やアドバイザーを務めており、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
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