2024.7.25
【2025年度版】高校無償化(高等学校等就学支援金制度)とは?所得制限や条件、支給額を解説
高校は義務教育ではないため、たとえ公立でも授業料などのお金がかかります。しかし、ほぼ100%の子どもが高校に進学している現状*1も踏まえ、子どもの教育機会の公平性を確保し、少子化にも歯止めをかけるために設けられた制度がいわゆる「高校無償化」です。その概要や条件、利用する際のポイントをお伝えします。
この記事のポイント
高校無償化とは—国公私立高校等の授業料が給付される
高校の無償化とは、一定の要件を満たす家庭の高校生等に対して授業料が給付される、国の助成制度です。正式には「高等学校等就学支援金制度」といいます。支給対象となるのは、国内に住んでいる高等学校、特別支援学校の高等部、高等専門学校、専修学校などに通う生徒で、国公私立を問いません。この制度は授業料の支援を行うものですが、授業料以外の支援については「高校生等奨学給付金」があります。 また、都道府県によっては、支給の対象を広げたり金額を上乗せしたりするなどの制度があります。
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高校無償化の目的
この制度は、意欲あるすべての高校生が安心して勉強できる環境を整えて家庭の教育費負担を軽くし、教育の機会均等を実現する目的で2010年に始まりました。しかし当時は、条件を満たせば公立高校の授業料が実質無償になったものの、私立高校は授業料が高いために支援金では一部しかカバーされていませんでした。また、2017年に国が行った調査結果で、子どもが欲しくても持たない理由の第1位が「教育にお金がかかりすぎるから」*2であったことなどもふまえて、少子化対策の一環としても検討されました。
これらの状況を改善するために法改正を行い、私立高校向けの支援金額が加算され、公立高校と同様の実質無償化が実現したのが2020年4月からです。
さらに、2025年度は、世帯年収額による制限をなくす支援策が始まりました。
2026年度からは、世帯年収制限の撤廃に加えて、私立高校等の加算額が引き上げられる予定です。
なお、同様のねらいから、高校教育だけでなく幼児教育(幼稚園、保育所等)も2019年から実質無償化されています。大学に関しても、2025年度からは子ども3人以上を扶養する世帯であれば、世帯年収に関係なく大学等の授業料と入学金の一定額までが無償化されました。
制度の概要—2025年度は公立の所得制限が撤廃、2026年度以降は公立・私立問わず制限なしに、支給額も引き上げ ※1
※1 通信制私立高校は29万7,000円、国公立の高等専門学校(1~3年)は23万4,600円が支給上限額
※2 年収は両親の一方が働き、高校生1人(16歳以上)・中学生1人4人世帯の目安
2024年度まで、高等学校等就学支援金の額は主に通っている高校の種類と世帯収入によって変わっていました。2025年度は、世帯収入に関係なくすべての高校生が支給対象となります。さらに、2026年度からは、特定の所得条件を満たす場合のみが対象だった私立高生向けの加算分についても、所得制限が撤廃。加算金額の上限も引き上げられます。
2025年度と2026年度以降の支給内容について、もう少し具体的に見てみましょう。
(1) 2025年度
2025年4月からは、国公立・私立を問わず、世帯収入に関係なく、高校に通う子どもがいるすべての世帯に支給されます。
支給金額は、公立の場合は、最大年間11万8,800円。公立高校の年間授業料に相当する額です。私立の場合は、世帯年収が約590万円以下の場合のみ、私立高校の年間平均授業料を勘案した年間39万6,000円を上限に支給されます(これよりも授業料が低い場合には授業料の金額が支給されます)。
今回新たに支給対象となった、世帯年収約910万円以上の世帯向けの支援制度は「高校生等臨時支援金」と言い、2025年度限りの制度です。
なお、世帯年収590万円・910万円というのは一つの目安であり、実際に所得要件の判定を行う際には、世帯の構成等をもある程度反映した「課税標準額(課税所得額)×6% - 市町村民税の調整控除の額」により判定を行います。
(2) 2026年度~
私立の場合、2025年度までは所得制限がありますが、これが撤廃されます。加えて、2025年度までは支給上限額が39万6,000円だったのが、私立高校の年間平均の授業料である45万7,000円まで引き上げられる予定です。
これにより、公立・私立どちらに通う場合でも、世帯年収に関係なくすべての高校生に、全国的な授業料の平均額が支給されることになります。これが「実質無償化」と言われるゆえんです。
高校無償化の注意点(1) 自動支給ではなく申請が必要
都道府県によっては独自の追加支援制度を設けていることがあります。例えば、東京都では2024年度から世帯年収が910万円以上でも、都内の全ての高校で授業料の実質的な無償化が始まっています。 ほかの自治体でも同様の仕組みがあったり、授業料以外にも入学金や施設費などが支給対象になったりする場合もあります。また、住所だけでなく通学先の高校も同じ都道府県内にあることを支給条件としている場合もあるため、注意が必要です。
所得制限が撤廃されても、自動的に支給されるわけではありません。原則として、高校入学後に各ご家庭がオンラインで申請することで支給されます。手続きには書類と保護者のマイナンバーカード等が必要です。書類は高校から配布されます。中には配布済みの学校もあるかもしれませんので、よく確認するようにしましょう。
高校無償化の注意点(2) 生徒・保護者が直接受け取るものではない
国の制度である就学支援金は、学校設置者(都道府県、学校法人等)が生徒本人に代わって受け取り、授業料に充てます。生徒や保護者が直接受け取るものではありません。また、学校によっては先に授業料を全額徴収し、後から差額を還付する方法をとっていることも。経済的に困難な家庭に対しては、授業料徴収の猶予措置等を利用できる場合もあります。還付時期などの詳細は、学校に確認すると教えてもらえます。
また、学校の授業料が就学支援金の上限を超えた際の差額は、生徒本人(保護者)が支払う必要があります。
参考: 文部科学省「高等学校等就学支援金制度」 (PDF:364KB)
高校無償化の注意点(3) 授業料以外の諸費用は引き続き保護者が負担
今回、国が支援する「無償化」の対象は、授業料です。たとえば、私立高に通う際にかかる費用のうち、授業料は全体の3分の1程度です*3。入学金や施設設備費などのほか、修学旅行費の積み立てや学用品、部活動、通学定期などさまざまな諸費用がかかり、それらはこれまで同様に保護者が負担しないといけません。上記注意点(2)にある授業料の徴収タイミングを含めて、資金計画は慎重に考えておく必要がありそうです。
高校無償化の注意点(4) 自治体によって独自の支援制度があることも
自治体によっては独自の追加支援制度を設けていることがあります。例えば、東京都では私立を含む都内のすべての高校で授業料の実質的な無償化がすでに始まっています。ほかの自治体でも同様の仕組みがあったり、授業料以外にも入学金や施設費などが支給対象になったりする場合もあります。各都道府県や市区町村、教育委員会のホームページ等をチェックするなどして、お住まいの地域の制度を必ず確認しましょう。
すべての生徒が安心してより質の高い高校教育を受けられるように
今回の改正によって高校無償化制度の認知度が高まり、「私立はお金がかかるから無理」と志望校の選択肢を狭めてしまっていたご家庭には朗報です。
一方で課題もあります。私立高向けの支援が2026年度から拡充されることで、公立高離れが進んだり、私立高の授業料が値上げされたりするのではないかと心配する声も聞かれます。高校無償化制度は、高校にとってはいかに「選ばれる」か、多くの生徒から「行きたい」と思われる教育を行えるかが試されます。今後は、支給される金額に注目するだけでなく、高校教育の質の向上につながるかを注意深く見守る必要がありそうです。
取材・執筆:神田有希子
*1 高校進学率
高等学校教育の現状について (PDF:1.23MB)
文部科学省「学校基本調査」R6年度 国公私立の全日制・定時制・通信制の計。
*2 平成29年 内閣官房 人生100年時代構想推進室実施調査 内「理想の子供数を持たない理由」
*3 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」 私立全日制高校の「学校教育費」年額
※掲載されている内容は2025年7月時点の情報です。
監修者
浅野 剛あさの たけし
進研ゼミ 高校受験総合情報センター センター長