2024.3.6

PISAとは?これまでの日本の順位や調査のポイントを解説

世界の15歳はどんな学力を身に付けている?日本の15歳は世界と比べてどんな強み・弱みがあって、ランキングでいうと世界で何位?——そんなことがわかる国際調査「PISA」の最新の結果が2023年12月*に発表されました。世界中がその結果を注目する「PISA」とはどのような調査なのでしょうか。

世界中が注目!4年ぶりに実施された国際調査「PISA(ピザ)」とは?

「PISA」とは、国際機関であるOECD(経済協力開発機構)が行う世界的な学力調査です。Programme for International Student Assessmentの略称で、日本語の正式名は「OECD生徒の学習到達度調査」です。大抵の人は「ピザ」と言います。2000年から3年ごとに行われ、2022年に行われた最新の調査は8回目。日本は初回から毎回参加しています。参加国・地域 は回を追うごとに増加しており、2022年の調査では81か国・地域が参加しました。調査の目的は、義務教育を終える15歳までに学んだ知識や技能を、実生活でどの程度活用できるかを測ること。調査の結果を国別に比較することで、各国が自分の国の強みや弱みを知り、よりよい教育をつくっていこうとしています。実際に 、日本の教育カリキュラムの基準となる学習指導要領などにもPISAの結果から得られた 知見が反映されています 。

調査方法は? ~3つの分野+アンケートをコンピュータで回答~

PISAは、問題に対して答えを求めるテスト形式の調査と、アンケート形式で質問に答える質問紙調査の2つから成り立っています。テスト形式の調査は、「科学的リテラシー」「読解リテラシー 」「数学的リテラシー」という3分野があります*1。毎回、3分野とも調査しますが、3つのうち1つの分野を重点的に調査。2022年の回は数学的リテラシーが中心でした。質問紙調査は、テストを受けた生徒とその学校(長)を対象に行われ、勉強に関する意識や態度、家庭や学校での学習環境などに関するアンケートに答えます。

2015年からは、それまでの紙とペンを使う方式から、コンピュータ上で出題と回答を行う「CBT」というやり方に変更しました。さらに、2018年調査の読解リテラシー、および今回の数学的リテラシーのテストでは、受検者の解答結果に応じて出題内容を変える「多段階適応型テスト(MSAT)」の手法を導入。これにより測定結果の精度がアップしました。

日本では高校1年生が調査の対象です。ただし、実際は全国からランダムに選ばれた学校の生徒約6,000人が受検します。所要時間は合計4時間弱。調査の目的が国単位での教育の質改善ですから、個人の結果が単独で扱われることはありません。

これまでの調査結果より、日本の順位は? ~15歳の学力は世界トップクラス~

最新の2022年調査では、日本は科学的リテラシーが2位、読解力が3位、数学的リテラシーが5位でした*2。1つ前の回の2018年調査では、科学的リテラシーが5位、読解力が15位、数学的リテラシーが6位。2018年より前の結果をふまえても、日本の15歳の学力はOECD加盟国中トップクラスを維持しています。一部の報道で「日本の読解力が低下した」といわれたこともありますが、長期的な傾向としては低下しているとは言い切れません。

日本とOECDの平均得点の推移(調査開始時-2022年) 出典:国⽴教育政策研究所「PISA2022のポイント」

また、長期トレンドとして国際的な平均得点が低下している中、日本は高水準をキープしています。しかも、ここ2回の調査結果を見ると、科学的リテラシーと数学的リテラシーについては、得点が低い生徒の割合は少ないまま、得点が高い上位層の割合が増加。日本の生徒が成績の上位に入っている割合は参加国中トップクラスでした。日本の人口は世界11位と非常に多いことをふまえると、日本は科学者の卵の人数がアメリカや中国に並んで最も多い国の一つなのです。*1

「日本は、科学者の卵が米国・中国に並んで最も多い国である」

このように、日本の教育は世界的に見て上位にあり、日頃の学校教育や家庭教育の成果が調査結果にも表れているといえるでしょう。

*1 OECD PISA2018公開資料より

*2 OECD加盟国(37か国)に絞って比較した日本の順位は、2022年は科学的リテラシー1位、数学的リテラシー1位、読解力2位。2018年は科学的リテラシー2位、数学的リテラシー1位、読解力11位。

これまでの調査結果より、日本の課題は?

一方で、日本の教育の課題も見えています。たとえば、授業でICTを使う頻度が、他国・地域よりも低い傾向にありました。特に国語の授業での利用頻度が低く、少なくとも授業の半数以上でICTを使う割合は、OECDの平均が27.3%だったのに対し、日本は15.2%にとどまりました。

2022年の質問紙調査の結果からは、日本は科学が好きな生徒や、将来科学者になりたいと思う生徒が非常に少ないことがわかっています。AI化が進む社会で活躍できる人材の育成が急がれる中で、このような結果は残念です。魅力あふれる理数教育やデータサイエンス教育の強化が必要です。

また、自ら学ぶ意欲や自信に欠ける生徒が多い傾向も浮き彫りになりました。学校が再び休校になった場合に、「自力で学校の勉強をこなす自信」「自分で学校の勉強をする予定を立てる自信」が「ない」と答えた割合は、それぞれ約6割にのぼりました。これらの複数の質問項目を統計的に処理して、自律的に学習する態度や自己効力感をOECDがスコア化したところ、日本はOECD加盟国37か国中34位と低い結果でした。学習意欲、主体的な学びといったキーワードが引き続き日本の学校教育においても最重視されることは間違いないでしょう。

まとめ:PISAの結果は国別ランキング以外にも注目して

日本はこれまでも、「全国学力・学習状況調査」「GIGA スクール構想 」など、PISAの結果を 活用して日本の教育政策を改善してきました。今後も同様に、PISAの結果をふまえて教育の質をより高めるための政策を検討していくでしょう。教育カリキュラムの基本的な方向性や、高校教育改革、学校規模の適正化や不登校への対応、ICTの利活用や教育に関するデータ活用度のアップなど、関係するテーマは多岐にわたります。次回のPISAは2025年。結果は2026年に公表される見込みです。調査のやりかたや柱となる領域は2022年と同じですが、科学的リテラシーが重点的に調査・分析される点が異なります。*3 国別の学力ランキングに一喜一憂するだけではなく、PISAの結果を国がどのように活かす のかまで注目できたらいいですね。

*3 2022年調査は数学的リテラシーが中心分野として重点的に調査・分析された。また、2025年調査はオプション調査として、「生徒がいかにデジタルツールを活用し自己学習ができるかという「デジタル社会での学習」能力の測定や、外国語(英語)スキルの測定も予定されている。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2024年3月時点の情報です。

出典:
本文中に掲載した図表は、以下より引用。

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント
P.3 「日本とOECDの平均得点の推移」
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/01_point_2.pdf

OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント
P.3「2.読解力について」
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
国立教育政策研究所
https://www.nier.go.jp/

OECD PISA2018カントリーノート(日本)
p.8「図 6. 生徒の幸福感と成長する思考態度」
https://www.oecd.org/pisa/publications/PISA2018_CN_JPN_Japanese.pdf
OECD
https://www.oecd.org/pisa/publications/

監修者

監修スペシャリスト

こむらしゅんぺい


ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長

1975年東京生まれ。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員との毎週のオンライン対話会「気づきと学びの対話」、中高生との定期的なオンライン対話会「SDGsユース」、中高生との探究的な学びのコミュニティ「ベネッセSTEAMフェスタ」を開催するなど教育イノベータが集まる場を主宰しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな官庁や自治体の委員、大学・高専・高校の委員やアドバイザーを務めており、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
研究実績一覧
監修スペシャリスト

かとうけんたろう


ベネッセ教育総合研究所 主席研究員

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)、ミネソタ大学大学院統計学科修士課程修了(統計学修士)、ミネソタ大学大学院教育心理学科博士課程修了(教育心理学博士)。ミネソタ大学在学中にEducational Testing Serviceでインターンを経験。
2009年(株)ベネッセコーポレーション入社後、種々のアセスメント商品の開発・運用に測定の専門家(サイコメトリシャン)として関わる。並行して教育測定に関する研究活動・学会活動(学術誌編集委員)や、大学非常勤(東京大学他)などの教育活動を行う。2022年より現職。

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