科学的な実証に基づいた「効率のよい勉強法」とは?

これまで、復習は「その日のうちにすぐ」やるのがよいといわれてきましたが、近年の研究では、復習は「すぐ」では効果が薄いことがわかってきたといいます。

『漢字学習から算数、英語、プログラミングまで 進化する勉強法』の著者で、実験心理学の専門家である日本女子大学の竹内龍人教授に、効率のよい学習法についてうかがいました。

脳のしくみに合った学習法なら無理なく効果が上がる

効率のよい学習法に興味がわいたのは、実は私自身の大学受験失敗がきっかけです。幼稚園からの一貫校に通っていたのですが、大学は外部に進みたかったので受験したところ、国立も私立も見事にすべて不合格だったのです。
「あと1年でどうしても合格しなくては」「最短の時間で、最大の効果を得るためにはどうしたらいいんだろう」……浪人時代、そのことがずっと頭にありました。「効率的な学習法とは?」それが結局、現在も続く研究テーマとなったのです。

私の専門である実験心理学は、実験により、人間の心のはたらきや認知機能の解明を目指す学問です。実験心理学のよいところは、科学的な実証をもとに、人間の脳のしくみに合ったベストな学習方法を探究できること。体のしくみに合ったスポーツの練習法を探究するのと同じです。

たとえば、人間の腕や肩のつくりからして、下から上へ振り上げるアンダースローより、上から下へ腕を振り下ろすオーバースローで投げるほうが、スピードが出ます。野球がうまい、へたに関わらず、その人なりに速い球を投げられるようになる方法は共通しているのです。

「勉強時間のわりに成績が上がらない」「そもそもなかなか勉強を始めない」など、保護者のかたから勉強法について相談をいただくことがあります。成績が上がらない理由は人によって違いますが、学習の効率を上げるため、万人に役立つ考え方としてぜひ知っておいていただきたいのが「分散学習」「テスト効果」です。

同じことを「勉強しすぎる」と効果が薄れる?復習のベストタイミングとは

記憶を定着させるために「復習」は大切です。昔から、復習はすぐにしたほうがよいといわれてきました。ところが、同じような内容の学習を時間を空けずに行うと、「勉強しすぎた」ことになり、結果として学習効果が早く消えやすいことが実験からわかっています。

つまり、復習は少し時間を空けたほうが効果的なのです。このように、同じ内容を時間を空けて学習することを「分散学習」といいます。
では、ベストの復習のタイミングはいつなのでしょうか? 

アメリカの研究者による2008年の実験では、1300人余りの参加者を「復習の7日後にテストをする」グループと、「復習の35日後にテストをする」グループに分け、学習後、いつ復習すると最も高い得点が取れるかを調べました。
すると、「7日後にテスト」のグループでは2、3日後に復習をした場合、「35日後にテスト」のグループでは約10日後に復習をした場合に最も高得点が得られました。学習の直後に復習を行った場合は、どちらのグループでも、最も復習の効果が見られませんでした。

つまり、ベストの復習タイミングはテストまでの期間によって変わるのです。この実験からは、学習~復習までの期間と、復習~テストまでの期間をおよそ「1:4」にすると、最も効果が高くなることがわかりました。しかし、ベストのタイミングを外したとしても、復習の効果は大きいのです。

同じことを続けるより、違う種類の学習を組み合わせて

学習計画を立てるときも、同じことを長時間やり続けるのではなく、たとえば「歴史の基本事項の暗記」と「数学の問題演習」というふうに、違う種類の学習を組み合わせたほうが効果が上がります。このことはスポーツや音楽の練習でも同じです。

ピアノの練習についてのこんな研究があります。実験参加者には、8曲を「1曲ずつ何回も練習して確実にマスターしていく」方法、「各曲をバラバラに少しずつ練習する」方法の二つで2日間練習してもらいました。
すると、参加者の多くが「1曲ずつ確実」のほうが効果的だと予想していたにも関わらず、2曲目を何回か練習したら、(たとえ2曲目はまだマスターしていなくても)次は8曲めを何回か練習……というふうにバラバラの順番で練習したほうが、より正確に速く弾けるようになったのです。

「テスト効果」を上手に使う

テストは、一度学習したことを思い出し、使ってみる作業といえます。最近の研究では、「テストを受けるだけで学力が上がる」ことがわかっています。教科書や参考書をただ読んで覚えるよりも、テストを利用して自分で思い出す努力をするほうが、ずっと効果的なのです。何かを暗記するとき、マーカーを引いた重要語句をシートで隠して、覚えているかどうか確かめたりしますね。あれも、「テスト効果」を使った学習法といえます。

なぜテスト形式の復習が効果的なのでしょうか? 実は、脳にとって「覚える」ことと「思い出す」ことは別の作業。テストとは蓄えられた記憶を「思い出しやすい」「使いやすい」形に変形する作業なのではないかと考えられています。

スポーツにたとえれば、テスト形式の復習は実戦形式の練習に似ています。基礎事項を理解し、漢字や英単語、社会や理科の重要事項などを手で書いたり、声に出したりして暗記することは必要で、これらはいわば素振りやドリブルといった基礎練習にあたります。基礎練習は大事ですが、それだけではスポーツは上達しません。実戦形式の練習をうまく取り入れることが大切なのです。

ちなみに、問題を考えてみて、わからなければすぐに答えを見てしまっても構いません。それでも思い出そうとする「テスト効果」は使えているからです。間違えた問題については、時間をおいて再テストすることで、より正確な記憶が強化されます。

プロフィール

竹内龍人

竹内龍人

日本女子大学人間社会学部心理学科教授。博士(心理学)。1964年生まれ。京都大学文学部心理学専修卒業。東京大学大学院、カリフォルニア大学バークレー校心理学部、日本電信電話株式会社(コミュニケーション科学基礎研究所)を経て現職。認知心理学の研究に取り組む。

■書籍紹介



漢字学習から算数、英語、プログラミングまで 進化する勉強法

「実験心理学」の科学的根拠にもとづく、子どもの心や脳にとってベストな学び方を紹介します。2020年からの教育改革にも対応し、英語やプログラミング学習など最新の話題にもふれつつ、「学業や社会的に成功するカギは?」「本当に身につく勉強法は?」「やる気を高めるには?」「興味を持たせる工夫は?」など、すぐに実践できて効果を上げられる勉強法やアイデアを収録しています。
https://www.seibundo-shinkosha.net/book/general/20899/

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