メタ認知とは? トレーニング方法と子どもの発達段階についても紹介
子どもが主体的に学習を進めるには、「学習動機付け」「良い勉強方法を身につけること」「自分を客観視する力を育てること」が重要。特に「自分を客観視する力」を「メタ認知」と呼びます。メタ認知は学習にどのような効果があるのでしょうか? メタ認知の育み方とともにお伝えします。
この記事のポイント
メタ認知とはどんな意味?
「メタ認知」は、一言で言えば「自分を客観視する力」という意味です。1976年にアメリカの心理学者ジョン・H・フランベルが提唱した「メタ記憶」という概念が元となり発展してきました。
認知的活動には見る・聞く・覚える・理解する・考える・書くといった活動があります。これらを一段高いところからとらえて、たとえば「どういうふうに覚えると覚えやすいのか」「学習全体はどのように進んできたのか」などを自分の主観的評価から少し離れて振り返ったり評価したりすることが「メタ認知」です。
振り返りを行うには、自分自身の行動や考え方、感情の変化などをとらえる能力、すなわち「セルフモニタリング」の力も必要になります。
メタ認知が高いことで得られるメリット
メタ認知能力が高く、自分自身を客観的に認識できると次のようなメリットがあります。
課題解決能力が高まる
メタ認知能力が高いと、感情に流されず状況を冷静かつ的確にとらえられるため、課題の本質を見抜き、適切な対処を考えられます。そのため、どんな状況にも対応できる柔軟な課題解決力が高まります。これは、ますます変化が激しくなる今後の社会で大いに役立つでしょう。
感情に振り回されない
感情的になりすぎると、何事もうまく進まないものです。その点、メタ認知能力が高いと自分自身を客観視して、冷静に感情を認知しコントロールできるため、感情に振り回されずに安定的な対応ができるようになります。
円滑な人間関係を築ける
相手と自分の相違や、置かれている状況も俯瞰的に把握できるため、適切な配慮を行ったうえで、コミュニケーションを行うことができます。これは1対1の関係だけでなく、チームで協働する際にも効果が発揮されるもの。リーダーとしての役割をはたすことにも役立つでしょう。
メタ認知は小学校高学年から大きく発達する
メタ認知は、小学校高学年から大きな発達が見られます。
メタ認知が発達すると、子ども自身が自分の学習状況や進み具合を振り返り、自分が得意なことや苦手なこと、どのような方法で勉強するのが自分に合っているのかなどを判断・評価できるようになってくるでしょう。
また、それまでは一方的に自分の好きなことを好きなように話していた子が「自分の話があまり相手に理解されていないようだ」と気づき、説明の仕方を変えるといった行動も見られるようになります。
ベネッセ教育総合研究所で行った「小学校高学年の学びに関する調査」で得られた子どものメタ認知に関するデータからも、このようなことがわかります(図1)。
メタ認知の高い子の特徴4つ
では、メタ認知力が高い子どもにはどのような特徴があるのでしょうか? ここでは子どもたちの学習に関わる特徴4つを見ていきましょう。
【特徴1】具体的な目的「なぜそうするのか」や目標を考える
メタ認知が高い子どもは、勉強や行動を始めるにあたり具体的な目的や目標を考える傾向があります。
たとえば、学校の宿題はやらなければならないものですが、メタ認知が高い子は一歩進んで「何のために宿題をやるのか」を考えます。
しかも、「やらないと先生に怒られて自分がいやな思いをするから」という感情面だけでなく、「受験対策で内申書の評定を4以上に上げるため」「宿題の演習を通して知識を定着させるため」「次に学習する単元の基礎知識として習得するため」など、先を見据えた目標や目的まで考えるのが特徴です。
【特徴2】具体的な方法「これは適切な方法なのか」を考える
メタ認知が高い子どもは学習や行動の目的や目標を自分なりに設定するため、それに合った手段となっているかどうかのチェックもできます。
たとえば「宿題の演習を通して知識を定着させるため」を目的に設定した場合、
- ・「友達の宿題ノートを写す」…先生に怒られずに済むが知識が定着しないのでNG
- ・「自分で宿題の問題を解く」…定着には不十分
- ・「自分で宿題の問題を解き、間違えたら正解するまで解き直す」…OK
といった判断ができるようになるということです。
また、どのようなノートの書き方や覚え方が自分に合っているのかを過去の経験から判断し、教科・科目・分野や勉強できる時間に応じて組み合わせることも可能になります。
【特徴3】メタ認知の高い子は学力も高い
メタ認知は、学習の成果にも影響を与えます。
ベネッセ教育総合研究所の調査で、メタ認知が高い子どもほど学習意欲が高い、目指す高校や大学といった具体的目標を持って学習に取り組むといった自律的動機づけによって学習する力があることがわかりました。
さらに、メタ認知が高い子は自分が間違えた問題の見直しや、解き方・考え方の確認、既習範囲の項目と関連付けた学習などを行う比率が高いという調査結果もあります。
学習計画を立てる場合にも、自分の学習状況を振り返ったうえで計画を立てたり、計画がうまくいかない場合に修正したりすることができるようです(図2)。
こうしたメタ認知が高い子どもたちは、テストの成績、思考力、非認知能力においても上位を占める割合が高くなっていました(図3)。
【特徴4】失敗でも成功でも「要因は何か」を振り返る
メタ認知の高い子どもは、目的や目標とそれに合った手段で学習や取り組みを進めて好成績を収める傾向があります。ただ、そうした子でも、いつでも成功するわけではありません。
メタ認知力は、結果が失敗であっても成功であっても、「こうなった要因は何か」を振り返る力でもあります。成功した場合は、目的と手段の組み合わせを次回にも活用できるでしょう。反対に、うまくいかなかった場合はその時点の課題を洗い出し、計画の修正や手段の変更・改善などを試行錯誤することができます。
失敗すると「どうせ私は…」と気持ちが沈んでしまうもの。メタ認知を発揮できれば、次の成功へ向けて一歩踏み出す姿勢が生まれやすくなります。将来、社会人として仕事をする上でも役立つメタ認知のメリットともいえるでしょう。
家庭でできる「メタ認知」の鍛え方・育て方5つ
メタ認知を育てるには、親御さんの役割として日頃の声かけが効果的と言われます。保護者が日常生活の中でできるサポートや声かけを具体的に見ていきましょう。
【1】学習計画表を作成・修正する
メタ認知を働かせやすくする方法の1つは、学習計画表の作成です。
学習計画表は、「いつ」「どこで」「何を」「どのくらい」学習するか、スケジュールを組んだもの。「今、このとき」を超えた視点をもって学習を見渡せる便利なツールであり、毎日のセルフモニタリングのきっかけにもなります。
これまで学習計画表を作成せずに家庭学習を進めていたご家庭は、ぜひ子ども一緒に計画表を作成してみてください。小学生のうちは1週間や1カ月単位の学習計画表でも構いません。
最初はなかなか計画通りに進められず、何回も修正しなければならないこともあるでしょう。しかし、“作成→実行・失敗→修正”のくり返しが、子ども自身に合った学習量や学習方法を見つけやすくしてくれます。
学習計画表の作成とともに日々の学習を記録し、1週間ごとに「今週は何を勉強した?」など、振り返りの時間を設けてみてください。
【2】努力や成長を具体的に褒める
子どもを褒めるときは、具体的に褒めることもおすすめです。
「すごいね」「やったね」という言葉だけでは、結果全体を褒められていることはわかっても、どうすれば次も良い結果を出せるのかがわかりにくいもの。具体的に褒めることで、子ども自身が何が評価されたのか、結果にとって何がプラスになったのかを理解できるようになります。
褒めるポイントは、子ども自身の力で改善できる「努力」や「プロセス」に注目。どういった努力が効果的だったのか、どのようなプロセスでその結果になったのかなど、様々な点でフィードバックすることができるでしょう。
「毎日コツコツ英単語を覚えていたから、スペルを正確に書けて減点が減ったんだね」
「宿題の解き直しを頑張ったから、以前間違えていた問題でもきちんと正解にたどり着けたね」
このような具体的な評価を意識することで、「そうか、毎日やっていたアレか」「宿題の解き直しが効いたのか」とメタ認知を働かせる機会が得られ、成功体験も増やすことができます。
【3】失敗したら叱るよりも分析を
子育ての中で、子どもを叱ることは多いもの。しかし、メタ認知を育てるためにはただ叱るのではなく、なぜ子どもが失敗したのかを一緒に分析してあげることが大切です。
分析をするには、子どもがどのような問題に対して、どのように取り組んだのかを確認しましょう。子どもの取り組み方で失敗につながったところを一緒に分析し、「次、同じ失敗を避けるには何をするといいのかな」と質問をしてあげてください。
子どもは大人ほどの経験がないので、大人から見れば間違った答えや再び失敗につながることを答えるかもしれません。もし安全上問題がないのであれば、子どもが提案した方法を試してから再び検討するとよいでしょう。
安全や時間的猶予の関係で失敗しないほうがよいのであれば、「その方法だと、こうなるかもしれないなあ」「これを避けられるようにするには、どうすればいいかな」等、アドバイスしてあげましょう。
【4】他人の意見の聞く姿勢を養う
自分だけの主観的視点から抜け出して一段高いところから物事を見るには、他人の意見を聞くことも大切です。
他人の考え方、さまざまな視点を知ることで自分の考え方や特性を相対化し、傾向を見つけたりより深く理解したりできるようになります。周りの意見が正しいか間違っているかを即座に判断して反応するのではなく、「どのような考え方があるのか」に注目して聞けるようになるとよいでしょう。
そのためには、まず親御さんが子どもの話を最後まで聞くこと、間違っていても即座に否定するのではなく、「ここは、どうなっているの?」と質問をして本人の考えを引き出すことを意識してみてください。
子どもから質問されたときは、「そういうものなんだよ」という答えをなるべく避け、可能な限り理由を説明してあげるようにしましょう。理由を説明しにくい場合は、「調べてみようか」などと提案し、子どもと調べ方を相談してみるとようでしょう。
【5】1日の学習を5分ほど振り返る
メタ認知を育てるための声かけは、テストや発表会などの大きなイベントがあった時だけでなく、日常生活のちょっとしたところでも可能です。
たとえば日々の家庭学習で、
「今日は何ページやったの?」
「今日勉強したところで簡単だったところはあった?」
「苦手に感じたところはあった?」
など、子ども自身がメタ認知を働かせるきっかけになる言葉をかけてあげましょう。
ただ、あまり細かく聞くと「しつこい!」と嫌がる子もいるかもしれませんね。振り返りは5分程度の会話で構いません。
もし子どもからの報告に褒めポイントが入っていたら、「今日5ページもやったの? すごい進んだね」「得意な分野が見つかってよかったね」など、遠慮なく褒めてあげて。学習の進め方で困っている様子なら、「前回はこういうやり方がうまくいったって言ってたよ」など以前成功していたやり方や考え方を確認してみるとよいでしょう。
親御さんが資格勉強や読書を進めている場合は、親子で「今日はこのくらいやった!」と報告し合うのも励みになります。
まとめ & 実践 TIPS
子どものメタ認知を鍛えるには、日頃から学習計画を立てたり振り返りを行ったりすることが重要です。
子どもはさまざまなことで失敗や成功をくり返し、知識とスキルを身につけていきます。その中でメタ認知を発揮できれば、成功や失敗に一喜一憂するだけでなく、どのような点が特に影響したのかを分析して次に生かすこともできるでしょう。
親御さんの役割は、そうした視点を子どもに意識させつつ、子どもを褒めたりアドバイスしたりすること。メタ認知を育むことで、将来の勉強や仕事も効果的に進めやすくなるでしょう。
出典:ベネッセ教育総合研究所「小学校高学年の学びに関する調査」(2019年)
調査対象:全国小学4年生~6年生とその保護者3,004名