2024.6.13
探究学習とは? 取り組む意義や具体事例を解説
今、高校はもちろん、幼・小・中学校も含めた学校教育の目玉となっているのが「探究学習(探究的な学び)」です。小・中・高校では「総合的な学習(探究)の時間」という科目が必修となり、それ以外の教科・科目、各種活動においても探究学習が行われるようになりました。「探究学習」の概要や重視されるようになった背景、子どもたちがどうなることを目標にしているのかなどについて解説します。
この記事のポイント
探究学習はプロセスが重視される
探究学習とは、生徒自身が自分で問題を設定し、その問題を解決するために情報を収集・分析し、意見を交換したり協働したりしながら進める学習活動のことです。反対に、探究的でない学びとは、先生が答えを知っており、教科書を使った講義を受けて、正解が決まっている問題を解くような授業を受けることだと言えます。
探究学習では、あらかじめ決められた正解がない中で答えを考え出す活動を通して、導き出した結果だけでなく、どうやってそこにたどり着いたのかのプロセスが非常に重視されます。
※出典:【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説
探究学習が注目を集める背景
グローバル化やデジタル化が進み、社会の変化が激しく予測不可能になっている中で、従来は重視されていた「同じ内容を正確に早くこなす力」よりも、より複雑でなかなか答えが出ない「難しい問題に取り組む力」が重視されるようになりました。
この動きは世界共通で、たとえばOECD(経済協力開発機構)が15歳を対象に行っている国際的な生徒の学習到達度調査(PISA)では、単なる知識を問うのではなくその知識を活用する問題が出題されています。PISAの2022年度の出題でも、バスケットボールのチームの成績に関する新聞記事をもとに、試合結果に関する推論を行い、理由まで説明する問題が出題されています。※
探究学習のメリット① 学びの自由度が高い
探究学習の最大のメリットは、生徒自身が探究するテーマを決められることです。従来は、決められた課題(宿題)をこなし、その速さと量が評価されてきました。探究学習では、自分がやりたいことや、興味・関心を持っていることについてじっくり学ぶことを目標としています。そのため、決められた課題をこなす時よりも学びの質が高まり、学びそのものへの前向きな姿勢を持ち続けることができます。また、自分自身が何に没頭できるのかを知るきっかけづくりにもなります。
探究学習のメリット② なぜ勉強しないといけないの?がわかる
もう一つのメリットは、身に付けた知識を実際に使って問題を解決することで、勉強したことと実社会との結びつきを実感しやすくなることです。たとえば、三角関数は、公式を覚えて問題を解くだけでは関数という概念の意味や社会のどこで役立っているかがわかりません。しかし、人工衛星のGPSがなぜ機能するのかに興味を持った場合、そこに三角関数が重要な役割を果たしていることを知り、よりよい機能の開発に役立つのだな、と学校で学んだことの意義を実感できます。
近年、なぜ勉強するのかわからず、学習意欲が低下している子どもの増加が言われていますが、探究学習によって勉強の意味や将来に役立つことを知り、日々の学習にも前向きに取り組むことが可能となります。
探究学習の進め方——段階的な学びにこだわる必要はない
探究学習には、課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現、という基本的な学習サイクルがあります。このサイクルを回して学びを深めていくわけですが、ポイントは、段階的な学びではなく循環的な学びであるということです。
段階的な学びとは、まず1けたのたし算ができるようになってから2けたのたし算を習うというように、スモールステップで難易度を上げるやり方です。一つひとつ階段を上っていくような学び方だとも言えます。
一方の循環的な学びでは、目標に対する知識が十分でなくてもまずはやってみて、やりながら知識を得てもよい、どこから始めるかではなくサイクルを回すことが大切だとするアプローチです。探究学習では、この循環的な学びを大切にしています。
基本的な学習サイクルを必ずしも順番どおりに進める必要はなく、知っている情報をまず整理・分析してみて、足りない情報があることに気付いたらそれを新たに収集すればよいのです。変化が著しい社会において、すべての条件がそろわないと次のステップに進めないのでは間に合わないかもしれません。考え、動きながら、変えるべきところは変え、結果を振り返ってみて、またさらによいやり方を考えるといったサイクルを回し続けることが大切なのです。
学校での取り組み事例
たとえば、東京の郁文館グローバル高校の高校生が取り組んだのは、若い人たちがもっと選挙に関心を持ち投票率を高めるためのオンライン選挙の仕組みづくりです。情報漏えいリスクを考え、最新の暗号資産技術を使えばよいことがわかりましたが、生徒たちは技術を使いこなすスキルがありません。そこで、必要なプログラミング言語を学び、システムを構築することにしたのです。このように、知識やスキルがないからチャレンジしないのではなく、学び進めながら必要と感じたことを習得していけばよいのが探究学習の特徴であり、醍醐味と言えます。
【第1回】プレインタビュー 郁文館グローバル高校「NFTと選挙」-ベネッセSTEAMフェスタ
課題は、学びの成果をどう評価するか
学びの自由度が高いが故に、探究学習の成果をどう評価するかは難しいところです。「よい」の基準が幅広いからです。たとえば、とても独創的なアイデアの作品と、自分や周囲に大きな影響をもたらした作品、学術的な論文の書き方が優れている作品はどれも高く評価されるべきですが、それらを一律の基準で評価し優劣を付けることはできません。
ベネッセが毎年行っている探究学習のコミュニティ「ベネッセSTEAMフェスタ」には、全国の中高生による探究学習プロジェクトが全国から多数参加します。しかし、一律の基準で優劣を付けることはせず、エントリーする部門も、学術性を問うアカデミック部門、社会をよりよくする活動を問うソーシャルイノベーション部門、創造性を問うメイカー部門の3つに分けています。
指導する立場の先生方は、そうした複眼的な評価軸を持って生徒たちの学習成果を認めることが大切です。また、設定した課題の意義そのものを評価してしまったり、扱うテーマから評価の観点を決めてしまったりするケースが考えられます。しかし課題設定のよしあしではなく、その課題にどう向き合い、解決に向かおうとしたかを評価することも重要なポイントです。
生徒を主役に、指導者も一緒に楽しみ、気付き、考える
探究学習の主役は、教師ではなく生徒です。教師が黒板を前に教科書の内容を教える従来の学習とは全く異なります。たとえて言うなら、生徒がシェフで教師は味見役です。シェフが創意工夫して作ったオリジナル料理を味見役は試食し、おいしいことを伝え、改善点があれば伝えたうえで最後までおいしく食べきりましょう。
そこでは、はじめから生徒にレシピを渡すなどのお膳立ては不要です。調理のプロセス自体を教師も楽しみましょう。一緒に新たな作品を作る、そんな心もちで生徒の学びを広げ深めていきたいものです。
取材・執筆:神田有希子
※OECD 生徒の学習到達度調査(PISA)2022年調査出題例|国立教育政策研究所
※掲載されている内容は2024年5月時点の情報です。
監修者
小村 俊平こむら しゅんぺい
ベネッセ教育総合研究所
教育イノベーションセンター長
これまでにさまざまな官庁や自治体の委員、大学・高専・高校の委員やアドバイザーを務めており、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
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