2024.8.30
ネットリテラシーとは?教育の重要性と「学年別」家庭での教え方を専門家に聞いた
これからますます進化するネット社会を生きる子どもたちにとって、インターネットとどう向き合い、活用していくかは大切な課題です。学校でも情報活用能力の指導が行われていますが、限られた時間や環境の中で、必要なことをすべて学べるわけではありません。とりわけ「ネットリテラシー」と言われるスキルは、保護者のかたのサポートにより早いうちから家庭で取り組むことが重要になります。
今回は、全国の学校や企業でネットリテラシーに関する講演を行っている、国際大学GLOCOM客員研究員 小木曽健さんにお話を伺いました。
この記事のポイント
ネットリテラシーとは? なぜ重要?
小木曽:ネットリテラシーとは、インターネットを適切に使いこなす能力のことです。ネット上のさまざまな情報を判断したり、適切な情報発信ができる能力を意味します。現代社会における狩猟能力のようなものだと思って下さい。
子どものネット・スマートフォンの利用実態
東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で行った調査によると、家でのインターネット利用率は小学4年生~6年生で93.3%、中学生は96.7%、高校生は97.7%です。
個人でスマートフォンを持つ割合も小学4~6年生ですでに4割弱、中学生は8割、高校生は9割以上にのぼります。
また、利用用途を見ると小学4~6年生の2割弱、中学生の4~5割、高校生の6割は、ほぼ毎日チャットやSNS を使って人と交流しているという結果も。
今の子どもたちにとって、ネットはまさに生活とは切り離せない存在な上、ネットを通じて知らない人と交流する機会は非常に身近なものとなっています。
※データおよび図は「子どものICT利用に関する調査 2023」(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所)より
※ICT機器とは…情報通信技術を用いた機器のことで、パソコンやスマートフォンなどのことを指す用語。
※調査結果で使用している百分率(%)は、各項目の算出方法に沿って出した値の小数点第2位を四捨五入して表示しているため、数値の和が100 にならない場合があります。
ネットリテラシーは何歳から必要?
小木曽:子どもがインターネットに接するということは、繁華街を一人で歩き回るようなもの。ネットは便利な道具である一方、誤った接し方をすると事件に巻き込まれたり、場合によっては加害者になったりする可能性もあります。だからといって使用を避けたり、いつまでも親がそばで見守り続けたりするわけにもいかないでしょう。
そう考えると、子どもが親の話を「比較的」素直に聞いてくれる小学生のうちから、ネットリテラシーについて教え始める、親子で一緒に考え始めることが重要になります。
子どもに伝える前に知っておきたい、ネットリテラシーの基本のキ
小木曽:一般的にネットリテラシーは、間違った情報を見抜くスキル、テクニックと思われがちです。
もちろんそういった面もあるのですが、残念ながらこの数年で「フェイクニュースを見分ける」ことは格段に難しくなりました。
かつては、信頼できる専門家が発信した情報なのか、添えられた画像は流用ではないか、といった点をチェックすることで、ある程度はフェイクかどうかを判断できましたが、生成AIの普及などで、今やそれらの手法ではほぼ対抗できなくなっています。
ネットに限らず、そもそも情報は「本当」「ウソ」の2種類で構成されている訳ではありません。立場や考え、主義によって、本当でもウソでもない「どちらでもない」と言える情報が必ず存在します。
そこにフェイクニュースが加わるのですから、情報の真偽を判断するのは、もはや大人でも難しいでしょう。
フェイクニュースには「人に教えたい」「意外だ」「許せない」といった、思わずシェアしたくなる要素が組み込まれています。無防備に接すると、フェイクに騙され、拡散の担い手になってしまいます。そこで、即断しない「保留力」が重要になってくるのです。
これは決して、情報の見極めを「あきらめる」という意味ではありません。ほんの数日、様子を見てほしいだけです。その間にエビデンス(その情報の根拠)を持っている人たち同士が議論し、必要なら訂正してくれるでしょう。それまでの間は手を止め、その情報と距離を置き判断を保留する。そうすれば、もしそれがフェイクでも拡散に加担せずに済むのです。
これは私たちがフェイクニュースと戦うための手段でもあります。
ネットリテラシーを家庭でどう伸ばす? 学年別に解説!
小学2年生以下の場合
小木曽:ネットリテラシーを学ぶためには、ここまでお伝えしてきた情報の本質や、情報によって深刻な事件や事故が起こりえることを理解する必要があります。
ただ低学年でそこまで理解するのは難しいので、情報の扱い方の前に、情報機器そのものの正しい使い方を伝えることから始めましょう。
操作方法はもちろん、家族で決めた利用時間の約束を守る、使ってはいけない場面(食事中など)を知るといった、生活のルール面からスタートしてください。タブレットもゲーム機も、ペアレンタルコントロール機能(保護者向け管理機能)を積極的に活用し、約束を守れない場合は機能を止めるなど、毅然とした対応が重要になります。
また端末を濡らす、押し付ける、ランドセルに押し込んで曲げてしまうなど、どうすれば破損してしまうかもしっかり伝えましょう。その破損がバッテリーにまで及ぶと発火する恐れもあります。そのリスクもしっかり伝えてあげて下さい。
小学3・4年生の場合
小木曽:この年頃の子どもは、ネット上の情報を、大人以上に素直に受け止め、信じてしまいます。身近で分かりやすい例えを使いながら、ネットを使う際の初歩的な注意事項を教えましょう。
以前、オートバイ好きの男性が、アプリを使って自分の画像を女性に加工してSNSに投稿、大人気のアカウントになったことがありました。もちろん冗談でやったことですが、多くの人はそれに気が付きませんでした。こういった「事実と全く異なる情報」の具体的な例を挙げ、ネットの情報すべてをそのまま受け入れることのリスクを伝えることは重要です。
また、ある場所を撮影した写真を見せ「ここがどこかわかるかな?」と聞いてみるのも良いです。「ここはマンホールの柄が××だから〇〇だよ」「背景にお店の名前が写っているよね」など、映り込んだ情報から場所を特定されかねないことを伝えましょう。
ネットには「本当の顔をしたウソ」があること、ネットは「載せたつもりのない情報も伝えてしまう」ケースがあること、これらを伝えておくことは非常に重要です。
小学5・6年生の場合
小木曽:小学校高学年は、スマートフォンなど自分専用の端末を手渡すか、判断に迷う時期でしょう。子どもに端末を手渡す場合は、まずは「お試し」として、期間を区切って使わせるとよいです。
そのお試し期間を活用して、使い方の問題点や起きてしまったトラブルを、都度ルール化していくと、自動的にその子どもに合ったルールが完成します。冷蔵庫などに「我が家のスマホルール」などと書いた白紙の紙を貼り、問題が起きる度に書き足していくと、より効果的でしょう。ルールが〇個以上になったらお試し終了、といった約束を交わしておくことも重要です。
また必ず実行して頂きたいのが「お試し」が終わったら、いったん端末を回収すること。「お試し」は、親が安心できるまで何度でも繰り返しても良いのです。使い続ける場合も、お試し中だと分かってもらうために回収してまた渡す。これは重要な儀式になります。
一点、白紙のルールに、保護者のかたのほうから最初に書き込んで欲しい項目があります。「自宅の玄関前に貼れるものは、ネットに書いてもよい。貼れないものは、ネットに書いてはいけない」。
ネットは不特定多数の人が目にする場所、つまり「外」であり、また問題を起こせばほぼ間違いなく個人が特定される場所でもあります。家の「外」で個人を特定される場所=玄関ドアに、堂々と貼れる内容でない限り、ネットには載せない。これは自分や周囲の人たちを守るためにとても大切なことです。これを理解、約束できないうちは、端末を手渡すことは控えましょう。
高学年くらいから「ウチとよそ」という感覚を理解できるようになるので、このフレーズはイメージしやすいと思います。
また、アップル社やグーグル社などが無償で提供している保護者用の管理アプリは必ず入れて下さい。
保護者はネットリテラシーをどのように身に付けていく?
小木曽:ネットリテラシーが重要なのは子どもだけではなく、保護者のかたも同じですが、あまり肩ひじを張らず、「良い機会なので子どもと一緒に学ぶ」くらいの気持ちでよいと思います。
ネットにネット特有のモラルはありません。日常でやってよいことはネットでもOK、日常でやらないことは、ネットでもやらない。迷った時はこれを判断基準に考えていくとよいでしょう。
大人がやるべきことは、ネットの世界で起きている「子どもを狙った犯罪」の最新状況を知ること、それをお子さんに伝えることです。ネット上で大人に狙われる子どもの多くは「騙されて」被害に遭っています。つまり本人に非が無いケースが多いのです。具体的にどういった手口で、どんな風に騙され、どんな被害に遭ったのか、ニュース報道などから得られる情報を適切に伝えてあげて下さい。
その際「騙された子も悪い、スキがあった」などのニュアンスは厳禁です。いざという時に相談されなくなってしまいます。誰でも被害に遭うのだという感覚を、日頃から親子で共有しておきましょう。
無理のない範囲で構いません。新しい情報にもアンテナを広げながら、少しずつネットリテラシーを積み重ねていきましょう。
取材・執筆:神田有希子
※掲載されている内容は2024年8月時点の情報です。
監修者
小木曽 健おぎそけん