不登校で子どもが負った心の傷 どんなプロセスで回復していく?[不登校との付き合い方(15)]

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不登校になった子どもは、自宅でどのような時間を過ごすのでしょうか。不登校によって、心が大きく傷ついていることは、この連載でも伝えてきました。それでは、実際に不登校になったとき、家で子どもはどんな時間の過ごし方をするのでしょうか。「不登校新聞」編集長の石井志昂さんに伺いました。

この記事のポイント

不登校になるということは、一番苦しい危機状態から脱したサイン

まずは不登校になった瞬間から、心の回復が始まります。多くの人がイメージするのは、不登校になった日から心の状況が悪化していく様子かもしれません。でも、本人にとっては、学校に行かないことによって、一番の危機を脱したことになります。

本来なら、動物は本能的に危険を察知すると、それを避ける・逃げるという行動に出ます。苦しいのにその場から離れられないというのがいちばん危険だからです。学校に行っている間は、学校から離れたいのに離れられない状態で、いちばん危険な状態。不登校になり、学校から距離をとった瞬間から、回復が始まるというわけです。

学校に行かなくなってからは、見た目にはほんとうに大変な日々が続きますが、心の回復は始まっているのです。

まず体の回復、そして心の復調へとつながっていく

学校を休んだ直後は、眠れなかったり、イラ立ちが止まらなかったりと苦しい状態になります。しかし、それは、「膿みを出す」というような時期なのでしょう。不登校になったから苦しいというよりは、不登校になるまでに受けた傷が苦しい、深刻であったということを意味します。

もし、学校を休んで寝てばかりいるとしたら、それは極度な緊張で疲れ果てた体を休めている状態です。ほんとうに十何時間も眠り続けることもあり、心配になるかもしれませんが、これは安心しているからこそ眠っているのです。

今まで蓋をしていた心の傷が一気に開くので、本人の意図とは関係なく、朝ぜんぜん起きられない、だるいといった様々な症状が出ます。体の回復期は、本人の体調を優先して、無理に生活リズムを立て直そうとせず、できるだけ、本人のペースを尊重してあげてください。

感情を噴出させてようやく言語化できるようになる

そのあとに感情の噴出という時期に入ります。ものすごく甘える、突如として怒り出したりする、突然泣き出す、こんな風に感情のコントロールができない状況になります。

周りからすると心配になるのが、甘える、泣き出すといった行動。小学校高学年でも、まるで赤ちゃん返りしたように甘える人もいます。フラッシュバックが起きたように泣くこともあり、コントロールできません。この期間について小学校6年生の男子が、「自分でもイヤイヤ期みたいだった」と話すのを聞きました。

こんなふうに感情が噴出しているときには、保護者はそばについているしかありません。とても大変ですが、本人の苦しんでいる気持ちに付き合うことで、子どもには愛情が伝わってしみこんでいき、心の傷が癒されていきます。

その次にようやく、自分に起きたことを言語化する時期がきます。最初は、まったく脈絡のない話をします。インターネットで見た話だったり、昔自分に起きたことだったり。たとえば、幼いころに、スーパーでほんのちょっとはぐれたという話を、「あのとき僕は置いていかれた」と言って急に泣き出すようなこともあります。そうしてたくさん話をしたあとに、学校で起きた話をするようになります。

その話は、とても長くて回りくどいかもしれないけれど、まわりの人はひたすら最後まで聞くしかありません。本人はアドバイスがほしくて話しているのではなく、ただ気持ちの整理をしたいだけなんです。

言語化の時期が終わると突然、親離れ、支援者離れします。急に何の音さたもなくなり、「次の休み、帰ってこないの?」と聞くと、「いやぁ、コロナが流行っているから」と答えたりするわけです。やっと不登校が終わり、心の傷が癒えたということになります。

傷が癒えるプロセスは、赤ちゃんから大人になる成長の縮図

この回復のプロセスは、必ずしもスムーズに移行するわけではなく、行ったり来たりします。もちろん個人によって違うけれど、ある一定の心理状態のプロセスを経るということが、臨床的にもわかっているそうです。実際に、個別に話を聞いてみても、だいたい似たような経過をたどります。心が回復していく地図のようなものがあって、その段階におおよそ沿って、子どもは不登校から巣立っていくといわれています。これは不登校だからではなく、ほとんどのPTSD(心の傷)と言われているものにおいて起こるものだそうです。

このプロセスは、赤ちゃんから思春期を通って大人になっていく縮図にも似ています。学校で受けた傷は痛いけれども、その傷をもって多くの人は、学びや成長の糧のひとつにしている、と言えるでしょう。

どのくらいの期間がかかるのかについても、個人差があります。私の場合は、4~5年かかりました。その間、私は学校には行きませんでしたが、学校に行く人もいます。学校に行くかどうかといったことはゴールではないことも覚えておいてほしいです。

心の傷は、時間が長くかかっても癒えるかどうかが肝心です。段階を踏みながら、本人が気持ちの整理をつけて、成長していくということなのです。

まとめ & 実践 TIPS

子どもが不登校になったとき、まず体を休める時期があります。次に、保護者にべったり甘えるなどして感情を噴出させる時期を経て、ようやく、自分に何が起こったのかを言葉にできるようになるのだそう。こうしたプロセスを経ることが非常に大切なので、保護者はあせらず、寄り添うことが大切。学校に行くことをゴールと考えず、見守りましょう。

プロフィール


石井志昂

『不登校新聞』編集長。1982年生まれ。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。17歳から不登校新聞社の子ども若者編集部として活動。不登校新聞のスタッフとして創刊号からかかわり、2006年に編集長に就任。現在までに不登校や引きこもりの当事者、親、識者など、400名以上の取材を行っている。

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