モンテッソーリ教育とは?考え方や教育内容、教具、家庭での実践法も

モンテッソーリ教育は、子どもには自ら育つ「自己教育力」が備わっていると考え、サポートしていく教育法です。100年以上の歴史があり、世界140ヶ国以上でモンテッソーリ教育が行われていると言われています。国際モンテッソーリ教師の資格を持ち、モンテッソーリ教育に沿った子育てに関する発信を行う、あきえ先生監修のもとモンテッソーリ教育の考え方や特徴、家庭での実践法についてご紹介します。

モンテッソーリ教育とは?家庭ではどう実践する?

この記事のポイント

モンテッソーリ教育とは?

モンテッソーリ教育は子どもは自ら育つ「自己教育力」があることを前提とした教育法

モンテッソーリ教育は、「子どもは自ら育つ「自己教育力」がある」と考え、「自己教育力」の存在を前提にした教育法です。子どもが自己教育力を発揮することができるよう、子どもを観察し、今の子どもに必要な適切な環境を用意することが重要です。そのような環境に自ら触れて、自己教育力を発揮することで、個々の自立や自律をサポートしていきます。

考案者と誕生の背景

モンテッソーリ教育は、イタリアの医師であり教育家であるマリア・モンテッソーリ博士により考案された教育法です。

マリア・モンテッソーリ博士は、この時代では大変珍しい女性医学博士です。精神病院に勤務し、障害のある子どもたちの治療・教育に携わる中で、感覚教育法により、知的水準を高めるという大きな成果をあげました。この教育法は障害のある子どもだけに限られるものだけではないとの考えのもと、いわゆる健常児にも適応。1907年に最初の『子どもの家』を設立し、そこに集まったローマの貧困家庭の子どもたちにも教育を行いました。これらの実践を通して、子どもを繰り返し観察しながら築き上げられたのが「モンテッソーリ教育」です。

モンテッソーリ教育の考え方とは?

モンテッソーリ教育の考え方

モンテッソーリ教育は、子どもは誰しも「自己教育力」を備えていることを前提としています。「自己教育力」とは、子どもは自ら学び、自分で自分を育てる力を持っていて、自分に必要な時期に必要な課題に取り組んで成長していくとするもの。

子どもは教えなくても自ら歩こうとしたり、さまざまな動作を覚えたりして成長・発達していきます。自分の成長状態に合わせて必要な事柄に対して感受性を発揮する「敏感期※」があり、適切な環境の中で自ら学び、吸収していくと考えられています。敏感期に応じて「自己教育力」を発揮するには、大人が教えてあげたり、代わりにしてあげたりするのではなく、子どもが自分でやってみて吸収していくことが大切。そのために、モンテッソーリ教育では次の4つの考え方を基本としています。

※敏感期……0〜6歳の乳幼児期によく見られ、ある特定の能力を獲得するために強いエネルギーが出る限られた時期のこと。

1 子どもの自立を促す環境を用意する

子どもが自己教育力を発揮するには、必要以上に大人に頼らなくても自分が持っている力で対応できる環境を準備することが欠かせません。自立につながる主体性は、適切な環境があってこそ育まれるものです。

たとえば、服を選ぶ場合。次のような環境を準備することで、子どもは自分の力で少しずつ自ら選ぶことができるようになっていきます。

● 子どもの手の届く位置に服が置いてある
● 子どもの服だけでまとまっている(父母の服などと混ざっていない)
● トップスやズボン、靴下など分類されて置かれている
● 多すぎたり、少なすぎたりせず、選ぶのに適切な数・枚数で置かれている

2 大人の「やらせたい」でなく、子どもの「やりたい」を大切にする

自己教育力を発揮するためには、子ども自身がやりたいと思う「内発的動機づけ」が欠かせません。意欲・関心に基づいてやってみることが、真の学びにつながります。一方で保護者のかたや先生から「これをやりなさい」と指示されるものや「叱られるからやる」という「外発的動機づけ」では、やらされ感が高まるだけです。

大人はつい「もう何歳だからこれを覚えてほしい」「来年は小学生だからこの勉強をしてほしい」といった思いを押し付けてしまいがちです。また、子どもが「やりたい」といったことにも「危ないからダメだよ」「時間がないからダメ」とコントロールしてしまうこともあります。これらは、子どもを思ってこその言動かとは思いますが、自己教育力を発揮することには繋がりません。

また、子どもの「やりたい」という気持ちは大人が押し付けたり、無理やり引き出したりするものではありません。あくまでも、目の前の子どもを観察して子どもの欲求を見極めるというスタンスをとるのが大切です。子どもの「やりたい」が叶う環境と時間が必要になります。

3 自己選択できる関わりや声かけをする

モンテッソーリ教育は、子どもが自分で選ぶという自己選択を重要視しています。大人が決めるのでなく子どもが自分自身で選ぶ行為こそが内発的動機となり、自立への出発点となります。人生は選択の連続。自分で判断して選び取るという経験を積めるよう意識していくことが大切です。

選択といっても特別なことではなく、何を着るか、どんな遊びをするかといった日々の生活でのちょっとした選択を積み重ねていくことからスタートできます。まずは「こっちとこっち、どっちを着る?」というような2択から始めていけると良いでしょう。

4 「叱る」は「伝える」に、「褒める」は「認める」に

モンテッソーリ教育では、叱ってしつけることや、過度に褒めて伸ばすことは極めて効果が低いと考えます。理由は「叱られるからやろう」「これをやったら親が喜ぶからやろう」と外発的動機づけになってしまったり、褒めてもらうことが報酬となってしまったりするからです。大切なことは、「なぜこのような行動が必要なのか」、時に「なぜこのような行動はいけないのか」を自分で判断して行動する力を育んでいくことです。そのためには、叱ることでその場をおさめるのではなく、子どもに行動の善悪や、年齢に合わせて理由を「伝える」関わりが必要です。

マナーや安全性などの面から子どもに注意しなければいけないシーンでは、叱るのでなく何かどう危ないのか、事実を伝えることを心がけて。そうすれば、子どもも合理的な判断をしていけるようになります。

また、褒めることにも注意が必要です。結果だけを褒めたり、必要以上におだてたり、褒めちぎったりする必要はありません。たとえば、子どもが描いた絵を見たのであればシンプルに「◯◯を描いたんだね」「本物をお手本にして観察したんだね」「色もきれいに塗ったんだね」と行動やプロセスを認める声かけをします。
子どもも結果だけを褒められるより、「自分ってこうやってやったんだ」と振り返りができ、認めてもらえたといううれしさが自信に繋がり、また主体的に行動していくことができるようになるはずです。

モンテッソーリ教育の5つの教育分野

モンテッソーリ教育 5つの教育分野

幼稚園や保育園などの教育施設でモンテッソーリ教育を実施する際には、上記の表にある「5つの教育分野」を実践します。0〜歩行完了までのニドクラス、歩行完了〜2.5/3歳までのインファントコミュニティクラス、2.5/3〜就学前までのプライマークラスの異年齢でクラス構成がされています。
各発達段階によってクラスが分かれているため、特に年齢が低いニドクラスではこれらの「5つの教育分野」に入る以前の活動を実施します。その後のインファントコミュニティクラスでもこの中での「日常生活の練習」や「言語教育」も含め、「自分を創る」ための主体的な活動を日々行います。プライマリークラスになると、このような「5つの教育分野」をお子さんの興味関心、発達段階によって主体的に行っていきます。

ここでは、主に乳幼児期に行う5つの分野についてご紹介します。

1:日常生活の練習

日常生活の練習の目的は、人格形成の基礎をサポートし、環境への適応、自立を促すことです。
子どもが自分の身体を調整し、自分の思い通りに身体を動かせながら、様々な活動を行います。活動の内容は発達段階によって異なり、縫いさしなどの「手と目の協応」、イスを運ぶなどの「基本的動作」、鼻をかむ、上着を着るなどの「自分に配慮すること」、お花をいける、パンをつくるなどの「環境に配慮すること」、ロールプレイングをする「気品と礼儀」、線の上を歩く線上歩行等の「運動の調整」などさまざまな活動があります。

このような活動を通して、自分の身体をコントロールして、集中し、「できた」という満足感や達成感が子どもの自立、環境への適応を助けていきます。さらには、このような経験の積み重ねが子どもの人格形成にも影響を与えるのです。

2:感覚教育

人間はさまざまな情報を感覚器官を通して得ていきます。モンテッソーリ教育の感覚教育では、一つの特性に特化した教具をもちいて活動します。

例えば、「赤い棒」という教具では、色、形状は全く同じですが、「長さ」だけが異なります。そのような教具を何度も触れて活動することで、抽象的な「長い」「短い」という概念を、手で触れることの「具体物」として子どもは認識していくことができます。

また、五感とされる視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を使うさまざまな活動を繰り返すことで、感覚器官で得た情報をより詳細に、より差異を認識できるようになっていきます。こうして、世界にあるさまざまな基本的なことを感覚を通して体得し、さらに情報を得る感覚器官を洗練することに繋がっていきます。

3:言語教育

子どもはもともと言語を持って生まれてきていません。しかし、自分のいる環境にある言語に何度も触れることで、徐々に「言語」を自分の一部として獲得していきます。

言語教育では、子どもの興味関心、発達段階に合わせて「話し言葉」「書き言葉」「よみ言葉」をそれぞれの活動を通して子どもが獲得できるようサポートします。

乳幼児期のモンテッソーリ教育の言語発達では、「トータルリーディング(統合的読み)」を最終目標としており、ただ語彙を多く知っているだけではなく、行間や内包されている意味も含めて理解することを目指しています。

4:数教育

数教育では、教具という具体物を用いて十進法の規則や四則計算の原則を体得することをサポートします。

決して「計算ができる」ことが目標ではなく、数字が意味する具体的な量を体感し、数を理解していきます。

このように実際の具体物を通して体得した数的概念は、その後の抽象的な思考にも繋がっていきます。

5:文化教育

文化教育は、この世界で起きている事柄で子どもが興味をもつ幅広いテーマを扱う分野です。

具体的には、強化でいう理科や社会科に相当するような内容で、歴史や地理・地学、社会、宗教、動植物といったものです。また、美術や音楽など知識ではなく身近なものとして体験して感じることで、文化として獲得していきます。子どもの知りたい欲求や興味のあるものをもとに活動をしていきます。

モンテッソーリ教育を行うには?家庭での実践法も

モンテッソーリ教育を家庭で実践するポイント

日本においてモンテッソーリ教育を受けるには、モンテッソーリ教育施設「子どもの家」やモンテッソーリ教育を取り入れた幼稚園や保育園に通う、家庭でのモンテッソーリ教育のマインドを取り入れるのがよいでしょう。

モンテッソーリ教育の実践施設

日本では、1960年代にモンテッソーリ教育が紹介されてから教育プログラムを導入する幼稚園や子どもの家が設立されました。モンテッソーリ協会に認められている教育施設もありますが、従来の教育法と合わせてモンテッソーリ教育を活用する施設も多く誕生しています。

モンテッソーリ教育の考え方や特徴に興味を持ったら実際に自分の目で教育の現場を見てみてはいかがでしょうか。

日本において、モンテッソーリ教育を実施している園の数は正確には発表されていませんが、下記のサイトで紹介されているリストを一つの参考にしてみてください。

参考
AMI 東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター 実習園リスト
モンテッソーリ教育実施園リスト|日本モンテッソーリ教育綜合研究所

家庭での実践法

モンテッソーリ教育のマインドを家庭で取り入れていくには、まず前提として子どもの「自己教育力」を信じて、子どもの「やりたいこと」をサポートしていくという考え方が大切です。大人の論理で「今はこれをするべき」を押し付けるのでなく、子どもをよく観察して「やりたい」と思っていることに対して、それがかない、なるべく保護者のかたの手を借りなくても子どもの力で挑戦できる環境を準備してあげましょう。

● 大人に頼らなくても子どもが「自分でできる」環境を整える
 ○ 例
  ■ 自分で手洗いやうがいができるよう、洗面所にステップ台を置いたり、手の届く位置にタオルを置いたりする。
  ■ 自分で服を選び着替えができるよう、子どもが自分で取り出せる場所に、服の種類ごとに整理整頓して置いておく。
  ■ 料理をしたいときにできるよう、子どもの手のサイズに合った子ども用調理器具を用意して、子どもが自分で取り出せる位置の引き出しや棚に整理しておく。

● 子どもが自分で決められるような関わりや声かけを行う
 ○ はじめは2択から。「今日はこのお洋服と、このお洋服とどっち着ていく?」など。
 ○ 子どもの選ぶことを保護者が勝手に決めない。子どもの権利を尊重し、決定権を渡していく。

子どもの「やりたい」を尊重することや、子どもが自分で選んで自己決定できることは、なんでも自由にして放任するということではありません。安全であること、人に危害を加えないことなどは大前提。それらを伝えるときも叱ったり注意したりするのではなく、事実を冷静に伝えることが大切です。ここまではいいけどここまではダメという制限がある中での自由や自主性を尊重していきましょう。

プロフィール


モンテッソーリ教師あきえ

保育士/幼稚園教諭
Montessori Parentsファウンダー兼講師
公立の幼稚園教諭をしていた頃、日本の一斉教育に疑問を抱きモンテッソーリ教師に。現在は「子どもが尊重される社会」を目指して、モンテッソーリ教育に沿った子どもや子育てについての発信、オンラインスクール「Montessori Parents」の運営、ベビーブランド「mu ne me(ムネメ)」ファウンダー、オンラインコミュニティ「Park」の主宰などの活動を行っている。
著書に『モンテッソーリ教育が教えてくれた「信じる」子育て』(すばる舎)『モンテッソーリ流 声かけ変換ワークブック』(宝島社)など。

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