小中学校の授業時間増 先生や子どもへの影響は?

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公立小中学校で2021年度、「標準授業時数」を年間40時間以上(「1時間」は45分授業または50分授業の1コマ分)も上回って授業をしていたことが、文部科学省の調べでわかりました。
週1コマは年間35時間に当たりますから、それ以上の授業が実施されていることになります。21年度といえば、前年からの新型コロナウイルス禍で休校措置も続いた年です。どう考えればよいのでしょうか。

この記事のポイント

「標準」時数から子どもの実態に合わせて

まず、標準時数とは何かを確認しておきましょう。文科省は、学習指導要領の実施に必要な授業をどのくらいの時間行えばよいかを、教科ごとに想定して示します。
「標準」とは、必ずしも厳密に守るべき数字ではなく、児童生徒や学校の実態に応じて、また臨時休校など予定外の事態も含め、増減があっても構わない、ということです。

かつては標準時数を下回っても、何の問題にもなりませんでした。
しかし2000年代に入って「ゆとり教育批判」が巻き起こると、学力向上のためには少なくとも標準時数は確保すべきだという考えが広がりました。
これ以降、年度当初から標準時数を大幅に上回る授業を計画する学校が多くなりました。

プラス60時間の計画が常態化

2021年度の実績を見ると、小学5年生で83.2%、中学2年生で81.9%の学校が、標準を上回る授業を実施していました。
1コマ分以上の授業を行っているのも、半数を超えます。標準1,015時間に対して、平均の実施時数は小5で1,059.9時間、中2で1,058.5時間でした。

22年度について聞くと、小5で平均1,078.3時間、中2で1,073.9時間と、プラス60時間前後を計画していました。
実際には21年度のように、これを下回るものとみられます。しかし20年度のような全国一斉休暇を経ても、なお標準を上回る授業を実施して、学力を保障しようとしていた様子がうかがえます。

子どもにも負担? 世界的課題に

学力をしっかり付けようとしてくれるのは、悪い話ではありません。
しかし授業は、職員会議など先生の業務を考慮すると「週28コマが限度」(2008年1月の中央教育審議会答申)とされています。つまり1コマ35時間×週28コマ=年間980時間が「限度」で、現行の1,015時間自体、無理をして入れているわけです。しかも小学校では、高学年で英語が教科化されたため、以前の年間980時間から1,015時間へと1コマ分増やされました。

まとめ & 実践 TIPS

現行指導要領では、学習内容を減らさない一方、プログラミング教育や統計など新しい内容も追加され、さらに「学力」の概念を広げた「資質・能力」の育成を目指すことにしました。
それだけ密度の濃い授業が求められます。しかし現在、先生の多忙化が深刻化しており、十分な授業準備ができないのも現状です。
教える内容が増えすぎる「カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)」は、世界的な問題となっています。先生だけでなく、子どもにとっても授業が負担になっている可能性もあります。今後、根本的な検討が求められていることは確かなようです。

2022年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査の結果について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1415063_00001.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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