部活動地域移行とは?本当にメリットはある?最新の動向やデメリットも解説

2024.8.30

部活動地域移行とは?本当にメリットはある?最新の動向やデメリットも解説

お子さまが中学校入学で最も楽しみにしていることの1つが、部活動です。その部活動が、保護者世代の頃とは事情が変わってきています。

少子化や教員の働き方改革の影響を見据えて、部活動を学校の外、つまり地域での活動に変えようとする動きが国主導で進みつつあります。

部活動の地域移行でお子さまや保護者のかたにとってどんな影響があるのでしょうか。

公立中学校で先行実施! 部活動地域移行とは?

部活動地域移行とは?運営は中学校・高校の教員から地域のクラブ・団体へ、背景として教員の長時間労働の改善や団体競技のチーム編成が難しい部活動の改善などがあります。

「部活動の地域移行」とは、これまで中学校・高校の教員が担ってきた部活動の指導を、地域のクラブ・団体などに移行することです。具体的には、スポーツ庁と文化庁が2022年12月に策定したガイドラインに基づき、まずは2023年度から3年間かけて、「公立中学校」の「休日」の「運動部」の部活動を優先して、段階的に地域移行しようとしています。

現在は、一部の地域・自治体で地域移行が進みつつあり、市区町村が地域の団体と連携したり、体育・スポーツ協会が主体となって運営したりするなど、いくつかのタイプがあります。私学や高校、文化系の部活動などは、学校や地域の実情に応じて進めるように、というのが国の方針です。

なぜ、部活動を学校の外で? 部活動地域移行の背景

これまで学校の部活動は、学校教育の一環として、学校教員がほぼ無償で担ってきました。しかし、近年は教員の多忙化が大きな社会問題となっています。特に中学校では、本来は休日であるはずの土日に教員が部活動の指導をしていることが、長時間勤務の大きな要因の1つとなっています。

また、少子化に伴ってバスケットボールやバレーボールなどの団体競技のチーム編成が難しい学校も出てきています。今後も子どもの数が減り続けることはほぼ確実で、これまでのような部活動の維持が難しくなると考えられています。

部活動地域移行のメリット——子どもの技術向上や学校の働き方改革に好影響

部活動地域移行のメリット・デメリット メリットは、人数が足りず実施できなかった部活動が可能になること、プロの指導による技術向上、学校段階が上がるときに種目やチームに変えなくて済むこと、教員の負担軽減が挙げられます。デメリットとしては、適任の指導者や活動場所の確保が難しいこと、子どもたちの居場所が減ること、活動費や送迎などの保護者の負担増、指導の過熱化などが挙げられます。

地域移行によって、子どもと学校・教員の双方にメリットが期待されています。子どもにとっては、自分が通う学校だけでは人数が足りずにできなかった活動種目も、地域で複数校の生徒が集まれば可能になる場合があります。

また、プロの指導が入ることによる子どもの技術向上も期待できます。学校の部活動は専門のスキルを持たない教員が指導しているケースが多いのに対して、地域ではスポーツクラブに所属する指導者や、公募によって選ばれた専門家から指導を受けられる可能性が広がります。

さらに、地域移行がうまく進んで、中学生や高校生だけではなく、子どもから大人までを対象とする地域のクラブに育っていけば、学校段階が上がるときに種目やチームを変えなくてすむようになります。

学校の教員にとってもメリットがあります。文部科学省の調査*1によると、教員の約8割が部活動の顧問を担当しており、担当している部活動の約8割が週4日以上活動しています。部活動の指導が教員の勤務時間を延ばす大きな原因の1つになっているのです。そのため、地域移行が進むことで、教員の勤務時間短縮や業務負荷の軽減につながることが期待されています。

*1 2023年5月 文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(速報値)について」

部活動地域移行のデメリット——保護者のかたの負担が増える可能性も

地域移行は、いくつかのデメリットもあります。

一つめは、地域の受け皿の問題です。移行した地域に適切な指導者がいない、練習場所がない、といった可能性があります。学校の部活動にあったのと同じ種目を指導できる人材を確保できるとは限らず、設置可能な種目が限られます。また、指導者や練習施設が遠方にしかない、といった問題が発生しやすくなります。

二つめは、子どもたちの居場所が減ることです。学校の友だちとの付き合いや、放課後や週末の時間を過ごすために部活動に参加している中学生も少なからずいます。そういう子どもは、学校に部活動があるから部活動に参加しています。代わりのクラブや団体が地域にできたとしても、学校の部活動の代わりに入るとは限りません。そうなると、一部の子どもたちにとって大切な居場所がなくなってしまう可能性があります。

三つめは、保護者のかたの負担増です。これまでは学校内の人材や設備を使っていたのが、外部の指導者や設備を使うことで費用が発生します。活動場所への送迎にもお金と時間がかかります。それらを保護者のかたが負担することになれば、部活動が事実上有料化することと同じでしょう。
さらに、家庭の経済状況によって活動に参加できない子どもが出ることもあり得ます。

四つめは、指導の過熱化です。部活動の最大の意義はあくまでも教育的なものです。将来にわたり続けるスポーツや趣味を見つけるきっかけづくりや、人格の形成などが目的で、勝負に勝つことが最終ゴールではありません。しかし、地域移行により競技のプロが指導にあたることで、競技に勝つことにより重きを置くようになる可能性があります。その影響で、長時間の厳しい練習を課し指導が過熱し、本来の部活動の目的からそれてしまうこともあるかもしれません。
そうした事態を防ぐためには、部活動の目的や意義を外部指導者に対してもしっかりと伝えて、安全に活動できるように注意する必要があります。

部活動地域移行は、いまどうなっている?導入が進む地域の具体例

1. 近隣の中学校の部活動に参加できる!~静岡県静岡市~*2

静岡県静岡市では、少子化などによって部活動に参加する生徒の数が減り、休廃部を検討している部活動が増えていました。一方、多くの教員が休日の指導に負担を感じている実態が見られました。
そこで、隣り合った中学校ごとに市内を15のエリアに分類。生徒は、自分が通う学校にはない部活動でも、エリア内の別の中学校であれば参加可能としました。これによって、学校規模が異なる学校に通っていても、やりたい部活動に打ち込めるようになりました。

また、部活動を運営するのは学校ではなく市のPTAや野球連盟とすることで、子どもたちが専門的な指導を受けられる体制が充実しました。その結果、9割以上の生徒が、地域移行した部活動(野球、ソフトボール)について「満足している」と回答するなど一定の成果が見られています。

2. 人数不足の種目を複数中学校で合同練習~長野県南佐久地域~*3

中部地方の山間部にある長野県の南佐久郡では、少子化が進んでいます。そのため、1つの中学校だけでは団体種目でチームを組めない種目があります。また、やりたい種目の部活がなく部活動に入らない生徒も増えていました。
そこで、地域の6つの町村が合同で部活動の運営団体を設立。バスケットボールやサッカーなどで、地域の中学校が合同練習を行っています。

さらに、子どもや保護者のかたにとって機会を公平に与え、負担を最小限に抑えるための工夫もこらしています。練習時間は公共交通機関の発着時間に合わせて設定。活動場所は1つの町村に偏らないように調整しています。子どもたちは新たな部活動のやり方に手ごたえを感じていますが、指導人材の確保が難しく合同練習できる種目が限られるなど、課題は残っているようです。

部活動地域移行の課題

国は、地域の実情に応じて部活動地域移行を進めるとしています。しかし、実態はそうスムーズにはいかなそうです。例えば、教員の負担は思っていたよりも減らないかもしれません。地域クラブの活動の会場として学校を使うことになったり、公式試合の運営をこれまで同様に教員が担うことが考えられます。また、生徒が怪我をした場合や大会出場時の付添いは学校に連絡が来ることが想定されるため、その対応や連携が必要になります。
とりわけ、連携先との連絡や情報共有に費やす時間はこれまでよりも増えるでしょう。同じ地域内でも、指導に当たる担当者や活動種目によって、個別の対応が必要になるからです。

また、部活動の中でもマイナーな種目は、外部の受け皿が少ないために、廃部を余儀なくされる恐れもあります。

移行することのデメリットやこれらの課題を乗り越えていかないと、結局は保護者のかたや教員に新たな負担が増えるにもかかわらず、子どもたちがスポーツや芸術、科学に親しむ機会は減ってしまった……というよくない結果を招くかもしれません。

部活動地域移行、保護者のかたの意見は?

部活動の地域移行について、賛成ですか?反対ですか?というアンケートに対し、賛成が36%、反対が18%、どちらとも言えないが42%、制度について知らないが2%でした。

ベネッセ教育情報では、部活動地域移行の流れをいままさに受けているであろう、中学生と高校生のお子さまの保護者のかたにアンケートを行いました。
「賛成」と回答したかたも「家庭の負担が増えるのでは」と不安に思うという声があったり、「反対」と回答するかたも「一定のメリットはある」と声があがったりと、複雑な心情が読み取れます。
また、家族が中学校で顧問をしているかたから「地域移行の恩恵を受けている」との声も。

「賛成」と回答した保護者のかたの意見

「教員不足が深刻なので、先生の負担を減らし、子どもたちが先生になりたいと思うような取り組みをしていかなければいけないと思います。その一つとして、部活動の外部委託は進めてほしいです。もちろん、お金がなければ部活動ができない、となるのは子どもたちの可能性を狭めることになるので、国や行政からの補助で賄ってもらえたら。」(中学1年生と中学3年生の保護者)

「先生の負担軽減のためによいと思います。また、その競技をやったことのない先生が顧問になる場合も多々あり、専門の知識があるかたに教えてもらったほうが生徒にとってもよいのでは。ただ、専門性の高い指導者になったことで、行き過ぎた指導にならないよう監視も必要そうです。あくまでも部活。成長期の生徒がちゃんと休息できるよう、しっかり休日もつくるべきだと思います。」(高校1年生の保護者)

「反対」と回答した保護者のかたの意見

「現在、子どもはバレーをしており、部活動とクラブチームを両方行っています。クラブチームのみになった場合、毎日送迎しなければ運動を続けることができません。親の負担も子どもの負担も増えそうです。
各学校の部活からそのままクラブチームに移行できればよいのですが、そうではなく「市町村で1チームしかない」となった場合、市内のバレー部が全員集まれば、試合に出られない子ばかりになってしまいます。
練習試合をする際は、遠方での開催になり、送迎の負担、金銭的負担が気になります。親が送迎できない場合は、通えるところにあるスポーツしか選べない可能性もありそうです。 完全に地域に移行した後、希望したスポーツをできる子ども達は果たして何人いるのだろうと思います。先生の働き方改革の話が多いですが、子ども達、保護者が置き去りになってはいないでしょうか。」(中学1年生の保護者)

「現在、子どもが通う中学校も地域移行に向けて、地域のスポーツ団体の紹介など情報提供をしてくれていますが、子どもがやりたい種目が自分で通える距離にない、送迎が時間的に不可能、月謝がかかる等、正直メリットと感じられることがありません。
地域移行をするならばまず地域の受け入れ環境を整えてからだと思いました。現状では、子どもたちがやりたいと思っても、活動の場を制限されてしまいかわいそうです。
また、地域の活動は夜間が多く、中学生ともなると塾などとの予定とバッティングして通うことが難しく、それも残念な点です。
先生の負担軽減はもちろん大切ですが、行政側が見切り発車過ぎるし、その負担がそのまま親に来ている感じがします。これではますます日本は子育てがしにくい国になっていくように感じます。」(中学1年生の保護者)

「どちらとも言えない」と回答した保護者のかたの意見

先生の負担軽減策としては賛成ですが、家庭の負担が増えるのではと、今から不満に思う気持ちもあります。
部活動は水泳部で、クラブチームにも所属していますが、クラブチームからは、地域移行するとなると、各家庭の負担額が増える(大会登録費、クラブチームが行う事務手数料、送迎のためのバス代など)と説明を受けています。

部活動は学校教育の一環だと思いますが、今後は実力の差、または経済力の差など、格差が広がるのでは。学校の負担が減って、家庭の負担が増える部活動の地域移行について、完全に賛成しきれません。」(小学2年生と中学1年生の保護者)

夫が中学校教諭で、部活動の顧問です。子どもが産まれる前から、土日祝も朝からいないのが当たり前の日常でした。子どもが小さいころは一緒に近所の公園に行ったこともなく、小中学生になりスポーツ少年団や部活を始めても、夫は送迎や応援などで関わったことはほとんどありません。
今は部活動地域移行のおかげで外部コーチも入り、少しは休みやすくなりました
また、息子の部活の顧問の先生も平日の部活はもちろん、土日もほぼ練習や練習試合・大会で働かれています。小さなお子さんがいる先生だったので、先生のご家庭のことが気になってしかたありませんでした。
完全に地域移行する場合、指導者や練習会場の確保など、難題が多いと思います。ですが、少しずつ地域移行や外部コーチを入れるなどして、先生の働き方を改善していけたらいいなと思います。」(小学5年生と中学3年生の保護者)

地域移行ありきでは、本当に子どものため、学校のためにはならない

さらに、部活動地域移行が進むと、中学校体育連盟主催の地区大会を今までどおり継続することができなくなるのではないかということが懸念されます。

部活動の課題解決を進めるために知恵を絞ることは大切です。一方で、「地域移行が本当に必要なのか?」とゼロベースで考え直してみることも必要かもしれません。学校と地域が協力し合って子どもを育てていく姿勢はとても大切ですが、そもそも、部活動に期待する役割は何でしょうか。
例えば、部活動はあくまで学校教育活動の一部とする。設置する部は授業で扱う種目に限って、学校主体で無理のない範囲で行う、という考え方もあるかもしれません。あるいは、授業で扱う種目は学校に任せて、授業でやらない種目は地域のクラブが学校の施設を借りて特定の日に行うとか、日頃の活動は学校で行うけれど、競技力向上をめざす希望者や選抜された生徒は地域のクラブで高い専門的な指導を受けるとか、考えていけば、いろいろなニーズに合わせてさまざまなやり方があるはずです。
今後、地域移行がどの程度うまく進むのかは、現時点では予測できません。子どもたちの貴重な中学3年間が無駄にならないような部活動のあり方を、皆で真剣に考えるときが来たようです。

*2 、*3 令和5年9月 スポーツ庁「運動部活動の地域移行等に関する実践研究事例集」

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2024年8月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

にしじまひろし


青山学院大学コミュニティ人間科学部 教授

日本学術振興会特別研究員(PD)、東京大学大学院教育学研究科助手・助教。首都大学東京(現東京都立大学)大学院人文科学研究科准教授。
著書:『部活動-その現状とこれからのあり方-』(学事出版)、『教育調査の基礎』(放送大学教育振興会)等。

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