メタ認知とは?教育で注目される理由や子どもの力の伸ばし方は? メタ認知とは?教育で注目される理由や子どもの力の伸ばし方は?

2024.7.25

メタ認知とは?教育で注目される理由や子どもの力の伸ばし方は?

子どもが自分を客観視できるようになると、主体的に学習に向かう態度が身に付き、成績アップにつながりやすくなると言われています。自分を客観視する力を「メタ認知」といいます。なぜ、自分を客観視できると学習によい影響があるのでしょうか。学校・家庭でできるメタ認知の育み方とともにお伝えします。

「メタ認知」とは

メタ認知を一言でいうと、「冷静で客観的な判断をしてくれる頭の中の自分」です。 学習にたとえると、「どう覚えると覚えやすいのか」「学習全体はどのように進んできたのか」などを、第三者の視点で振り返ったり評価したりすることです。

近年、学習意欲を高めるために「メタ認知」が重要だと注目を集めています。メタ認知は「認知(知覚、記憶、学習、言語、思考など)について、客観的に認知する」ことを意味します。

メタ認知能力は小学校高学年から急速に伸びる

メタ認知は、小学校高学年から中学生にかけて急速に発達していきます。メタ認知が発達すると、それまでは一方的に自分の好きなことを好きなように話していた子が「自分の話があまり相手に理解されていないようだ」と気づき、説明の仕方を変えるといった行動が見られるようになります。

学習面では、自分の学習状況や進み具合を振り返り、自分が得意なことや苦手なこと、どのような方法で勉強するのが自分に合っているのかなどを判断・評価できるようになっていきます。

2種類のメタ認知が両輪で動くことが大事

メタ認知には、「メタ認知的知識」「メタ認知的活動(技能)」の2種類があります。

「メタ認知的知識」とは、自分は何が得意なのか、目の前の課題で求められていることは何か、その課題にどう取り組めばよいか、など、 自分や他者の認知特性に関する知識や課題対処や解決の仕方に関する知識のことです。
もう1つの「メタ認知的活動(技能)」とは、メタ認知的知識をもとに、実際に活動しながら、状況をモニタリングして、よりよいやり方を調整していく活動のことです。この2種類の力を使うことで、学習や活動でより成果を出すことができるようになります。

メタ認知能力が高いことで得られるメリットは?

メタ認知能力が高いと、さまざまなメリットがあります。その代表的なものをご紹介します。

課題解決能力が高まる
メタ認知能力が高いと、感情に流されず状況を冷静かつ的確にとらえることができます。課題の本質を見抜き、どうすればよいか適切に考えることができるため、どんな状況にも柔軟に対応できます。これは、ますます変化が激しくなる今後の社会で大いに役立つでしょう。

感情に振り回されない
感情的になりすぎると、何事もうまく進まないものです。その点、メタ認知能力が高いと自分自身を客観視して、冷静に感情を認知しコントロールできるため、感情に振り回されずに対応できるようになります。

円滑な人間関係を築ける
相手と自分の違いや、置かれている状況を俯瞰(ふかん)的にとらえることできるため、適切な配慮をしながらコミュニケーションをとることができます。これは1対1の関係だけでなく、チームで行動する際にも効果を発揮します。リーダーとしての役割をはたすことにも役立つでしょう。

成績向上にも効果を発揮する
メタ認知能力は、学習の成果にも影響を与えます。ベネッセ教育総合研究所の調査※で、成績がアップした高校生は「メタ認知」の力があることがわかりました。
メタ認知能力が高い子どもほど、学習意欲が高く、目標に向け主体的に学習する力があり、解き方・考え方の工夫を行っているようです。

「メタ認知」が成績上昇に効果-自分の学習を客観視することが大切-

メタ認知能力が高い子の特長とは

出典:「メタ認知」—VIEWnextより

メタ認知の力が高い子どもは、勉強を始める前の段階から、学習している間、学習後にかけて、特長的な行動をとっています。

【特長1】具体的な目的「なぜそうするのか」や目標を考える
メタ認知が優れた子どもは、勉強や行動を始めるにあたり具体的な目的や目標を考える傾向があります。

たとえば、学校の宿題はやらなければならないものですが、メタ認知力が高い子は一歩進んで「何のために宿題をやるのか」を考えます。しかも、「やらないと先生に怒られて自分がいやな思いをするから」という感情面だけでなく、「受験対策で内申書の評定を4以上に上げるため」「宿題の演習を通して知識を定着させるため」「次に学習する単元の基礎知識として習得するため」など、先を見据えた目標や目的まで考えるのが特長です。

【特長2】具体的な方法「これは適切な方法なのか」を考える
メタ認知力が高い子どもは学習や行動の目的や目標を自分なりに設定するため、それに合った手段となっているかどうかのチェックもできます。たとえば「宿題の演習を通して知識を定着させるため」を目的に設定した場合、
・「友達の宿題ノートを写す」…先生に怒られずに済むが知識が定着しないのでNG ・「自分で宿題の問題を一度だけ解く」…定着には不十分 ・「自分で宿題の問題を解き、間違えたら正解するまで解き直す」…OK といった判断ができるようになります。

これらのことを、学習する前から一連の行動として行ない、振り返りと修正を繰り返しているのがメタ認知力の高い子の特長です。

メタ認知を鍛える授業の例

メタ認知に焦点を当てた指導が意図的に行われているケースは少ないですが、メタ認知を実践研究していたある学校では、メタ認知のことを「頭の中の先生」と名付けて具体的な使い方を指導。授業で問題を解く場面があれば「頭の中の先生ならどうアドバイスするかな」など 意識づける指導が行われているようです。

そうした特別な学校でなくても、授業中のさまざまな場面でメタ認知を働かせる学習活動が含まれています。授業の最後に行う振り返りの時間はその代表例です。振り返りでは、授業でわかったことや、自分がこれからどうしようとするのかといったことを考え、ワークシートなどに記入します。その活動によって、自分を客観視し、次にとるべきよりよい方法を考える力を養っているのです。

参考:「授業でメタ認知を育成するには」『教育心理学年報』第56集

家庭でできるメタ認知の鍛え方

家庭でも、保護者の働きかけによって子どものメタ認知を高めることができます。例えば、日々の家庭学習に関して次のようなことを心掛けてはいかがでしょうか。

1.学習計画表を作成する
「いつ」「どこで」「何を」「どのくらい」学習するか、スケジュールを組んだ学習計画表を作ってみてはいかがでしょう。学習を見渡すことができ、毎日の状況を自分自身でチェックするきっかけにもなります。
最初はなかなか計画通りに進められず、何回も修正しなければならないこともあるでしょう。しかし、「作ってみる→やってみる→失敗する→修正する」のくり返しが、子どもに合った学習量や学習方法を見つけやすくしてくれます。学習計画表の作成とともに日々の学習を記録し、1週間ごとに「今週は何を勉強した?」など、振り返りの時間を設けてみてください。

2.努力や成長を具体的に褒める
子どもを褒めるときは、子ども自身の力で改善できる「努力」や「プロセス」に注目して具体的に褒めることがポイントです。「すごいね」「やったね」という言葉だけではなく、具体的に褒めることで、自分のしたことの何が評価されたのか、何がプラスになったのかを理解できるようになります。

例えば、「毎日コツコツ英単語を覚えていたから、スペルを正確に書けて減点が減ったんだね」「宿題の解き直しを頑張ったから、以前間違えていた問題でもきちんと正解にたどり着けたね」などと具体的な評価を意識することで、「そうか、毎日やっていたアレか」「宿題の解き直しが効いたのか」とメタ認知を働かせる機会が得られ、成功体験も増やすことができます。

3.失敗したら叱るよりも分析を
子育ての中で、子どもを叱ってしまうこともあると思います。メタ認知を育てるために、ただ叱るのではなく、なぜ子どもが失敗したのか一緒に分析してみてください。

子どもの取り組み方で失敗につながったところを一緒に分析し、「次、同じ失敗を避けるには何をするといいのかな」と質問をしてあげてください。子どもは大人ほどの経験がないので、大人から見れば間違った答えや再び失敗につながることを答えるかもしれません。もし安全上問題がないのであれば、子どもが提案した方法を試してから再び検討するとよいでしょう。

4.他人の意見を聞く姿勢を養う
メタ認知を養うには、他人の意見を聞くことも大切です。 他人の考え方やさまざまな視点を知ることで、自分の考え方や特性を相対化し、傾向を見つけたりより深く理解したりできるようになります。周りの意見が正しいか間違っているかを即座に判断して反応するのではなく、「どのような考え方があるのか」に注目して聞けるような姿勢を育てましょう。そのためには、まず保護者のかたが子どもの話を最後まで聞くように心がけてみましょう。間違っていても否定するのではなく、「ここはどうなっているの?」と質問をして本人の考えを引き出すことを意識してみてください。

子どもから質問されたときは、可能な限り理由を説明するようにしましょう。理由を説明しにくい場合は、「調べてみようか」などと提案し、子どもと調べ方を相談してみるとよいでしょう。

5.1日の学習を5分ほど振り返る
大きなイベントのあとだけではなく、日常生活のちょっとした場面で振り返りを促す声かけも、メタ認知を育てます。たとえば日々の家庭学習で、
「今日は何ページやったの?」「今日勉強したところで簡単だったところはあった?」 「苦手に感じたところはあった?」など、子ども自身がメタ認知を働かせるきっかけになる言葉をかけてあげましょう。ただ、あまり細かく聞くと「しつこい!」と嫌がる子もいるかもしれません。振り返りは5分程度の会話で構いません。
また、保護者のかたが資格勉強や読書を進めている場合は、親子で「今日はこのくらいやった!」と報告し合うのも励みになります。

大人にも子どもにも、すべての人にメタ認知は重要

子どもはさまざまなことで失敗や成功をくり返し、知識とスキルを身につけていきます。その中でメタ認知を発揮できれば、成功や失敗に一喜一憂するだけでなく、どのような点が特に影響したのかを分析して次に生かすこともできるでしょう。
保護者の役割は、そうした視点を子どもに意識させつつ、子どもを褒めたりアドバイスしたりすることです。
AI時代と言われますが、現在のAIの限界は、メタ認知ができない点にあります。何かの活動をする際に、メタ認知を上手に使いながら進めていく能力は、大人になってからも、仕事や家庭生活などさまざまな場面で役立ちます。子どものうちから、自分の学習活動を客観視する機会を数多く設けてメタ認知を伸ばしていきたいですね。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2024年6月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

木村 治生きむら はるお


ベネッセ教育総合研究所 主席研究員

これまで、子ども・保護者・教員を対象にした調査に携わり、子どもの生活や学びとそれにかかわる周囲の大人の意識・行動に関する研究を行う。
上智大学大学院(教育学修士)、東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~23年)。

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