教育用語解説|大学無償化(高等教育の修学支援新制度) 教育用語解説|大学無償化(高等教育の修学支援新制度)

2023.2.1

大学無償化(高等教育の修学支援新制度)とは?制度や適用条件を専門家が解説

2020年から、大学などに関する新しい修学支援制度がスタートしたことをご存じですか?一般には「大学無償化」と言われていますが、正しくは「高等教育の修学支援新制度」といい、大学や短大だけでなく、高等専門学校や専門学校などへの修学も対象となります。制度の中身や申請条件などを確認しておきましょう。

高専や専門学校も対象——大学無償化制度の概要とは

「高等教育の修学支援新制度」(以降、「大学無償化制度」)は、家庭の経済状況によらず、より多くの人が高等教育での修学機会を得ることを目的に、国の主導で2020年4月からスタートしました。①授業料等の減免制度と②給付型奨学金、の2つの支援内容がセットになっており、一定の適用条件に該当する人が受けることができます。大学や短大のほかに、高等専門学校や専門学校で学ぶ学生も対象です。現役の高校生はもちろんのこと、高校卒業後2年以内の既卒生や、合格後2年の間までの高卒認定生も申請が可能です。

大学無償化の2つの適用条件 その ①:世帯の年収

この制度を使うための条件は2つあり、①住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯の学生であることと、②学ぶ意欲がある学生であること、の両方を満たす必要があります。一つずつ見ていきましょう。

一つめが、世帯収入の上限です。
対象となる学生を扶養している保護者の収入のほか、扶養家族の人数や属性、学生が希望する進学先の種類(大学か専門学校かなど)、自宅通学かどうかなどによって詳細の条件は異なります。イメージとしては、満額支給を受けるには世帯収入が270万円以下、満額未満だが支援を受けるには世帯収入が380万円程度までの学生が対象となります。詳しくは、独立行政法人日本学生支援機構の「進学資金シミュレーター」で学生自身や世帯の情報を入力することで、支援の対象となるかどうかを知ることができます。

大学無償化の2つの適用条件 その②:学ぶ意欲

二つめの要件は、学ぶ意欲があることです。
大学等に進学する前には、高校の成績だけで判断せず、学生の学修意欲を確認して要件を満たすかどうかを判断します。進学した後も学修意欲や将来の人生設計等が確認できるなど要件を満たせば支援の対象となります。逆に、修得単位数が足りなかったり、出席率が規定以下だったりした場合は、支援を打ち切られたり、場合によっては返還(授業料等の減免の場合は授業料等の徴収)が必要になることがあります。大学無償化制度は学生のやる気を厳密かつ継続的に見ているのです。

2本柱からなる支援内容

適用条件を満たす場合、①授業料等の減免制度と②給付型奨学金の2つの支援を受けることができます。

授業料の減免

①は、支援対象となる高等教育機関の授業料を、決められた上限額まで毎年減免する制度です。大学等への入学年度は入学金と授業料が、2年次からは授業料が減額や免除の対象となります。

給付型奨学金

②の給付型奨学金は、学生が学業に専念するために必要な生活費を日本学生支援機構が支給する、返還不要の奨学金です。

支援を受けられる金額は、
・世帯の収入がどのくらいか
・進学先の学校の種類(大学か、短期大学か、高等専門学校か、専門学校か)
・自宅から通うか、一人暮らしか、
などによって異なります。例えば一人暮らしをしながら私大に通う場合、①の授業料は最大70万円/年、入学金は約26万円が免除・減額され、加えて、給付型の奨学金が年間約91万円支給されます。

申請方法とスケジュールをチェック!

授業料等の減免制度と給付型奨学金は、それぞれ個別に申請する必要があります。授業料等の減免の申込みは、進学後に大学等の進学先で行い、給付型奨学金は、高校などを通じて日本学生支援機構(略称:JASSO)に申し込みます。例えば、高校生の場合は以下のスケジュールとなります。

他の奨学金制度の利用・併用も検討する

「無償化」という文字だけ見ると、幅広い層が支援対象になっているように見えますが、世帯収入の上限があり対象が限られています。支援対象の学生の場合でも、進学先で必要なすべての費用が賄えるわけではなく、教材費や実習費といった費用は発生します。各大学が設定している給付型の奨学金や民間の奨学金制度など、本制度以外の支援策の利用・併用も検討するとよいでしょう。

また、対象となる高等教育機関は全体の95%近くに上りますが、専門学校だけを見ると対象校は約7割と低いため、志望する進学先が対象外でないかを確認しましょう。「高等教育の就学支援新制度 対象機関リスト」で検索すると、文部科学省のホームページで最新の対象機関が確認できます。

保護者のフォローや情報収集は積極的に

大学無償化の対象かどうかにかかわらず、奨学金に関する制度は多数存在し、組み合わせ方もさまざまです。また、合格前でも利用できるローンなど、最近の支援制度は使い勝手がよく用途も幅広くなっています。教育費負担は少ないに越したことはありません。インターネットで調べたり、大学の専用窓口に問い合わせてみたりすることをおすすめします。

現在、国の議論では、より高度な専門性を身に付けた学生を増やすために、大学院の段階でも授業料の負担を軽減する制度の検討が進んでおり、その返済も卒業後の収入に応じて柔軟にできるような方向で話し合われています。高校卒業後の進路を幅広く考えるためにも、今後の動きをぜひ文部科学省のホームページなどでチェックしてみましょう。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年2月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

村山 和生むらやま かずを


ベネッセ文教総研 主任研究員/「Between」編集委員

ベネッセでは進研模試等を通した高等学校への進路指導支援、大学入試分析、進路説明会講師等を担当。2012年からはベネッセ教育総合研究所・高等教育研究室のシニアコンサルタントとして大学の教学改革支援や入試動向分析、「VIEW21大学版(現:Between)」編集長等を担当。16年からは「ベネッセ i-キャリア」にて大学生向けアセスメント分析や大学IRのための統合データベース開発などを担当。17年からは一般財団法人大学IR総研の調査研究部にて、研究員として高等教育全般の調査・研究と教学改革支援、ならびにIRの推進支援に携わる。
ベネッセコーポレーション帰任後は、学校支援事業の経営企画業務に従事。21年からベネッセ文教総研の主任研究員として、高等教育を中心に「学修成果の可視化」「IR」を主なテーマとして調査、研究、情報発信を続けている。

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