教育用語解説|大学無償化(高等教育の修学支援新制度) 教育用語解説|大学無償化(高等教育の修学支援新制度)

2025.9.11

大学無償化(高等教育の修学支援新制度)とは?制度や適用条件を専門家が解説

2020年から、大学などに関する新しい修学支援制度がスタートしたことをご存じですか?一般には「大学無償化」と言われていますが、正しくは「高等教育の修学支援新制度」といい、大学や短大だけでなく、高等専門学校や専門学校などへの修学も対象となります。制度の中身や申請条件などを確認しておきましょう。

多子世帯や私立理工農系学部生への支援も拡大——大学無償化制度の概要とは

「高等教育の修学支援新制度」(以降、「大学無償化制度」)は、家庭の経済状況によらず、より多くの人が高等教育での修学機会を得ることを目的に、国の主導で2020年4月からスタートしました。①授業料・入学金等の免除または減額(授業料等減免制度)と②給付型奨学金の支給、の2つの支援内容がセットになっており、一定の適用条件に該当する人が受けることができます。大学や短大のほかに、高等専門学校や専門学校で学ぶ学生も対象です。現役の高校生はもちろんのこと、高校卒業後2年以内の既卒生や、合格後2年の間までの高卒認定生も申請が可能です。
また、2024年度からは多子世帯(扶養する子供が3人以上いる世帯)や私立理工農系の学制に対する支援が拡大し、2025年度からは多子世帯の所得制限がなくなるなど、支援の対象が拡大していっています。これは2023年12月に閣議決定された「こども未来戦略」に盛り込まれたものです。

2025年度段階での大学無償化

 適用条件その①:世帯の年収等

この制度を使うための条件は2つあり、①年収や扶養する子どもの数などの要件を満たす世帯の学生であることと、②進学先で学ぶ意欲がある学生であること、の両方を満たす必要があります。一つずつ見ていきましょう。

一つめが、世帯収入等です。
対象となる学生を扶養している保護者の収入のほか、扶養家族の人数や属性、学生が希望する進学先の種類(大学か専門学校かなど)、自宅通学かどうかなどによって詳細の条件は異なります。2025年度より、多子世帯の場合は所得制限が撤廃され、世帯年収に関わらず大学無償化制度を利用できるようになっています。多子世帯では全学支援の1/4、また、私立理工農系学生では文系との授業料の差額が支給水準となります。
イメージとしては、満額支給を受けるには世帯の収入が270万円以下か子どもの数が3人以上、満額未満だが支援を受けるには世帯収入が600万円程度までが対象となります。なお、ここで言う「多子世帯」の条件とは、「扶養する子どもが同時に3人以上いること」です。このため、もし子どもが3人いたとしても、1人は就職等で扶養から外れているといったケースは対象にはならないため、気を付けてください。詳しくは、独立行政法人日本学生支援機構の「進学資金シミュレーター」で学生自身や世帯の情報を入力することで、支援の対象となるかどうかを知ることができます。

(出典:文部科学省 https://www.mext.go.jp/content/2024517-mxt_gakushi_100001505-0517.pdf
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/

 適用条件その②:学ぶ意欲

二つめの要件は、学ぶ意欲があることです。
大学等に進学する前には、高校の成績だけで判断せず、学生の学修意欲を確認して要件を満たすかどうかを判断します。進学した後も学修意欲や将来の人生設計等が確認できるなど要件を満たせば支援の対象となります。逆に、修得単位数が足りなかったり、出席率が規定以下だったりした場合は、支援を打ち切られたり、場合によっては返還(授業料等の減免の場合は授業料等の徴収)が必要になることがあります。大学無償化制度は学生のやる気を厳密かつ継続的に見ているのです。

2本柱からなる支援内容

適用条件を満たす場合、①授業料等の減免制度と②給付型奨学金の2つの支援を受けることができます。

授業料の減免

①は、支援対象となる高等教育機関の授業料を、決められた上限額まで毎年減免する制度です。大学等への入学年度は入学金と授業料が、2年次からは授業料が減額や免除の対象となります。

給付型奨学金

②の給付型奨学金は、学生が学業に専念するために必要な生活費を日本学生支援機構が支給する、返還不要の奨学金です。

支援を受けられる金額は、
・世帯の収入がどのくらいか
・進学先の学校の種類(大学か、短期大学か、高等専門学校か、専門学校か)
・自宅から通うか、一人暮らしか、
などによって異なります。例えば一人暮らしをしながら私大に通う場合、①の授業料は最大70万円/年、入学金は約26万円が免除・減額され、加えて、給付型の奨学金が年間約91万円支給されます。

申請方法とスケジュールをチェック!

授業料等の減免制度と給付型奨学金は、それぞれ個別に申請する必要があります。授業料等の減免の申込みは、進学後に大学等の進学先で行い、給付型奨学金は、高校などを通じて日本学生支援機構(略称:JASSO)に申し込みます。例えば、高校生の場合は以下のスケジュールとなります。

高等教育の修学支援制度 区分別支援額

※1 「~600万円」の区分では……
・多子世帯の場合、給付型奨学金(1/4)と授業料等減免(満額)
・私立学校理工農系学部の場合、給付型奨学金の支給はなしで授業料等減免(1/3あるいは1/4)」
の支援が受けられる

他の奨学金制度の利用・併用も検討する

「無償化」という文字だけ見ると、幅広い層が支援対象になっているように見えますが、扶養する子どもの人数や世帯収入に条件があり対象が限られています。支援対象の学生の場合でも、進学先で必要なすべての費用が賄えるわけではなく、教材費や実習費といった費用は発生します。各大学が設定している給付型の奨学金や民間の奨学金制度など、本制度以外の支援策の利用・併用も検討するとよいでしょう。

また、すべて大学・短大・高専・専門学校が対象ではないため、志望する進学先が対象外でないかを確認しましょう。「高等教育の修学支援新制度 対象機関リスト」で検索すると、文部科学省のホームページで最新の対象機関が確認できます。

支援の対象となる大学・短大・高専・専門学校一覧|文部科学省

保護者のフォローや情報収集は積極的に

大学無償化として2025年度から「多子世帯」の所得制限が撤廃されたのは先にご紹介したとおりですが、今年度、その周知が保護者まで十分に届かず、本来減免の対象となる世帯の申請書の提出が間に合わないといった事態が多くの大学で見受けられました。最終的には大学側が申請期間を延長するなどして対応しましたが、やはり授業料等の情報については保護者の方もご自身で積極的に情報を収集しておくのがよいでしょう。

また大学無償化の対象かどうかにかかわらず、奨学金に関する制度は多数存在し、組み合わせ方もさまざまです。合格前でも利用できるローンなど、最近の支援制度は使い勝手がよく用途も幅広くなっています。教育費負担は少ないに越したことはありません。インターネットで調べたり、大学の専用窓口に問い合わせてみたりすることをおすすめします。

現在、国の議論では、より高度な専門性を身に付けた学生を増やすために、博士人材を増やすための議論が進んでいます。(出典:文部科学省 https://www.mext.go.jp/content/20240326-mxt_kiban03-000034860_1.pdf
2024年度からは、大学院(修士段階)の授業料について、卒業後の所得に応じた「後払い」とする仕組みも創設されました。高校卒業後の進路を幅広く考えるためにも、今後の動きをぜひ文部科学省のホームページなどでチェックしてみましょう。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2025年7月時点の情報です。

※参考:奨学金事業の充実:文部科学省
高等教育の修学支援新制度:文部科学省

監修者

監修スペシャリスト

村山 和生むらやま かずお


ベネッセ i-キャリア まなぶとはたらくをつなぐ研究所 主席研究員

ベネッセコーポレーションでは進研模試等を通した高等学校への進路指導支援、大学入試分析、進路説明会講師等を担当。2012年からはベネッセ教育総合研究所・高等教育研究室のシニアコンサルタントとして大学の教学改革支援や入試動向分析、「VIEW21大学版(現:Between)」編集長等を担当。17年からは一般財団法人大学IR総研の調査研究部にて、研究員として高等教育全般の調査・研究と教学改革支援、ならびにIRの推進支援に携わる。
21年からベネッセ文教総研の主任研究員、23年からはベネッセ i-キャリア「まなぶとはたらくをつなぐ研究所」の主席研究員として、高等教育を中心に「学修成果の可視化」「IR」を主なテーマとして調査、研究、情報発信を続けている。

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