保護者が先生に求めるのは「一般常識」!?

読者のみなさんは、お子さまの通う学校の先生に対して、どのような感想をお持ちでしょうか。先生は先生なりに、良い教育をしようと努力しているはずです。ただ、両者の思いが微妙にズレてしまっていることもあるようです。

横浜市教育委員会が昨年行った「教育意識調査」の中に、保護者に対して「教員の指導に望むこと」を尋ねた項目があります。最も多かったのは「教育への責任感や使命感」で68.7%。次いで「非行やいじめなどの問題行動への適切な対応」が58.0%、「社会人としての一般常識」が50.8%、「公正・適正な評価・評定」が49.7%、「授業力や教科などの専門知識」が45.7%などの順になっています。

ところが、その教員に対して「保護者が教員に望んでいると思うこと」を尋ねたところ、最も多かったのは「授業力や教科などの専門知識」の77.6%で、次いで「非行やいじめなどの問題行動への適切な対応」の72.0%などが続くのですが、保護者では半数を占めていた「社会人としての一般常識」は25.4%しかありませんでした。
確かに教育界には「学校の常識は世間の非常識」などと、自分たちをやゆする言葉さえあります。だからといって教員は、世間の常識などどうでもよいと思っているのでしょうか? 必ずしもそうではありません。先の言葉も、教員の意識に世間とのズレがあることを気にしてのものです。

ここでもう一度、質問項目を振り返ってみましょう。教員が考える保護者の期待のトップは「授業力や教科などの専門知識」でした。教育界にはもう一つ、「教師は授業で勝負する」という言葉があります。まずは良い授業をすること、それが教員にとって最も重要視されている「文化」だと言っても過言ではないでしょう。
しかし実際には、保護者が教員の専門知識に期待する割合は半数以下です。それよりも責任感や使命感、一般常識など、まずは《見習うべき大人》として子どもたちに接してほしいというのが保護者の方々の本音ではないでしょうか。

教員になった人は、大学などを卒業後すぐ採用されたか、非常勤講師をしながら採用試験を受け続けてきたケースが大多数です。公立学校の場合、民間企業などの勤務経験を経て採用された割合は年々下がっており、2011(平成23)年度は4.5%にすぎません。アルバイトなどを除けば学校の中しか「職場」を経験していないわけですから、気付かないうちに世間とのズレが出てしまうのかもしれません。
それでも最近では教員側も、保護者や地域住民に対して丁寧な応対をするよう心がけたり、企業などで研修を行ったりするなど「世間の常識」を身につけようと努力しています。保護者と教員がお互いのズレをなくし、協力して子どもの教育に当たれるよう、まずはそれぞれが何を考えているのか、率直に話し合うことも必要ではないでしょうか。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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