抽象的思考とは? 広い視野で物事を捉えられるようになるために、小学生から訓練しよう
高学年になると抽象的思考力の発達にともない、学習内容も具体的なものから抽象的なものへと変わっていきます。それでは、抽象的思考力とはどのようなものでしょうか? 抽象的思考力の重要さと、伸ばすためにはどんなことに取り組めばいいのかを、詳しく見ていきましょう。
この記事のポイント
抽象的思考とは?具体的思考との違い
抽象的思考とは「抽象的に考えること」
「抽象的」とは、「事物の共通点に着目し、一般的な概念でとらえること」です。そして、その考え方を「抽象的思考」といいます。簡単にいうと、ざっくりと大きなまとまりで考えるということです。
具体的思考との違い
抽象的と対になる言葉が「具体的」です。具体的思考は、抽象的思考の反対になります。「犬」を表現するときを例に挙げてみましょう。「チワワ、トイプードル、近所のポチ」と表現するのは具体的です。「4本足で歩く動物、哺乳類」と表現するのは抽象的です。
つまり、具体的思考はより狭く分解して考えること。抽象的思考は、より広く大きなまとまりで考えることを指します。
小学校高学年は抽象的思考が発達する時期
高学年は、この抽象的思考力が発達する時期にあたります。「割合」のように、抽象的思考を使って物事を理解する力がつくことで、複雑で難解な学習内容もどんどん理解を深めていけるようになるのです。
またこの時期のお子さまは、抽象的思考力が身につくことによって世界が大きく広がります。普段触れることのない世界を多く経験することで視野がぐっと広くなり、一段と大きく成長することができるでしょう。
ただ、「抽象的」という言葉は悪い意味で使われることもありますよね。「そんな抽象的な表現ではわからない」「もっと具体的に話して」という感じに言われることもあるでしょう。それなのに、なぜこの抽象的思考を鍛えなければいけないのでしょうか。
抽象的思考力はどんなときに役立つ?
抽象的思考ができる能力のことを、抽象的思考力といいます。実際にどんなメリットがあるのか見てみましょう。
実態のないものが理解できる
抽象的思考力があると、実体のないものを理解したり、イメージしたりすることができます。たとえば「割合」は、割合そのものが実際に存在するわけではありません。「200円は1,000円の2割である」ということを理解するには、頭の中で「2割」の意味を理解し、それをイメージして自分の中に感覚的に取り込む必要があります。そのために必要なのが、抽象的思考力なのです。
また、抽象的思考力の発達によって、実際に自分の目で見たり体験したりしなくても、ニュースや本などで得た情報から広い世界を認識したり、説明を聞いてその事象を具体的にイメージしたりできるようになります。
応用力が身に付く
抽象的思考力があると、応用力が高まります。先ほどの割合で考えてみましょう。割合は、算数の授業で習いますよね。しかし実際には、理科や社会、日常生活の中など、さまざまな場面で使われるものです。抽象的思考力があれば、「算数」とはかけ離れた場所であっても、割合を応用することができます。
「あれと同じだから、こっちにも使えるんじゃないか」と柔軟に考えられるのは、抽象的思考があるからこそなのです。
発想力が豊かになる
抽象的というのは、捉え方によってはどこまでも広くなります。「犬」と「テレビ」という一見関係のないものも、「地球上のもの」のように大きくまとめられますよね。つまり、枠にはまらない斬新なアイデアが浮かぶ可能性があるということです。
具体的思考で止まっていると、狭い枠の中でしか物事を考えられなくなってしまいます。新しいものを生み出すには、抽象的思考が必要なのです。
説明が上手になる
人に何かを説明するときに、「つまり……」とまとめて話すのはまさに抽象的思考。抽象的思考力があれば、わかりやすく簡潔に説明できるようになります。
また、具体例を話したいときにも一度抽象化する必要があります。たとえば、卓球を知らない人にわかりやすく説明しようとする場合、「テーブルで行うテニスみたいなもの」と伝えることができますよね。これは、テニスも卓球も「ネットを挟んでラケットで打つ競技」と広く捉えられているからこそできる説明です。
まとめるのにも具体的に話すのにも、抽象的思考は必要なのです。
抽象的思考がある子どもの特徴
抽象的思考力が発達段階である子どもたち。その中でも、抽象的思考が得意な子どもとそうでない子どもがいます。それでは、抽象的思考がある子どもにはどんな特徴があるのでしょうか?
話を理解するのが早い
少し話しただけで「なるほど」「つまりこういうこと?」と理解できる子どもは、抽象的思考力があるといえます。飲み込みが早いともいえるでしょう。抽象化すると情報量が減るため、頭の中で処理する速度が上がります。そのため、理解したり判断したりするのが早くなるのです。
たくさんの知識や情報を持っている
抽象化するためには、抽象化するための知識が必要です。犬と人間を一つのまとまりにするためには、「哺乳類」という言葉や意味を知っていなければできませんよね。つまり、好奇心旺盛で、いろんなことを知っている物知り博士のような子どもは、抽象的思考力も高い可能性があるということです。
ひらめき力や鋭い考えを持っている
抽象化できると、物事の共通点をたくさん見つけ、つなげられます。そこから斬新なアイデアが生まれることも。他の人とは違う意見や発想を持っている子どもや、誰も気付かない点を突いてくる子どもは、抽象的思考があるといえるでしょう。
例え話が上手
例え話は具体化して話すことですが、そのためには一度抽象化しなければいけません。抽象化できれば、そこからたくさんの具体例につなげることができます。つまり、例え話をしながら上手に説明できる子どもは、抽象的思考力が高いといえるでしょう。
抽象的思考力を伸ばす方法4つ
生活面だけでなく、先々の学習に対応していくためにも、高学年のうちにしっかりと抽象的思考力を育てたいものです。抽象的思考力の伸ばし方を具体的に見ていきましょう。
普段は見えない事象を体験する
具体的な事柄からイメージを導き出す経験を積み重ねてみましょう。
たとえば、顕微鏡を使ってミクロの世界を見る学習は、普段目で見ることができない事象を観察する体験となります。顕微鏡でミクロの世界を自分で詳しく調べたり、観察したりすることを通して、事象を頭の中で操作し、理解する作業がくり返されます。これが抽象的思考力の発達を促すことにつながるのです。
顕微鏡で身近なものを大きく拡大して見ることは、新しいものの見方や考え方を育むことにもなり、科学的な概念の理解を深めることにも役立ちます。
共通点探しをする
ゲームのようにできる方法もあります。それが「共通点探し」です。ただし、「りんごとバナナ」のように簡単に共通点が見つかるものでは意味がありません。抽象的思考を鍛えるためには、無作為に選んだまったく関係のないもの同士の共通点を探すのがポイントです。
たとえば、「テレビとボールペン」。この2つからは「固い、押す(リモコン)と使える、黒いものが多い」といった共通点が見つかります。「時計とりんご」なら、「丸い、3文字でできている、しん(芯、針)がある」といった共通点が思いつきますね。
このように、関係なさそうなものの共通点を探していくことで、さまざまな概念が生まれます。小学校低学年くらいからでも十分楽しめる方法ですから、家族でやってみてはいかがでしょうか。
どんなグループに属するのかを考えてみる
いろんな事物がどんなグループに属しているのかを意識するのもよいでしょう。生活や遊びの中だけでなく、勉強の中でもできます。
たとえば理科。犬、猫、人間は「哺乳類」というグループに属していますよね。イチョウやマツは「裸子植物」で、サクラやタンポポは「被子植物」、そしてそれらはすべて「種子植物」というグループに属しています。
この広いグループのことを上位概念(じょういがいねん)といい、上位に行けば行くほど抽象的になります。つまり、このようにグループを考えていくことは、抽象的思考の訓練になるのです。
なぞなぞやクイズを解いたり出題したりする
なぞなぞやクイズを解くには、固定観念にとらわれない考え方が必要です。たとえば、「パンはパンでも食べられないパンは?」というなぞなぞ。「食べ物のパン」という狭いまとまりにいたら答えられませんよね。答えを出すには、「食べられなくてもパンという言葉が付くもの」と視野を広げる必要があります。これが抽象的思考を鍛えるのに役立つのです。
答えるだけでなく、自分でなぞなぞやクイズを作るのもよいでしょう。親子や友だち同士で楽しみながら、抽象的思考力を鍛えてみてください。
まとめ & 実践 TIPS
抽象的思考力があると、物事の本質が理解しやすくなります。狭い枠にとらわれず、さまざまな視点から仮説を立て、結論を導き出すこともできるでしょう。勉強だけでなく、仕事や生活での問題を解決するためにも、必要な能力だといえます。抽象的思考力の発達時期でもある小学校高学年。ご紹介した方法で、楽しみながら能力を鍛えていってみてください。