学校の「テスト」はそもそも何のため……? -渡辺敦司-
名古屋市の学習塾経営者が情報公開制度を使って全国の公立中学校や高校の定期テスト問題を入手し、インターネット上で販売していたことが報道され、波紋を呼びました。これほど大規模ではなくても、学習塾の中には塾生から学校の定期テスト問題を手に入れて分析し、直前のテスト対策を行っているところもあるといいます。定期テストでいい点を取りたいとは誰しも思うところでしょうが、ここでちょっと立ち止まって考えてみましょう。そもそも学校では、なぜテストを行うのでしょうか?
こんな問いかけは、愚問だと思われるかもしれません。テストは成績をつけるためのものだ、と。しかし、ある意味で世間の常識と教育界との常識が、これほどかけ離れているものはないかもしれません。
今の学校での成績のつけ方が、集団の中で何番目くらいかで測る「相対評価」(集団に準拠した評価)ではなく、学ぶべき内容から見てどれだけ到達したかを測る「絶対評価」(目標に準拠した評価)に変わっていることを、学校から説明された保護者の方々も多いと思います。絶対評価は、前の学習指導要領の全面実施(小・中学校は2002<平成14>年度から)とともに導入されました。クラスや学校の中での成績の競い合いも、あくまで子どもに意欲を持たせる手段であって、今や目的ではないのです。
教育関係者の間では、「指導と評価の一体化」ということが言われています。評価はあくまで次の指導につなげるためのものであって、両者を一体として考えなければならないという考え方で、文部科学省も推奨しています。学校で行われるあらゆるテストはそうした考えで行われており、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)もそうであることは言うまでもありません。つまりテストは、ある時点での子どもの学力の<値踏み>をするものではなく、学力の現状を確かめ、そこからどうやってその子を伸ばし、確かな学力をつけさせるかを考えるためのものなのです。昔、定期テストを全廃して小テストなど普段の授業を重視した評価に替えた公立中学校もあったぐらいです。
読者のかたからは「現実には通知表を反映した調査書が、高校入試や大学の推薦入試に使われているじゃないか」と反論する声が聞こえてきそうです。しかし上級学校に進学するのも、それで次の人生が決まるというより、進学後さらに子どもを伸ばすためのものであることを忘れてはならないでしょう。いま国で大学入試の抜本的改革を検討しているのも、従来の選抜入試が少子化などによって今や社会で役立つ人になるための学力をつけさせるための機能を果たしていないことが大きな要因です。
テストの点さえ上がればすべてよし、と考えるのはもう時代遅れの考え方かもしれません。当サイトでベネッセ教育総合研究所の小泉和義室長が指摘しているように、むしろ自分で勉強する契機として定期テストを活用するという考え方のほうが、学校時代はもとより社会に出てからも学び続ける姿勢を身に付けるためには必要ではないでしょうか。