学校の金融教育では、どんなことが行われている?【親子で学ぶお金の教室第7回】

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元ゴールドマン・サックスのトレーダーであり、書籍『お金のむこうに人がいる』の著者でもある田内学さんと、金融庁や東京都で金融経済教育を担当する中村香織さん。2人の金融教育の第一人者に聞く「親子で学ぶお金の教室」特別編!

後編では、現在学校の金融教育で行われていること、また金融リテラシーを高めるための今後の展望について伺いました。

前編:幸せに生きるための金融教育とは?【特別対談】お金の教室第6回

小中高で行われている金融教育とは?

——金融庁では、小中高と多くの学校で金融教育のプログラムを実施されています。それぞれどのようなことをされているのでしょうか?

中村香織さん(以下:中村)
小学校では、計画的にお金を使えるようになるため、必要なもの(ニーズ)と欲しいもの(ウォンツ)を区別することから教えています。優先順位が高いものは、必要なもの(ニーズ)。そこがごっちゃになってしまうと、いくらお小遣い帳をつけたところで、計画的な使い方はできないですよね。

また、キャッシュレス化が進んでいることを受けて、便利さとその裏側にある注意点も伝えています。学習指導要領上は、中学で扱う内容ですがキャッシュレスは小学生にとっても身近なものなので、時間が許す限り、前倒しで扱っています。

中学校では、家計管理などに関する金融教育のほか、トラブルに遭わないための知識を身に付けるための消費者教育も行っています。契約の基本やキャッシング・リボ払いの注意点、多重債務などについても扱っています。

田内学さん(以下:田内)
小学校でも扱っていたキャッシュレスについては、どうですか。

中村:小学校では、「見えないお金」もあるよね、という話や、使った実感を持ちづらいといった注意点を伝えていた程度ですが、中学校ではキャッシュレスのメリットとリスクについてもう少し踏み込んでいます。現金を持ち歩かなくて良いこと、アプリなどを上手く利用すれば使い道や金額が把握できるのは確かに便利ですが、災害時や通信障害時には使えないというリスクもありますよね。そのため、現金も多少は持っておくのがいいことなどを伝えています。

2022年度から新学習指導要領が始まった高校では、ライフプランニングとお金の関わりという話からしています。高校生は進路や将来のキャリアに向き合う時期。「こうなりたい」「こう生きたい」「こんな生活がしたい」という希望をかなえるには、お金も切り離せないものですよね。まずは自分の将来を展望してみること、そして、その希望を叶えるために、どのようなお金がかかるか、どうやってそのお金を用意するか、を考えるきっかけになればと思っています。

田内:ライフプランニングを行うことで、お金は「目的」ではなく「道具」であることも実感できるでしょう。よりよい選択、意思決定をし、幸せになるためのお金の知識を身に付けていってほしいですね。

——金融教育の授業を受ける生徒たちは、どのような反応を示していますか?

中村:「お金は持っているだけで幸せになるのではなく、いつかどこかで使うことによって幸せになるもの」という話をすると、小中学生だけでなく、高校生や大学生もハッとしますね。お金は「目的」ではないという点は、非常に重要だと思います。

田内:高校では「家計管理」「ライフプランニング」「資産形成」が3つの柱となっていると思いますが「資産形成」への反応はどうでしょうか。なかなか当事者意識を持ちづらい部分もあるのではないかと思っています。

中村:確かに、当事者意識を持てず難しく感じる生徒もいますね。ただ、導入として現在の金利について具体的な数字と合わせて伝えると「えっ、100万円預けても10円くらいしか増えないの? 全然ダメじゃん」と驚いて、株式や投資信託に関心をもつ生徒さんもいらっしゃいます。

田内:資産運用を自分ごととしてとらえると、投資詐欺などに遭わないための知識も身に付けていきやすいでしょうね。当事者意識がないままだと、「確実に年率10%もうかる」という怪しい話に対して警戒心が働かず、だまされてしまうリスクもあるでしょう。

学校の金融教育の展望

——生徒たちの反応も踏まえて、今後学校の金融教育でもっと伝えていきたいことはありますか?

田内:税金についてもっと掘り下げて扱っていきたいですね。とある全国紙で金融の有識者に「金融教育で何を教えるべきか」アンケートを行った際に、1位となったのも税金でした。

税金の仕組みがわかると大局的な視点でお金をとらえられるようになります。家計管理の観点だけでみると、税金は少ないほうがいいもの。でも、税金がどう使われて、誰が働いているのかをつかむことで、お金を介しての社会の支え合いの仕組みも実感できますし、税金を支払う必要性も理解できるでしょう。

税金にフォーカスすることで、金融教育をもっと科目横断的な学びにすることもできるのではないかと考えています。

中村:税金はもちろん、お金をもっとポジティブにとらえられるような在り方ももっと考えていきたいですね。学校の金融教育のなかで、投資詐欺や金融トラブルの話もするのですが、そこだけが強烈な印象に残り「お金は怖い」「投資は避けたほうがいいのかも」ととらえられ、歯がゆい思いをすることもあります。お金の話をすることは、あまり行儀がよくないと思われる部分もありますよね。

そのための工夫として、金融教育の授業では、最初と最後に必ず「お金は自分の望む生き方や幸せ《well-being》を実現するためのもの」と伝えたり、面白おかしく学ぶきっかけ作りとして「うんこお金ドリル」のリリースなども行ったところです。

田内:「寄付」をする文化があまりない日本では、お金は自分のために使うものという固定観念がありますよね。寄付は自分のお金を他者や社会の幸せに役立てるもの。寄付について学ぶことで、意識が変わる部分があるかもしれません。

中村:小学生向けには、寄付の話もしています。お金の使い方には「ためる」「使う」「ゆずる」「増やす」の4つがある、ということを紹介したりしています。(※1)投資が社会を発展させることにもつながることを伝えるのと同様、他者・社会のための使い方として「寄付」を扱うこともできそうです。

田内:高校の必修科目の「公共」では、公共空間をどうデザインするかを学びます。私は教科書づくりにも携わっていたのですが、教科書の中に「寄付」を入れるのがいいという意見が多く出ていました。社会のためのお金の使い方を知ることで、お金をとらえる視座があがるのではないかと考えています。クラウドファンディングにもその側面があるかもしれませんね。

中村:増やし方など狭義のお金の学びではなく、自分が幸せになるためのお金の学び、お互いに支え合い社会が豊かになっていくためのお金の学びをもっと伝えていきたいですね。これからの宿題です。

©田内学/中村香織/コルク

※1
・子ども向け金融教育を行う「キャサリンとナンシーの金融教育」のプログラム内容
・投資教育家&ファイナンシャルヒーラー岡本和久氏の考え方を参考にしています。

【特別対談】前編 幸せに生きるための金融教育とは?

まとめ & 実践 TIPS

お金を考えることは、自分の望む生き方をし、幸せに生きるために必要なこと。それだけでなく、他者や社会を豊かにすることにもつながること。狭い範囲でお金をとらえることなく、広い視点で考えていきたいですね。お子さまとも、お小遣いの使い方や無駄遣いについて話すだけでなく、ライフプランニングも踏まえて一緒に話し合ってみるのもいいですね。


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プロフィール

田内学

田内学

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社刊)、高校社会科教科書『公共』(共著・教育図書刊)

プロフィール

中村香織

中村香織

2006年金融庁入庁。2020年より金融庁総合政策局総合政策課・総合政策管理官として金融経済教育を担当。「うんこお金ドリル」の企画・制作にも携わる。2022年7月より東京都政策企画局戦略事業部へ出向。引き続き金融教育の推進を担当している。

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