小学校のクラス替えはどう決める?保護者の要望は通る?元小学校教員に聞いた

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学年が変わると行われることがあるクラス替え。誰と一緒のクラスで、誰と別のクラスになるか気になりますよね。どのように決められているのか疑問に思うこともあるでしょう。

クラス替えの理由や、決め方について、20年以上の小学校教員経験を持つベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター・庄子寛之主任研究員に聞きました。

この記事のポイント

クラス替えをする理由は? いつ決めるの?

クラス替えをする理由は? いつ決めるの?

【Q】クラス替えをする理由は何ですか?

(A)新しい人間関係の中で子どもたちの伸ばせるところを見つけていくためです。

クラス替えにはいろいろな狙いがありますが、大きな理由としては、人間関係の固定化によって子どもたちの成長が妨げられることを防ぐことが挙げられます。人間関係が固定されると居心地のよさを生む半面、もっと伸ばせる部分があるのに伸びにくくなってしまうこともあります。お子さまのクラス内でのキャラクターが決まってしまうことなどが原因です。

その点、クラス替えが行われると、新しい人間関係をつくっていく中で、自分の得意なことに気付いたり、これまでとは違う役割を担ったりできるようにもなります。新しい人間関係をとおして、いいところを伸ばし、成長していくことができるといえるでしょう。

また、クラス内で人間関係のトラブルがある場合には、クラス替えはそれをリセットするタイミングにもなります。そのため、クラス替えの頻度も毎年というケースが増えています。

学校は、社会の縮図です。
社会に出ると、さまざまな人と関わって協力していく力が必要です。
クラス替えは、新しく関係性をつくるという経験を積む機会であるともいえますね。

【Q】いつごろ、次のクラスを決めていますか?

(A)2~3月ごろに検討することが多いです。

学年末の通知表を付ける時期でもある2〜3月ごろに、新しいクラス編成を検討することが多いです。教員にとって非常に忙しい時期であるため、3月に検討するケースのほうが多い印象です。また、実際にクラス編成の検討が始まる前から、児童・生徒の状況についてのヒアリングや把握を進め、情報を蓄積しています。

クラス替えの決め方は?

クラス替えの決め方は?

【Q】クラス替えで最も重視していることは?

(A)バランスのとれたクラスにすることです。

さまざまな要素を考慮しますが、最も重要なのは、「学級間格差がなく、全員の個性が伸びやすい、長所の入り交じったクラスにすること」です。

【Q】クラス替えは、一般的にどのように決めていますか?

(A)たとえばスポーツの得意な子、リーダーシップのある子など、長所を振り分け、「学級間の格差がなく、いろいろな個性が集まっているクラス」を目指します。

より多くの子が自分のよさを発揮する機会をつくれるよう「長所を分散させる」というのが基本です。その他さまざまな要因を複合的に踏まえて決定するため、一概にいえるわけではありませんが、子どもたち全員が活躍できるクラスになることを最も重視して検討されています。

たとえば一つのクラスにスポーツができる子ばかりを集めてしまうと、クラス全体の個性に偏りが出てしまいます。運動会でクラスの中で数人しか選ばれないリレー選手に、スポーツが得意であるにもかかわらず選ばれない子も増えてしまいます。スポーツができる子たちを複数のクラスに分ければ、スポーツが得意な多くの子たちに、より多く活躍の場を与えられます。

また、リーダーシップのある子や、ピアノが弾ける子をそれぞれのクラスに分けることもあります。

なお、成績で振り分けることは一般的にあまりありません。成績よりも、それ以外の長所を分散させることや、人間関係などでトラブルが起きづらいクラスにするほうが優先です。最終的にはクラス間による学力の格差がないように調整は行いますが、あくまで成績は一つの要素に過ぎません。

具体的な決め方の手順は、学校によってさまざまですが、一例を挙げると、次のような形です。

1. 児童・生徒一人ひとりのカードを作って、長所を記入する。

2. 同じ長所を持つ子が一つのクラスに固まりすぎないように、クラスを分散させる。

3. 人間関係や全体のバランスを見て微調整をしていく。

クラスが決まったあとは、担任を決めていきます。教員の間でよくいわれるのは「このクラスを持ちたい」とどの教員も思うクラスがないことが、公平でよいクラス替えができた証拠だということ。誰もが持ちたいクラスというのは、長所が一極集中したクラスといえますからね。

【Q】児童・生徒同士の人間関係がクラス替えに影響するのは、どんな場合ですか?

(A)これまでに、いじめなどのトラブルが発生している場合などです。

いじめや、いじめが考えられる場合は配慮します。高学年になるほど1年生の時からの申し送りがたくさん残っていますので、いろいろなものを判断材料にしています。

「仲がよすぎるとバラバラにされる」という話を聞くこともあるかもしれませんが、わざわざ意図的に仲良しな子たちを狙って別のクラスにすることはないと思います。ただ、他の要因で分けていった結果として離れることはあるかもしれません。

また、保護者から人間関係のトラブルなどを理由に、同じクラスにしないでほしいといった要望があった場合も、事情を検証したうえで考慮に入れることもあります。

【Q】クラス替えで長所の振り分けや人間関係以外に配慮していることはありますか?

(A)特別な配慮が必要な場合など、その子の個性を考慮しています

特別な配慮が必要だという点も一つの個性として考慮します。配慮が必要な子に対して適切な対応をとることを目的として、クラス編成を検討します。

クラス替えで気になる「あのウワサ」Q&A

クラス替えで気になる「あのウワサ」Q&A

【Q】「クラス替えはくじ引きで決める」というのは本当ですか?

(A)「くじ引きでクラス替えをしている」という例は聞いたことがありません。

すべての学校の事例を知るわけではないので、もしかしたら、くじ引きによるクラス替えもあるかもしれません。しかし、全国数多くの事例を見てきた私の知っている限りでは、そうしたやり方を実際に聞いたことはありません。

双子など、同じ学年にきょうだいがいる場合はクラスが分かれるというのは本当ですか?

(A)基本的に分けます。

同じ学年にきょうだいがいる場合、一緒のクラスにする理由があまり考えられません。単学級(1学年に1クラスしかない学校)の場合は除きますが。きょうだい同士が比較されるのは、その子たちにとってよいことではありません。それぞれが、それぞれの個性を認められる場所を用意するのが基本です。
ただし、最近では分けないケースも見られるようになってきました。書類のやり取りや、保護者会、面談などの調整がしやすいというのがその理由です。

【Q】1年生のクラスは、どうやって決めていますか?

(A)1年生のクラスは、幼稚園や保育園からの情報、就学時健診の際の様子などをもとに決めます。

1年生の場合、幼稚園や保育園から上がってくる情報や、入学前の就学時健診に来た際の様子を判断材料にするケースが多いです。その小学校に入学する子どもが通っているほぼすべての幼稚園、保育園を訪れてヒアリングをします。特別な配慮が必要な子については申し送りもありますので、教員がきちんと対応できるように一つのクラスに固まらないように考慮することもあるようです。

限られた情報の中ででも、できる限り子どもたちにとってもよいクラス編成になるようバランスがとれるようにしています。

クラス替えに対する要望を伝えてもいいの?

クラス替えに対する要望を伝えてもいいの?

【Q】児童・生徒や保護者からクラス替えについて要望を出してもいいですか?

(A)トラブルにつながる可能性がある場合は、クラス替えに限らず、いつでもご相談されたほうがよいと思います。

表面から見えにくい心理的に奥のほうで起こっているトラブルは、教員も把握できていないことがあります。あとでトラブルになったり子どもたちが苦しい思いをしたりする可能性がある場合は、教員に相談されることをおすすめします。

ご相談は電話でも、直接会うのでも大丈夫です。ご相談された内容を含めて、総合的に検討するので最終判断は学校側にはなりますが、単純にクラスを分けるという以外の方法での対処も視野に入ってくるでしょう。こうしたご相談は、クラス替え以外のタイミングでも遠慮なくされたほうがよいと思います。

また、トラブルにつながる可能性が続いている限りは、毎年要望を伝えたほうがよいでしょう。一度伝えたから次の年は伝えなくても大丈夫だろうと思うのは要注意。うまく情報が引き継がれていない危険性もありますし、要望がないことで状況が改善したと思われるようなこともあるかもしれません。

新しいクラスになじめない子にはどう対応する?

新しいクラスになじめない子にはどう対応する?

【Q】子どもが新しいクラスになじめない場合、どうフォローしてあげればいいのでしょうか?

(A)いきなりアドバイスはNG。まずは共感的に話を聞いてあげてください。

新しいクラスに仲良しの子がいなかったり、新しい先生で緊張してしまったりしているお子さまには、「話しかけなさい」などと責めたり過敏に反応したりするのはNG。

急いで解決策を提示するよりも先に、「そっか、それは不安だよね」など、まずは共感を示すようにしましょう。そして、子どもの様子を見ながら「朝、あいさつをしてみよう」など小さいことから少しずつアドバイスをしてみてはいかがでしょうか。また、実際にあいさつができたり、新しい友達ができた際にはぜひほめて勇気付けるようにしてあげられるといいですね。

教員も、新しい環境に緊張しがちな子や、友達と仲良くなるのに時間がかかる子は事前に把握しています。教員からのフォローもあるので、心配しすぎないでくださいね。気になる場合は、遠慮なくご相談いただければと思います。

また、クラス替えのあとは「前のクラスのほうがよかった」「友達とクラスが離れちゃった」と残念な気持ちになる子どもが多くいるものです。前のクラスとの人間関係が強い4〜5月は、休み時間の廊下の人口密度がとても高くなるというのが教員の中での「あるある」です。しかし、ゴールデンウイークが終わるころには新しい関係ができて、落ち込んでいた子も前向きになっているなど、落ち着いてきます。

子どもたちには新しい人間関係をつくっていく力があるので、4~5月はその力を信じて見守ってあげる時期です。クラス替えを重ねることで別のクラスの知り合いも多くなり、世界が広がっていくでしょう。

まとめ & 実践 TIPS

クラス替えは、子どもたちの成長や長所を発揮しやすい環境をつくるためにバランスを考えながら決められているとのこと。まずは「新しいクラスはどう?」など、お子さまの気持ちを穏やかに聞いてみてはいかがでしょうか。

新しい学年になる4月は、クラスメートだけでなく求められることや学習内容等も含め、さまざまなことが変化する時期です。子どもたちは、時間をかけながら新しい環境に慣れていくことが多いもの。ご家庭でも、せかさずゆっくり見守ってあげてください。

編集協力/岡 聡子

プロフィール


庄子寛之

公立小学校の教員を20年近く務めた後現職。
臨床心理学科を修了し、人をやる気にさせる声かけや環境づくりを専門とする。
全国各地で研修を行い、研修回数は400回を超え、受講者も1万人以上となる。

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