「セールで得をするか損をするか」お得が好きな私たちが知っておきたいこと【親子で学ぶお金の教室②】

元ゴールドマン・サックスのトレーダーであり、現在は高校社会科教科書にも携わる田内学さんによる連載「親子で学ぶお金の教室」の第2回。セールを利用するなら重要なことがあると、田内さんは言います。果たしてそれは何なのでしょうか。

この記事のポイント

連載2回目の今回は「価格と価値」についてのお話です。まずは、クイズから考えてみましょう。

Q. ある高級スーパーでは、1杯500円の高級ジュースが売られています。そのジュースがある日、セールで300円で売られていたので、あなたは買って飲みました。しかし、次の日200円に値下がりしていました。このとき、あなたは得をしたのでしょうか、損をしたのでしょうか?

学生にこのクイズを出題すると、いろんな答えが返ってきます。
「200円得をした」
「違うよ、さらに値下がりしたんだから100円損をした」
「いや、飲んだときは300円で売られていて、それを300円で買ったのだから、損も得もしていないはずだ」
このように議論が紛糾するのですが、次の質問を投げかけると皆さん我にかえります。

「このジュースはおいしかったのでしょうか?」

価格にとらわれるあまり、誰も味については考えていなかったのです。

今日のテーマは「価格と価値」のお話です。
私たちがお金を使うときに、「お買い得」という言葉に惑わされることがあります。いつも500円で売られているものが300円で買えると、「お買い得」だと思い込んでしまうのですが、本当に得をしたのかどうかは、300円という価格に対して、その味が満足できるものだったかどうかによります。損をしたか、得をしたかは、人によって違うはずです。

「売るときの価値」と「使うときの価値」

バーゲンセールやお正月の福袋を購入するとき、定価より大幅に安く買えることがあります。安く買えた分だけ得をした気がしますが、買ってみたものの気に入らない服だったりして、後悔したことがあるかたも多いのではないでしょうか。
これは私たちが価値を認識するときに、2つの価値をごちゃまぜにして考えるからです。「売るときの価値」である価格と「使うときの価値」である効用です。価格が表しているのは「売るときの価値」です。

たとえば、原価は、製造業者がお店に売るときの価値ですし、定価は、お店がお客さんに売るときの価値です。セールで安く売るときは、当たり前ですが「売るときの価値」は下がっています。このクイズで手にしたジュースを転売することを考えているのなら、「売るときの価値」、つまり価格が全てです。300円でこのジュースを購入して、メルカリで500円で売れば、200円得することになります。この場合、ジュースの味は関係ありません。

しかし、このクイズでは、ジュースを買って飲みました。そのジュースがいくらで売れそうかなんて、もはや関係ありません。ここで重要になるのが、もう一つの価値である「使うときの価値」です(経済学では効用と呼ばれたりします)。
この場合、多くの人にとっての「使うときの価値」は「ジュースがおいしいかどうか」ではないでしょうか。300円で買ったジュースが想定以上においしければ、「お買い得」ということになります。
もちろん、「味なんかどうでもいい。人よりも安い価格で買うことに価値がある」というのであれば、それは否定しませんが。

いずれにせよ、「使うときの価値」は一人ひとりにとっては別物であるはずです。

価格・・・売るときの価値、商売人にとっての価値(金額)
効用・・・使うときの価値、利用者にとっての価値(満足度)

自分の価値観を磨けば、幸せになれる

昔、ワインスクールの体験講座に参加したときに、こんな質問をソムリエの先生にしたことがありました。
「高いワインと安いワインはそんなに味が違うんですか? スクールに通うとそれが見分けられるようになるんですか?」
テレビでも、目隠しした芸能人が高いワインと安いワインを見分けたりする番組がありますよね。安いワインを「おいしい」と言ってしまって、肩身の狭い思いをしている芸能人を見ては、テレビの前でゲラゲラ笑っていたりします。

しかし、ワインスクールの先生の答えを聞いて、ハッとしました。
「1本10万円のワインは、いいワインです。いいところを100個も200個も持っています。1本1,000円のワインだって、いいワインです。いいところをいくつか持っています。1,000円のワインがおいしいと感じる人は、味がわからない人ではありません。その逆です。いいところに気付くことのできる幸せな人です。おいしいかどうかは価格が決めるのではなく、あなたが決めればいいのです。
このワインスクールで学んで、一つでも多くのいいところを見つけられるようになってほしいと思います」

幸せになるためには、金額ではない自分の幸せのモノサシをもつこと、価値観を磨くことがつくづく重要だと思ったのです。

幸せにつながるお金の使い方

価格や周りの評価に振り回されることなく、一人ひとりが自分自身の幸せのモノサシをもてれば、自分の幸せに直結するお金の使い方ができるようになります。そして、社会の幸せにもつながります。それは、私たちの消費行動は、社会へ投票しているともいえるからです。

企業が生産するものは、みんなが消費するもの。価格の高いものに価値があるとみんなが信じれば、高級品ばかりがつくられます。品質がいいものしか買わなくなれば、企業は高品質の製品をつくる努力をします。自然に価値があると考える人が増えて、環境に優しい製品を買う人が増えれば、社会は自然と環境に優しくなっていきます。
一人ひとりの価値観を磨くことが、現在や未来の社会をつくることにつながります。

個人のお金の使い方だけでなく、国レベルでも同じことがいえます。
税金を使って、あまり使われない公共施設をつくるときに、こんな言い訳を聞くことがあります。100億円使っちゃったけど、100億円の空港が完成しているのだから問題ないでしょ、と。
これも、先ほどの「使うときの価値」と「売るときの価値」を混同している例です。100億円かけてつくった空港は、誰かに転売できるはずがないものですから、「使うときの価値」が高くないのであれば、ただの無駄遣いです。
個人でも国でも「使うときの価値」が高まるお金の使い方を心がける必要があります。

この「親子で学ぶお金の教室」を読まれている保護者のかたは、自分を幸せにするお金の使い方についてお子さまと話し合ってみてはどうでしょう。
政治家をされているお子さんがいるかたがいらっしゃいましたら、ぜひ、「使うときの価値」が高まるような税金の使い方をするようにご指導お願いいたします。

お金の向こうに人がいる

お金中心に経済をとらえていると、お金さえあれば自分一人で生きている気がします。お金を稼ぐために働いていて、そのお金を使うから生きているのだと。
いつしか、自分自身と自分の財布の中身にしか興味をもたなくなっていて、社会の中で支え合っている人たちとの関係が見えなくなっているのが、現代の日本の抱える問題点ではないでしょうか。

私たちの支払うお金の向こう側には、必ず働いている人々が存在しています。逆に、私たちが働いて受け取るお金の向こう側には、幸せになっている人々が必ず存在しています。お金の向こう側にいる人々を想像すれば、自分と社会のつながりが見えてきます。
私の著書『お金のむこうに人がいる』では、お金と経済のさまざまな疑問を解き明かしています。「誰が働いて誰が幸せになっているのか」さえ考えれば、どれもシンプルな答えにたどり着きます。

次回は「もったいないの正体」について考えます。

連載第1回はこちら
明らかにおかしいのに驚くほど正答率が低いお金の3択クイズ【親子で学ぶお金の教室①】

連載第3回はこちら
私たちが知らずに無駄遣いしているものとは?【親子で学ぶお金の教室③】

連載第4回はこちら
子どもが5秒で家事を手伝う家庭内紙幣の作り方【親子で学ぶお金の教室④】

『お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門』(田内学著・ダイヤモンド社刊)

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プロフィール

田内学

田内学

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社刊)、高校社会科教科書『公共』(共著・教育図書刊)

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