子どもへのお金の教育、何を教える?どう始める? 見過ごされがちな「視点」とは

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2022年度から、小学校・中学校・高校で金融経済教育が義務化されました。成年年齢の引き下げによる金融トラブルの防止や、老後資金を見据えた資産形成などに対応するために、お金に関する知識は必要不可欠です。

家庭ではお子さまにどのようにお金について教えていけばよいのか。また、学校ではどのような取り組みがされているのか。2024年10月に行われた金融経済教育イベント(※)から見ていきます。

次世代を担う子どもたちのための金融経済教育イベント「親子で学ぶお金のコト」「学校で学ぶお金のコト」

この記事のポイント

「お金があればなんでもできる」のは本当か?

本イベントは、「子どもにとってのお金の学び」をテーマに開催され、大勢の小中学生と保護者が参加しました。

保護者向けの講演では、『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)の著者で、社会的金融教育家の田内学氏が、金融経済教育の重要性と社会的視点の必要性について説明しました。

「金融経済教育は、お金や金融のさまざまな働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育です(知るぽると:金融広報中央委員会ウェブサイトより)。
資産形成などの話は一部分であって、大切なのは自分と社会の両方の視点でお金について学び、自分の生き方や社会の在り方を考えていくことです」(田内氏)

自分のお金のことを考えるのに、なぜ社会の視点も必要なのでしょうか。

田内氏は例として、「学校で勉強できるのは誰のおかげ?」と質問すると、多くの人が「親」「政府」と答えることを挙げました。この答えは、自分個人の視点でお金のやり取りをとらえたものであるといえ、社会の視点で考えると、学校で勉強できるのは「先生」がいるからという答えが浮かびます。

「自分中心の経済のとらえ方では、お金さえあれば何でもできると考えがちです。しかし、社会の視点で見ると、働く人がいるから自分は生きられるという考え方が生まれます。ここにあるペットボトルでも、社会の視点で考えると、水質検査をする人、ボトルを作る人、商品を運ぶ人など、さまざまに働く人がいて、自分の手にペットボトルがあることが見えてきます」(田内氏)

「自分と社会の視点でお金をとらえることが大切」と語る田内氏

子どもに自分の仕事の話をしよう

それでは、子どもが社会の視点を持てるようにするために、家庭ではどうすればよいのでしょうか。田内氏は、保護者が子どもに自分の仕事の話をし、仕事の意義やお金との関係を子どもが考えられるようにすることが大切と語りました。

「子どもから『なぜ働いているのか』と聞かれた時、多くの大人は『家族の生活のためだよ』とお金の話をしがちです。しかし、会社員であっても、仕事が自己実現につながったり、生きがいを感じて仕事をしたりしているはずです。そうしたお金だけでない仕事の側面が子どもに伝われば、子どもは将来、働くことを単にお金もうけととらえずに、自分と社会を結びつけて考えられるのではないでしょうか」(田内氏)

そして、最後に次のように呼びかけました。

「『子どもにお金について教えたいが何をすればよいか、周りがやっているから気になります』と保護者のかたから質問を受けますが、焦る必要はありません。お子さまにどんな人になってほしいのか、そのために何が必要なのかをまずは考えましょう。子ども一人ひとりに特性や個性があり、それを最もよく知っているのは保護者です。我が子によいと思うことを主体的に試行錯誤して、伴走していくことが大切だと思います」(田内氏)

高校では、高校生が社会に出て学ぶ授業が拡大

さらに、教員向けの講演として、高校2校の事例が紹介されました。

1校目は、群馬県立伊勢崎高等学校の取り組みです。高校の家庭科では、金融経済教育が義務化されたことで、授業内容が変わりつつあります。

同校の家庭科では、2013年にバングラデシュで起きた縫製工場ビル崩落事故を題材に、自分の生活と経済とを結びつけて考える授業が行われました。千人以上の死者が出た事故が起きた背景に、ファストファッションのコストが優先され、安全性や労働環境がないがしろにされていた問題があったことを生徒は学び、そのうえで、自分はファストファッションを買うか、買わないか、その理由も含めて考えます。

「そうした課題を通じて、生徒は、自分はどんな仕事をして、何のために働くのか、そして、どんなお金の使い方をするのかを考えるようになります。そして、お金を稼ぐ目的は自分だけが幸せになることではないことを理解していきます」(高橋みゆき校長)

2校目は、茨城県立下妻第一高等学校の取り組みです。同校は、公募により2023年度に赴任した民間出身の生井秀一校長が、「変化の早い時代において、どんな人にもアントレプレナーシップ(注:定義はさまざまだが、ここでは「新たな価値を生み出していく精神」を指す)が必要」として、探究学習を推進しています。

たとえば、文化祭では、生徒主体で古着のファッションショーを開催。その活動を通じて、生徒はSDGsについて深く学びました。
同校が重視しているのが、生徒が探究学習をアウトプットすることです。探究学習に関する校内の発表会は、生徒全員参加で年3回実施。学外のコンテストに積極的に応募しています。

「コンテストのエントリーシートを見ればわかりますが、探究学習で行う企画の立案は、新規性や構成力が求められますし、企画を設定するためには先を見る力や予測する力が必要です。よい着眼点がなければ課題は立てられませんし、課題を成し遂げるには、やり抜く精神や周りの人を巻き込む行動力が大切です。探究学習は非認知能力を育む活動であり、だからこそ力を入れていくと、教員にも生徒にも伝えています」(生井校長)

コンテストのエントリーシートから、探究学習で身に付けられる非認知能力が見えてくると語る生井校長

高校では子どもと社会を結びつける活動が拡大しています。それが、子どもが働くことや生き方について考えることにつながり、金融経済教育の一環になっているといえるでしょう。

  • (※)イベント概要
  • 日時 2024年10月20日(日)
    12時30分〜15時30分
  • 主催 金融経済教育推進機構(J-FLEC)、
    野村ホールディングス株式会社
  • 協力 株式会社NTTドコモ、
    株式会社ベネッセコーポレーション

※アーカイブ動画は下記からご覧いただけます。
https://www.nomura.co.jp/fin-wing/lp/j-flec_event2024/

金融経済教育推進機構(J-FLEC)
一人ひとりの金融リテラシーの向上を目的として金融経済教育を提供するために発足した、法律に基づく認可法人。小中学生向けや高校生向けの教材が無料でダウンロード可能。

https://www.j-flec.go.jp

プロフィール

田内学 たうち・まなぶ

お金の向こう研究所代表、社会的金融教育家
1978年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、ゴールドマン・ サックス証券で金利や為替のトレーディング業務に従事し、日本銀行の金利指標改革にも携わる。2019年より社会的金融教育家として講演や執筆活動を始める。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、高校社会科教科書「公共」。「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリを受賞した『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)は25万部を超えるベストセラー。ウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会所属。

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