プロのトレーダーだけが知っている“マンガ家への投資”は儲かる?お金の教室第5回

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元ゴールドマン・サックスのトレーダーであり、現在は高校社会科教科書にも携わる田内学さんによる連載「親子で学ぶお金の教室」の第5回。今回は、マンガ家に投資してみたお話を通して、投資の本質を考えてみましょう。

この記事のポイント

お金の教室の第5回は投資についてです。
「今はどんな投資が儲かるの?」
私は長年、証券会社で債券や為替のトレーダーをしていたので、久しぶりに会う知人には必ず投資の話を聞かれます。

投資というと「お金を増やすこと」だと思われるかたが多いですが、それは投資の「資産運用」という一面だけしか語っていません。
今回は、仲間と一緒に行っているマンガ家への投資の話を通して、投資の本質についてお話ししようと思います。

マンガ家に投資してみた

マンガ家への投資の話は株式会社コルクでマンガ家を育成している佐渡島庸平さんとの会話から始まりました。
「マンガ家をめざす人の多くは、生活するために別の仕事をしています。あと一歩で、一人前になれそうな人たちには、毎月固定給を払って、マンガに集中してもらいたいんですよね」
そこで思いついたのがマンガ家への投資。ざっくり言うと、はじめの数年間、固定給をマンガ家2人に支払う代わりに、将来、マンガの収入の一部を受け取るというものです。

マンガが大ヒットすれば大きく儲かりますが、一方で投資金額をほとんど回収できないこともあります。いわゆるハイリスク・ハイリターン(高収益を得ることもできるが、損失をこうむる危険性も高い)の投資です。
こういうハイリスクの投資は参加する人が少ないのですが、意外にもわずか数日で投資家を集めることができました。誰の役に立つのかよくわからない投資よりも、よっぽど魅力的に映ったらしいです。

この投資のゴールは、彼らがプロのマンガ家として一人前になって、将来描いたマンガで人々を感動させることです。結果としてマンガにお金が支払われ、私たちも投資した利益を受け取ることができます。仮にマンガ家として成功しなかったとしても、マンガ家の夢に挑戦させてあげることができます。

大赤字の活動報告会

年2回、投資家たちとマンガ家2人が参加する活動報告会が開催されます。そこでの楽しみは、半年間の収益報告ではなく、マンガによる2人の活動報告。今描いている作品の話だけでなく、抱えている悩みもマンガに描かれていて、味わい深いです。

(マンガ ©惑丸徳俊/コルク)

収益については、毎回大赤字です。
もしも、これが普通の投資であったなら、お金ばかりに注目が行き、こんな暴言が飛び交っていたことでしょう。
「利回りがどうしてこんなに低いんだ。どうにかしろ」
「従業員を切って、利益を増やせ」

投資家の怒号の中、報告書は破り捨てられるかもしれません。
ところが、このマンガ家の活動報告会では、投資先の《人》が見えているから、まったく雰囲気が違うのです。投資家もマンガ家とともに夢を見ているような感覚なので、うまくいっていなかったら励ましてあげようという気になります。

そして、この投資を始めてすぐに、一つの結果が出ました。といっても、儲かったわけではありません。とある喫茶店を紹介するマンガがTwitterでバズったのです。その結果、経営危機に陥っていたその喫茶店にはお客さんが来るようになり、ネットニュースでも話題になりました。投資自体への見返りはなくても、社会のどこかで幸せになっている人がいれば、投資は無駄ではなかったといえるのではないでしょうか。

ちなみに、このマンガを描いた髙堀健太さんは、進研ゼミ中学講座ミライ科で現在連載中の『ミライ中学投資部!』の作画担当者でもあります。

田内学 連載 「ミライ中学 投資部!」 第1話

(マンガ ©髙堀健太/コルク)

未来を形作る投資

さて、投資とは一体何でしょうか?
投資という言葉はさまざまな場面で使われます。
「勉強は将来の自分への投資だ」
「道路や図書館は公共投資で作られている」
「会社の発行した株に投資する」

これらすべてに共通することは「将来のためにお金や労力を使うこと」です。
勉強が投資と呼ばれるのは、自分の将来の可能性を広げることに労力を使うからです。公共投資によって道路や図書館が作られるのは、将来の人々の暮らしをよくするためです。
会社へ投資されるお金も同じです。将来、その会社が提供する商品の研究開発などに使われます。

先ほどのマンガ家への投資も、《マンガ》という商品の研究開発を行っているのです。それによって、消費者である《読者》が幸せになり、その対価として支払われるお金の一部が投資家に返ってきます。
投資家にとってはお金を稼ぐことも大事ですが、社会全体にとって重要なのは、現在の労力を将来の誰のどんな幸せのために使うのかということです。

私たちが現在便利な暮らしを送れているのも、過去の投資によるおかげです。たとえば、いつも使っているスマートフォン。世界中のニュースにアクセスできたり、SNSで知らない人ともつながったり、ワンクリックで欲しいものを購入したりできます。この20年の間に情報技術が大きな進歩を遂げたのは、情報技術に多大な金額が投資されたからです。そこには、投資されたお金を受け取って研究開発を行ってきた人々の努力があります。
もし、情報技術に投資されていなければ、こんなに便利な暮らしを送れていなかったはずです。

資産形成は、投資の一つの側面でしかありません。投資によって未来の社会が変わります。投資をするということは、どんな未来を形作りたいかという一人ひとりの意思の表れでもあるのです。

ここまでの5回では、お金を通して、私たちと社会(他の人々)がどのようにかかわっているかを学んできました。お金の向こう側にいる人々を想像できるようになってきたのではないでしょうか。
自著『お金のむこうに人がいる』では、「なぜ、家の外ではお金を使うのか」「お金が偉いのか、働く人が偉いのか」「なぜ、大量に借金しても潰れない国があるのか」などについて考えながら、お金によって私たちと社会がどのようにつながっているのかを考えていきます。
お子さんに教えるべきお金のリテラシーを見つけてもらえると幸いです。

最終回の次回は、今年度から高校で始まった金融教育について、金融庁の担当者のかたのお話を伺います。

©田内学/コルク

プロフィール

田内学

田内学

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社刊)、高校社会科教科書『公共』(共著・教育図書刊)

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