明らかにおかしいのに驚くほど正答率が低いお金の3択クイズ【親子で学ぶお金の教室①】

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2022年度から高校で「金融教育」の授業が始まることもあり、現在お金の教育について興味が高まっています。元ゴールドマン・サックスのトレーダーであり、現在は高校社会科教科書にも携わる田内学さんによる、連載が始まります。

この記事のポイント

いきなりですが、お金に関する3択クイズです。

Qすべての人が日曜日に休もうとしている。そのための準備としてふさわしくないのは次のうちどれだろうか?

A. 平日のうちに学校の宿題を終わらせておく
B. 平日のうちに必要な家事を終わらせておく
C. 平日のうちに働いてお金をためておく

これは、私が学生向けにお金の講義をするときに、いつも出題している意地悪な3択クイズです。この正答率は驚くほど低く、多くの学生が、「どの選択肢も正しい」と思ってしまうのです。
答えは存在します。明らかにおかしい選択肢が1つだけあります。

正解はCの「平日のうちに働いてお金をためておく」です。
「すべて」の人が日曜日に休もうとしているから、日曜日にお金を使うことはできません。

お金によって自分と他の人々がどのようにつながっているかを考えれば、とても簡単なクイズです。ところが、人とのつながりを忘れてしまって、自分の財布の中だけを見ていると、解けないクイズなのです。

毎日使っているお金ですが、「お金ってどうして価値があるの?」と聞かれてもなかなか答えられません。これは無理もない話です。日本ではお金の話はなぜかタブー視されていて、家でも学校でもお金について学ぶ機会がなかったのですから。

お金を知ることは、お金という「道具」の使い方を学ぶことです。お金が「道具」ではなく、「目的」になってしまうと、お金に振り回されてしまいます。お金をためること、増やすことに時間や労力を費やしてしまって、その結果、幸せを見失ってしまうこともあります。
ここでは、「親子で学ぶお金の教室」と題して、全6回の連載でお金という「道具」について一緒に考えていきます。幸せになるために、お金とどのように関わればいいのか、お金とどのように向き合えばいいのか、のヒントになればうれしく思います。

紙幣をコピーしてはいけない理由

初回の今日は、ズバリ「お金の価値とはなんだろうか?」です。
お金の価値なんて、そんなの簡単だよ、1万円札には1万円の価値があるじゃないか。と思うかたも多いでしょう。たしかに、お金を払えば、いつでも1万円の価値があるものと交換できそうです。
では、お金自体に価値があるのでしょうか?
誰もがお金を増やそうとしています。ですが、もし本当に価値があるなら、政府はケチケチしないで、たくさん紙幣を印刷して配ればよさそうです。そうすれば、みんなが労働から解放されて、なんでも欲しい商品が手に入る気がします。

ところが、そうはうまくいきません。お金が商品を作るのではないからです。
商品を作るのは、働いている人々です。誰もがお金を好きなだけ手に入れられる世界なら、働く理由がなくなってしまいます。
すると、何も作られません。お金と引き換えに交換できる商品が存在しなくなります。
お金をコピーすることを禁じているのも同じ理由です。
お金とは「誰かに働いてもらうチケット」です。そのチケットの量を増やしても、働く人がいなければ使うことができません。この働く人の存在が重要なのです。

自分の財布の中だけを見ていると、なかなか気付けないのですが、お金を使うためには必ず誰かに働いてもらう必要があります。外国に行くとデパートなど多くのお店が日曜日にお休みだったりします。特にキリスト教の国では、日曜日は、みんなが休むための日だと位置付けられています。誰もが休んでいるということは、お金を使えないということでもあるのです。

そんなの当たり前だよと思われているかたもいらっしゃると思います。ですが、老後の問題については、この当たり前を忘れていたりします。先ほどのクイズの「日曜日」を「老後」に変えると、こんな問題に変わります。
「すべての人が老後に休もうとしている。そのための準備として相応しくないのは次のうちどれだろうか? 」

実際はすべての人が休もうとしているわけではありませんが、少子高齢化によって働く人が減っていくのは事実です。その準備として、私たちは、今のうちにお金をためておこうとしています。一人ひとりの準備としては、お金をためておくことは、もちろん正しいのですが、将来の働き手の不足をどうにかしないと、根本的な解決は図れません。

「コミュニケーションツール」としてのお金

実はお金の価値は、「誰かが働いてくれること」に支えられています。自分の財布の中だけを見ていると、「お金さえあれば生きていける」と考えがちですが、財布の外側に広がっている社会を見ると、人々が支え合っていることに気付きます。
昨年大ヒットしたドラマ「ドラゴン桜」をご存じでしょうか。阿部寛さん演じる桜木が落ちこぼれの高校生を東大合格に導く話です。実は、僕もこの原作となったマンガ「ドラゴン桜2」の制作に携わっています。
作者の三田紀房先生は物事を本質から考えられるかたで、進学校の投資部を舞台にしたマンガ「インベスターZ」では、お金とはコミュニケーションだとおっしゃっています。まさに、これはお金の本質だと思っています。

たとえば、家庭の中ではお金は使いません。お金を払わなくても、家族の誰かが食事を準備してくれたり、洗濯をしてくれたりします。家族で助け合って生きています。家族でなくても、知り合い同士だったら、お金を使わずとも協力し合うことがあります。庭先に実った柿を周りにお裾分けしたりします。
しかし、レストランで食事をするときやスーパーで柿を買うときなど、見知らぬ人に働いてもらうときは、お金が必要になります。
お金というコミュニケーションツールが存在していない時代は、見知らぬ人に働いてもらうのは難しかったでしょう。余程の権力でもない限り、人を働かせるなんてできなかったはずです。古代エジプトで、巨大なピラミッドを作ることができたのは、お金がたくさんあったからではなく、王の権力が絶大だったからです。

お金は、「誰かに働いてもらうチケット」ですから、そのチケットがたくさんあっても、働く人がいなければ、価値を発揮することはできません。
コロナ禍において、医療機関が逼迫(ひっぱく)することがしばしば起きています。こんなとき、政府がどんなに予算を増やしても働く人々が増えるわけではないから、問題が解決しないのです。

お金のむこうに人がいる

お金中心に経済をとらえていると、お金さえあれば一人でも生きていけると感じ、働くこともお金を稼ぐためと考えます。いつしか、自分自身と自分の財布の中身しか見なくなってしまい、ギスギスした社会になっているのが、現代の日本の姿ではないでしょうか。

私たちの支払うお金のむこう側には、必ず働いている人々が存在しています。逆に、私たちが働いて受け取るお金のむこう側には、必ず幸せになっている人々が存在しています。お金のむこう側にいる人々を想像すれば、自分と社会のつながりが見えてきます。

本日出した3択クイズは、私の著書『お金のむこうに人がいる』の中でも、いちばん始めに出題しているクイズです。他にも13個の3択クイズを出しています。ぜひ、お子さんと一緒に頭をひねって、考えてみてください。

次回は、価格と価値の違いについて考えてみようと思います。

©田内学/コルク

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『お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門』(田内学著・ダイヤモンド社刊)

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プロフィール

田内学

田内学

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社刊)、高校社会科教科書『公共』(共著・教育図書刊)

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