子どもが5秒で家事を手伝う家庭内紙幣の作り方【親子で学ぶお金の教室④】

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元ゴールドマン・サックスのトレーダーであり、現在は高校社会科教科書にも携わる田内学さんによる連載「親子で学ぶお金の教室」。お金が成り立つ仕組みについて、考えてみたことはありますか。

この記事のポイント

第4回を迎えたお金の教室、今回は「お金の作り方」についてお話しします。と言っても、お金の製造方法ではなく、お金という《仕組み》はどのように作られるかという話です。この仕組みさえ分かれば、子どもたちが家事を手伝い始める《家庭内通貨》を発行することだって簡単です。

一度は不思議に思ったことがありませんか?どうして、お金という紙や金属片に価値を感じるのかということを。現代であれば、紙幣や貨幣に価値があると誰もが信じていますが、1300年前、日本で初めて鋳造された貨幣「和同開珎」が作られたとき、人々はどうやって価値を感じたのでしょうか。
いつものように3択クイズです。

Q 律令時代、和同開珎という貨幣を普及させるために朝廷がおこなったことは次のうちどれでしょう?

A 和同開珎を朝廷に持って来ると、米に交換できるようにした
B 税として、和同開珎を納めさせた
C 和同開珎を持っていると、金利を受け取れるようにした

正解は、、、、

Bの「税として、和同開珎を納めさせた」です。

1300年前のスーパーマーケット

律令時代、役人や平城京を建設する労働者などの「みんなのために働く人たち」に対して、朝廷が給料として支払っていたのが、和同開珎という貨幣でした。当時の都には市(いち)ができていて、正午から日暮れ時まで多くの人々でにぎわっていたそうです。扱う商品も、お米や野菜、魚や塩などの食料品から、衣類、櫛などの装飾品に至るまで多種多様だったそうです。貨幣を持っていれば、生活に必要なものはそろったようです。でも、どうしてお店の人たちは、商品を売ってくれるのでしょう。どうして、生活には直接必要のないはずの貨幣を、彼らは欲しがったのでしょうか?

それは、税を貨幣で支払う必要があったからでした。貨幣を税として朝廷に納めないと罰せられたから、人々は貨幣を手に入れようとしました。たとえば、米が余っている人たちは、貨幣を持っている役人や労働者たちに米を渡して、貨幣をもらおうとします。そこに、貨幣で米が買えるお店が生まれたのです。同じようにさまざまな商品を扱うお店ができました。
給料として貨幣だけ渡されてもそこに価値を感じることはできませんが、いろいろな物と交換できる便利なものとして認識されれば、価値を感じられます。そして、人々が保有する貨幣の一部は税として徴収され、再び「みんなのために働く人」に給料として配られます。
このような税システムによって貨幣が通貨として普及し、社会の中を循環するようになったと言われています。これには諸説ありますが、少なくともこの仕組みを使えば、家庭内通貨を作ることが可能になります。

家庭内通貨「マルク」の作り方

では、実際に家庭内で通貨を流通させてみましょう。
ここに、両親と三兄弟で暮らす家庭があります。子どもたちはスマートフォンばかりいじっていて、自発的に家事を手伝おうとしません。
そこで両親は一計を講じることにしました。「1マルク」とだけ書いた紙切れに印鑑を押し、1マルク紙幣を作ります。この1マルク紙幣を100枚ほど用意します。この時点では、1マルクに価値を感じている人は誰もいませんが、これで準備は完了です。

ある晩、夕食の準備を手伝わされた三兄弟に、1マルク紙幣が5枚ずつ、お駄賃として手渡されました。
「え、この紙切れは何? こんなのいらないんだけど」とつぶやく長男。
長男を横目に、お母さんが口を開きます。
「これからは、家事を手伝ってください。その代わり報酬を払います。洗濯担当者、食器洗い担当者には毎日5マルク支払います。夕食を作ると1回につき15マルクです」
きょとんとしている子どもたちに向かって、最後にお母さんはこう宣言するのです。

「そして今日から毎日5マルクの税金を払ってもらいます。税金を払わない人からはスマートフォンを取り上げます」

「えーーーー!」3人は声を揃えて叫びました。

スマホが生活必需品の三兄弟にしてみれば、強制力のある徴税です。この瞬間、4人の手元にあるただの紙切れが価値をもったのです。紙幣が誕生した瞬間です。

この新たな紙幣と税の導入で、三兄弟は自発的に働くようになりました。長男は洗濯を担当し、次男は食器洗いを担当して、毎日5マルクもらいます。三男はたまに食事を作って、15マルク稼いでいます。

この話はフィクションですが、この仕組みを使えば、簡単に通貨は作れます。お子さんが家の手伝いをしなくて困っていれば、ゲーム感覚で試してみてはどうでしょう。
そして、ここから、お金の本質を学ぶことができます。

社会全体の視点ではお金に価値は無い

上の家庭の子どもたちの視点では、マルクは価値ある存在に変わりました。では、一家全体の視点ではどうでしょう。100マルクというお金が作られただけでは、この家の生活は豊かになっていません。しかし、お金という仕組みを導入したことで、子どもたちがみんなのための家事を分担するようになりました。
一般社会でも同じです。社会全体でお金の量を増やしたところで、生活が豊かになるわけではありません。そのお金が流れるときに、人々が働くことでモノやサービスが生まれます。新たな価値が生み出され、人々の生活が豊かになっていくのです。
また、税金の見方も変わったのではないでしょうか。税金を集めることによって、多くの人が社会全体のために働いてくれる仕組みが実現されています。自分の財布の中だけを見ていると「税は少ないほうがいい」と考えがちですが、税金を減らしすぎると公的サービスなど自分たちの生活にも支障が出るかもしれません。

貨幣経済に慣れている私たちは、お金自体に価値があると感じ、お金だけあれば一人で生きていけると勘違いしそうになります。しかし、そもそもお金というものは、人々が助け合って生きていくために、作り出されたシステムです。
私たちの支払うお金のむこう側には、必ず働いている人々が存在しています。逆に、私たちが働いて受け取るお金のむこう側には、必ず幸せになっている人々が存在しています。お金のむこう側にいる人々を想像すれば、自分と社会のつながりが見えてきます。
自著『お金のむこうに人がいる』では、「なぜ、家の外ではお金を使うのか」「お金が偉いのか、働く人が偉いのか」「なぜ、大量に借金しても潰れない国があるのか」などについて考えながら、お金によって自分と社会がどのようにつながっているのかを解き明かしています。
お子さんに教えるべきお金のリテラシーを見つけてもらえると幸いです。

次回のテーマは投資です。ちょっと変わった「マンガ家への投資」を紹介します。

©田内学/コルク

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『お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門』(田内学著・ダイヤモンド社刊)

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プロフィール

田内学

田内学

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社刊)、高校社会科教科書『公共』(共著・教育図書刊)

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