幸せに生きるための金融教育とは?【特別対談】お金の教室第6回

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元ゴールドマン・サックスのトレーダーであり、現在は高校社会科教科書の制作にも携わる田内学さんによる連載「親子で学ぶお金の教室」。

今回と次回は特別編として、金融庁や東京都で金融経済教育を担当する中村香織さんとの対談をお届けします。前編では、金融教育の目的やよくある誤解、家庭でできるお金のリテラシーを高める方法について伺いました。

金融教育はお金を増やすためのものではない!

——2022年度から高校での「金融教育」の授業の内容が拡充するなど、学校でのお金の教育も進んでいます。金融教育の目的について教えてください。

中村香織さん(以下:中村)
人生を幸せに生きていくためには、お金とうまくつき合っていくことが必要です。お金を理由に苦労したり、やりたいことを諦めざるを得なくなる状況はできるだけ少なくしたいですよね。そのために必要な知識を身に付けるというのが、金融庁の考える金融教育の目的です。

田内学さん(以下:田内)
お金を知ることは、お金という「道具」の使い方を学ぶことです。「目的」はお金そのものではありません。お金を増やすことが目的化すると、お金に振り回されて幸せを見失ってしまうこともあります。あくまで幸せになるための道具としてお金をとらえましょうという関係性ですね。

——金融教育というと、お金を増やすこと、投資を学ぶことという誤解もありそうです。

田内:早急に解いていかなければならない誤解です。資産運用や投資だけが金融教育ではありません。ましてや、お金持ちになるための方法論でもありません。

中村:お金を「増やす」という点がどうしてもフィーチャーされがちですが、それはお金の「使う」「ためる」「ゆずる」「増やす」という4つの側面の1つでしかありません。

そもそもお金はお金としてあるだけでは意味がなく、使うためにあるんですよね。金融教育で学校をまわっていると、高校生・大学生もその前提にハッとしていることがよくあります。「お金をどう使いたいか」は「どう生きたいか」「どんな人生を送りたいか」ということ。それが出発点であることを忘れないようにしたいですね。

田内:お金について、部分的にとらえるのでなく、社会にどう繋がるのかまでを踏まえた全体像をとらえて考えていくことも重要です。

たとえば投資も、リターンがあったかなかったかという一部分だけを見るのでは不十分。投資の資金を受け取って研究開発が進み、世の中にない技術やサービスが生まれて社会や生活が豊かになるという部分まで踏まえてお金の役割をとらえると、お金の教育へのイメージも変わってくるのではないでしょうか。

夏休みにもおすすめ! 家庭でも実践的なお金の教育を

——学校だけでなく、家庭でもできるお金の教育はどのようなものがありますか?

中村:家庭では実際にお金を使ったり、管理したりと実践的な勉強ができます。あまり堅苦しく考えず、お小遣い帳をつけることから始めてみてはどうでしょうか。

お小遣い帳は、収支のバランスが取れているかを把握することが目的です。つけることが目的化しないように気をつけたいですね。細かくしすぎないことが、うまくつけていくポイントです。

田内:日々の記録だけでなく、長期的にお金をためる目標管理にも使えるといいですね。欲しいものがあるけど、今あるお金ではすぐには買えない。いくら足りなくて、いつまでにためたいか。そのためには、1か月にいくらずつためていけばいいかといった計画を立てさせてみてください。

中村:お子さまと一緒にスーパーなどに行って実際にお金を使うことも大切ではないでしょうか。

田内:お金を払いさえすれば物が手に入るという点だけでなく、「なぜ物が手に入るのか」までを実感させてあげたいですね。物を作る人や運ぶ人など、必ず誰かに働いてもらわなければならない。お金を介して、人々が支え合っているという構造への気付きを与えてあげましょう。

中村:保護者のかたご自身が金融教育を受けていないケースが多く、どこから教えていいかわからないと戸惑うこともあると思います。そこで金融庁では、小中高生別に身に付けておきたい金融リテラシーをまとめたり(下記表参照)、うんこドリルシリーズとタッグを組んだ「うんこお金ドリル」をリリースしたりしています。堅苦しく考えるのでなく、楽しく学んでいくことにお役立ていただけるとうれしいですね。

小中高生別に身に付けておきたい金融リテラシー(金融経済教育推進会議の金融リテラシー・マップより)

——夏休みは、ご家庭でお金の教育を実践してみる絶好の機会にもなるかと思います。おすすめの方法など教えてください。

田内:お子さまが夏休みに使うお金の計画立案と収支管理にチャレンジさせてみるのはいかがでしょうか。

まずは、お子さまにいくら必要かを算出してもらいます。旅行や夏祭り、夏期講習のあとのアイスなど必要なお金を書き出してもらい、保護者が妥当性を確認。これは、お子さまが普段どういうことにお金を使っているかを知ることにもつながるでしょう。

使う金額の了承が取れたら、夏休み分に使うお金としてお子さまにまとめて渡します。その後は、お子さまがお小遣い帳をつけながら管理。夏休みの最後に親子で実際の使い方を振り返るといいでしょう。

お子さまが書き出した必要金額が高い場合は、見直すのももちろんですが、家事やお手伝いに対価を決めて稼ぐという方法を取るのもいいですね。ご家庭の方針にもよるかとは思いますが、労働の対価としてお金を得ること、誰かの役に立つことでお金を稼げることを体感できるのではないでしょうか。

中村:夏休みの家庭学習に「うんこお金ドリル」もぜひ活用してほしいですね。「生活編」「経済編」の2つに分かれており、4択クイズを通じてお金の知識や経済の仕組みを学んでいくことができます。「5,000円のゲームソフトがほしいけれど、財布には500円しかない。どうすればいい?」などお子さま自身が身近に感じる例も豊富なので、無理なく1人でも進められるはずです。

©田内学/中村香織/コルク

まとめ & 実践 TIPS

お金の教育は、幸せに生きていくために必要なこと。お金を増やしても、どう使うかを考えないと意味がない。お金をどう使うかはどう生きたいかということ。
お2人の対談からハッとさせられる気付きも多くあったのではないでしょうか。
お金の話というと、つい気後れしてしまうこともあるものですが、お金の意味を広くとらえポジティブにお子さまに伝えていけるといいですね。
次回は、学校での金融教育の実態についてお聞きしていきます!

プロフィール

田内学

田内学

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社刊)、高校社会科教科書『公共』(共著・教育図書刊)

プロフィール

中村香織

中村香織

2006年金融庁入庁。2020年より金融庁総合政策局総合政策課・総合政策管理官として金融経済教育を担当。「うんこお金ドリル」の企画・制作にも携わる。2022年7月より東京都政策企画局戦略事業部へ出向。引き続き金融教育の推進を担当している。

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