私たちが知らずに無駄遣いしているものとは?【親子で学ぶお金の教室③】

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元ゴールドマン・サックスのトレーダーであり、現在は高校社会科教科書にも携わる田内学さんによる連載「親子で学ぶお金の教室」の第3回。お金や自然資源を節約する私たちが、気付いていないあるものについてです。

この記事のポイント

「ごはん粒残してもったいないじゃない」
子どものころ、お茶碗に少しでもごはん粒を残しているとよく叱られたものです。
第3回を迎えたお金の教室、今回は「もったいない」の本質についてのお話です。

まずは、3択クイズです。

Q昔から、一粒の米に宿っているといわれるものは何でしょう?
A 七人の神様
B 五分の魂
C 平均100体のバクテリア

正解はAの「七人の神様」です。
「たった一粒に七人の神様がいたら、お茶碗一杯分のごはんにはいったいどれだけの神様がいるんだ」とツッコミたくなりますが、この話の本質は、お米一粒をそれだけ大切に扱いなさいということです。
「お百姓さんが汗水垂らして作ったんだから、一粒一粒大切に食べなさい」「働く人たちに感謝しなさい」と、昔はよくいわれたものです。
ちなみに、神様の数え方は正確には一人二人ではなく、一柱二柱です。「鬼滅の刃」でもおなじみの柱です。正確には七柱の神様というべきですね。

3つの「もったいない」

さて、この「もったいない」という言葉ですが、ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが来日した際に感銘を受けて、世界に「MOTTAINAI」を広めたという逸話は有名です。日本語の「もったいない」と同じ意味合いの言葉は外国語にはないそうです。
私が思うに、日本語の「もったいない」には、少なくとも3つの意味が含まれています。一つ目は、「お金がもったいない」を意味するeconomical。二つ目は「自然資源がもったいない」を意味するecological。そして、三つ目が、先ほどの米粒の話のように、働く人たちの労力、つまり「労働がもったいない」という意味です。

ところが、現在の日本、特に都市部では、お金や自然資源についてはもったいないと感じることはあっても、労働についてはもったいないと感じる機会が減っています。貨幣経済にどっぷり浸かっていて、働く人たちの存在が見えにくくなっているからです。
もったいないと感じれば、誰もが節約しようと思います。事実、お金や自然資源については節約しようと思う人はたくさんいます。しかし、労働については節約しようという発想が起きないので、知らぬ間に浪費されてしまいます。

コロナ禍の自粛生活において、オンラインショッピングを利用することが増えました。ワンクリックで何でも手に入る時代ですが、その商品が製造されて、手元に届くまでに多くの人々が働いていることは、昔も今も変わりません。

再配達ももったいない

こんなシーンを想像してみてください。
ある朝、インターフォンの音で目が覚めた。おそらく、昨日、ワンクリックで注文したオーガニック食材が届いたのだろう。だけど、布団から出るのが面倒くさい。
「再配達はタダだし、あとでまた来てもらおう」
そう思って、居留守を使った。

居留守を使わないまでも、再配達してもらえばいいや、と安易に思った経験は一度はあるのではないでしょうか。確かに再配達はタダですから、財布の中のお金は浪費していません。しかし、財布の外側では、配達員の労働は浪費されます。労働も自然資源と同じで、無駄遣いするともったいないものです。荷物を受け取っても自分のお金の節約にはなりませんが、誰かの労働は節約できます。社会全体の労働を効率的に使うことは経済の発展のためにも重要です。

昔に比べて私たちの暮らしが豊かになったのは、労働を効率よく使えるようになったからだともいえるでしょう。たとえば、白黒テレビが発売された当初、その価格はサラリーマンの給料約5年分でしたが、現在では、1ヶ月分の給料を支払えば、もっと大きくて高性能のテレビを購入できます。安くて良いものを作れるようになったということは、少ない労力で生産できるようになったということです。少人数で多くのものを生産できれば、多くの人に行き渡らせることができますし、節約できた労働を他のことに使えます。200年前までは、米を生産することで精一杯だった私たちが、今ではさまざまなものを生産して、自ら利用しているのは、この効率化のおかげです。

私たちは自分の労働を提供しながらお金をもらい、そのお金を使いながら誰かの労働を消費しています。日本は残業時間の長い国だといわれていますが、これは企業だけの責任ではありません。仕事を増やす原因をつくるのは、消費者である私たちの責任でもあるのです。誰かの労働に対しても「もったいない」と思わないと、生産者でもある自分たちのクビを絞めることになります。

お金のむこうに人がいる

コロナ禍の自粛生活が始まったころ、エッセンシャルワーカーという言葉をよく耳にするようになりました。人々の生活にとって必要不可欠な労働者を指す言葉です。エッセンシャルワーカーに限らず、お金を受け取って働く人たちがいなければ、どんなにお金があっても生活することはできません。お金を払う人が偉そうにしているのは、実はおかしな話なのです。
お金中心に経済をとらえていると、お金さえあれば自分一人で生きていける気がします。お金を稼ぐために働いていて、そのお金を使うから生きていけるのだと。いつしか、自分自身と自分の財布の中身にしか興味を持たなくなっていて、社会の中で支え合っている人たちとの関係が見えなくなってしまいます。
私たちの支払うお金のむこう側には、必ず働いている人々が存在しています。逆に、私たちが働いて受け取るお金のむこう側には、必ず幸せになっている人々が存在しています。お金のむこう側にいる人々を想像すれば、自分と社会のつながりが見えてきます。
私の著書『お金のむこうに人がいる』では、お金と経済のさまざまな疑問を解き明かしています。「誰が働いて誰が幸せになっているのか」さえ考えれば、どれもシンプルな答えにたどり着きます。

お金を使う側がエラいと勘違いして、ふんぞり返っている大人たちをよく見かけます。自分の子どもがそうならないためにも、お金の教育を通して、働いてくれる人への感謝の気持ちも教えたいものです。

次回は、子どもが家事を手伝う「家庭内通貨」の作り方についてのお話です。

©田内学/コルク

連載第1回はこちら
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「セールで得をするか損をするか」お得が好きな私たちが知っておきたいこと【親子で学ぶお金の教室②】

連載第4回はこちら
子どもが5秒で家事を手伝う家庭内紙幣の作り方【親子で学ぶお金の教室④】

『お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門』(田内学著・ダイヤモンド社刊)

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プロフィール

田内学

田内学

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社刊)、高校社会科教科書『公共』(共著・教育図書刊)

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