PISAでも注目、格差解消にどう取り組む?

経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに実施している「生徒の学習到達度調査」(PISA)の2018年調査結果が12月3日に発表されました。日本は主要3分野のうち読解力の順位が下がったことが大きく報道されましたが、OECDは別に≪国際学力コンテスト≫をしているわけではありません。社会参加に必要な知識や技能を15歳段階でどのくらい身につけているかを測定し、各国の教育政策に生かしてもらうことが主眼です。どこに注目すべきなのでしょうか。

日本でも深刻な「貧困の格差」

発表の翌日に行われた中央教育審議会の教育課程部会で、青山学院大学の耳塚寛明特任教授が「家庭の社会経済的背景が困難な児童生徒への支援について—全国学力・学習状況調査と保護者調査の結果を用いて—」と題して報告しました。文部科学省「全国的な学力調査に関する専門家会議」の座長を務める耳塚特任教授は、前任のお茶の水女子大学時代から、全国学力・学習状況調査の結果を詳しく分析する研究に携わってきました。

というのも今回の「生徒の学習到達度調査」では、「社会経済文化的背景」と平均得点との関係がクローズアップされているからです。OECD加盟国でも、貧困・格差の問題が深刻化しています。移民が多数流入している欧米はなおさらで、持続した経済成長のためには格差解消のための政策を打ち出すことが喫緊の課題になっています。貧困家庭に育った子どもが思うように資質・能力を身につけられず、社会人になっても貧困状態から抜け出せない「貧困の連鎖」が存在していることもわかっており、日本でも例外ではありません。耳塚特任教授も同部会で、「日本の学力格差は他国より大きいわけではなくむしろ小さなグループに属するが、問題がないわけではけっしてない。人種・民族の点で日本とは比較にならない多様性を抱えた社会と単純に比較することは生産的ではない」と注意を促しています。

デジタル時代でさらに広がる恐れ

今回、日本の順位が大きく低下した読解力にしても、コンピューター活用型テストの本格的導入に伴って、デジタル社会の中で情報を探し出し、真偽を確かめながら考える力があるかを測ろうとしました。今や仕事でも社会生活でもICT(情報通信技術)機器が欠かせず、ましてや人工知能時代にあっては、デジタル情報とうまく付き合うことが不可欠です。しかし日本では、学校のICT環境に大きな地域格差があることが問題になっています。

耳塚特任教授は、今回の読解力低下には「社会経済文化的背景」の問題が背景の一つにあるのではないかと推測しています。スマートフォンは小学生も含め広く普及しているものの、日本の子どもはチャットやゲームが主で、他の国ほど宿題をはじめとした学習にICT機器を使っているわけではないことが、今回の「生徒の学習到達度調査」で浮き彫りになりました。これ以上「デジタル格差」が広がっては、グローバル化が進むデジタル社会にあって、学力格差に伴う貧困格差も、ますます広がる恐れがあるのです。

このように、国内外の学力「調査」には、今後の国の進路を決めるための重要なデータが含まれています。順位が落ちたから問題だとか、「引き続き世界トップレベル」にあるからよい、という単純なものでもありません。OECDは日本の結果に関して、科学的リテラシーでも平均得点が明らかに低下していることや、数学的リテラシーでも習熟度別上位の生徒の得点が低下傾向にあることを指摘しています。詳しい結果を教育政策に生かさなければ、宝の持ち腐れになるのです。

(筆者:渡辺敦司)

※OECD生徒の学習到達度調査(国立教育政策研究所ホームページ)
http://www.oecd.org/pisa/publications/PISA2018_CN_JPN_Japanese.pdf

※PISA2018調査結果(OECDホームページ)
http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/young-people-struggling-in-digital-world-finds-latest-oecd-pisa-survey-japanese-version.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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