深刻な校舎の老朽化、なぜ?

PTAなどで卒業した母校を訪れたときに思い出の校舎がそのまま残っているのを見ると、子ども時代のさまざまな思い出がよみがえり、感慨深いものです。しかし、それも度を超すと「本当にこの校舎は大丈夫なの?」と逆に不安を感じます。実は、公立学校の校舎の老朽化が全国的に大きな問題となりつつあります。このため文部科学省は、校舎の老朽化の基準を策定し、市町村など地方自治体に改修や改築を促すことを決めました。

深刻な校舎の老朽化、なぜ?


現在の小・中学校の校舎の多くは、1970年代から80年代前半(昭和40年代後半から50年代)の児童・生徒急増期に一斉に整備されました。文科省の調査によると、2011(平成23)年5月現在、東日本大震災で被災した岩手・宮城・福島の3県を除いて「築25年以上」の学校施設が占める面積は学校施設全体の72.6%に上ります。外壁改装などで新しく見える校舎でも、築25年以上たっているものが少なくありません。

古い校舎は外観が悪いだけではなく、安全性にも大きな問題があります。文科省によると、すでに校舎の窓枠やコンクリート製ベランダの一部が落下するなどの事故が実際に起こっているそうです。しかし、これまで校舎などについては「老朽化」の基準がないため、改修や改築の工事が遅れていました。
このため文科省は、校舎などの老朽化の基準を示し、地方自治体による改修・改築工事の指針となる「学校施設老朽化対策ビジョン(仮称)」を策定し、校舎などの老朽化対策を推進することになりました。早ければ来年3月にも同ビジョンをまとめる予定です。

文科省が校舎などの老朽化対策に乗り出した背景には、東日本大震災によって図らずも校舎などの耐震化工事が一挙に進んだことがあります。これまで文科省は、限られた予算の中で緊急の課題に対応するため、校舎などの耐震化を優先してきましたが、地方自治体の財政難などから耐震化工事はなかなか進みませんでした。ところが、東日本大震災で学校の耐震化が社会的注目を集め、国の補正予算などで経費が確保されたこともあり、公立小・中学校の耐震化率は2012(平成24)年度には約90%まで進む見通しが立ちました。これによって、ようやく次の段階として老朽化問題に取り組むことができるようになったわけです。

ただし、文科省が老朽化対策を定めても、それが具体化されるかどうか懸念もあります。地方自治体では財政難に加えて、少子化による児童・生徒の減少のため小・中学校の統廃合が課題となっており、将来の統廃合を見据えて校舎の改修・改築などに慎重な姿勢を示す自治体も少なくないからです。実際、全国の公立小・中学校施設に占める「築30年以上」の施設面積の割合は、2001(平成13)年度は22.4%でしたが、10年後の11(同23)年度には57.5%にまで跳ね上がっており、地方自治体が学校の老朽化対策に積極的に取り組んでこなかったことを物語っています。今後、文科省による同ビジョン策定を受け、地方自治体がどのように対応するかが注目されるところです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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