「人工知能」は人間の答案を採点できるのか?

先頃まとまった文部科学省の「高大接続システム改革会議」最終報告をめぐり、3月当初の検討段階で、一部の新聞が、新テストの記述式問題の採点に人工知能(AI)を活用すると大きく報じ、ネットをにぎわせました。本当に、機械に採点ができるのでしょうか。

大学入試センター試験に代わって導入される「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」では、思考力・判断力・表現力を重視したい考えですが、マークシート式問題だけでは、そうした力を十分見ることができないとして、記述式問題の導入を提言しました。文部科学省の試算によると、40字程度の短文を書かせる場合でも、約1か月の採点期間が必要です。そのためマークシート式とは別日程で実施することを検討していますが、いかに採点期間を短くするかがカギです。そこで登場したのがAIというわけです。

ただし、最終報告の本文を見ると、「答案のクラスタリング(類似した解答ごとにグループ化)などの採点支援業務に人工知能(AI)を活用する」となっています。あくまで採点「支援」業務であって、採点をすべて任せるわけではありません。OCR(光学式文字読み取り装置)で読み取った答案を分類するだけで、最終的には人の手で採点をしなければならないということのようです。

AIは最近、囲碁の世界トップ棋士に勝ったことで注目されています。人間がプログラミングしたことだけでなく、自分で判断する「ディープラーニング」(深層学習)という最新理論を取り入れたことが、飛躍的な進化をもたらしました。日本では、国立情報学研究所が、東京大学の合格を目標に、「東ロボくん」を開発しています。高校の全教科書や、過去20年の入試問題、複数の辞書などを記憶。昨年6月の「進研模試 総合学力マーク模試」で、偏差値57.8の成績を挙げました。全体の6割に当たる474大学(うち国公立33大学)で合格可能性80%以上という判定です。

しかし、東ロボくんの「母」である同研究所社会共有知研究センターの新井紀子センター長は、日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)が行ったフォーラムの中で講演し、自動採点は「絶望的」だと断言しました。たとえば、世界史の「コロンブスはイザベラ女王と、その夫フェルナンドの支援により、1492年サンタマリア・ニーナ・ピンタの3隻の船でアメリカ大陸に向けて航海した」といった模範解答に対して、「アメリカの女王は1492隻の船でサンタマリアへ航海した……」といったヘンテコな文章でも、正解にしてしまうのです。キーワードさえ合っていれば高得点を与え、逆に、オリジナリティーあふれるエッセーや、論理性の高い平易な文章には、低い点数を付けてしまうのだそうです。

ただ、そんなAIですら、6割の大学に合格できてしまうというのは、むしろ現行の大学入試の問題点を浮き彫りにしているといえそうです。AI時代を迎え、人間にしかできないことを突き詰めて考えることが、これからの教育にも求められそうです。

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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