人工知能に勝つには「読解力テスト」から!?

「ロボットは東大に入れるか」というテーマで人工知能(AI)の研究をしている国立情報学研究所(NII)が、小中高生の「読解力」を科学的に診断するテストの開発を目指して、NTTや東京書籍、ベネッセコーポレーションなどと準備協議会を設立しました。いったいコンピューターのAIと人間の読解力に、どういう関係があるのでしょうか。

キーワードだけで解こうとしては……

小学生が社会に出るころには、今ある職業の半数近くが、AI関連技術によって自動化され、別の職業に置き換わる可能性がある……というのが、国内外の研究の一致した見方です。そのため次期学習指導要領でも、子どもたちが将来AIに「使われる」のではなく、「使う」側に立つための資質・能力を育成することを目指しています。

NIIのプロジェクトで開発しているAI「東ロボくん」は、2015(平成27)年6月の進研模試で、偏差値57.8、国立を含む6割の大学で合格可能性80%以上という成績をたたき出しました。しかし、新井紀子・NII社会共有知研究センター長は、これが必ずしもAIが人間のレベルに近付いたからではないと指摘しています。

AIは、問題文の文字列からキーワードを抽出し、教科書や辞典などの膨大なデータベースを参照して、キーワードで答えを導こうとします。問題文の意味は考えない……というより、意味内容までは理解できません。たとえば「私は岡田と広島に行った」と「私は岡山と広島に行った」という文章を読んで、前者は岡田さんと広島に行ったということ、後者は一人で隣接する岡山と広島に行ったという意味だろう……と推測することは、AIには不可能です。

そんな欠点だらけのAIと同じように、文章の意味が読み取れない、あるいは読み取ろうとせず、キーワードだけで解こうとしたため、多くの生徒が模試でAIに負けてしまった……というわけです。

教科書を読めているかどうかも重要

これから開発する「リーディングスキルテスト」(RST)は、東ロボくんプロジェクトで行った中高生の読解力テストを発展させるもので、「文節に正しく区切る」「『誰が』『何を』『どうした』のような構造を正しく認識する」「常識や知識から推論して、未知の用語の意味を位置付ける」など、10の読解プロセスと、それらに誤りがないかを監視して修正するプロセスを測るとしています。どのプロセスでつまずいているかを診断して、正しく読めるよう生かしてもらおう……というわけです。

どの教科の教科書も、学習内容は、文章で説明されています。その文章自体が読めていなければ、教科の内容が理解できるわけはありません。しかもNIIの調査によると、読解力は、読書が好きかどうか、塾に通っているかどうかなどとは、必ずしも関係がなかったといいます。

きちんと教科書の文章やテストの問題文を、意味まで理解して読める、あるいは読もうとしないと、将来、AIに仕事を奪われる側に回ってしまうかもしれないのです。もはや、テストの点数さえ高ければいい……と言っている場合ではありません。

※国立情報学研究所の読解力テスト開発
http://www.nii.ac.jp/news/2016/0726/

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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