「保育の質」は保育者と保護者の「幸せ」から‐渡辺敦司‐
幼児期の教育と保育が、子どもの成長・発達にとって重要であることはいうまでもありません。しかし、安倍政権が幼稚園や保育所などの「幼児教育の無償化」を掲げる一方、保育所の待機児童問題は、都市部を中心に依然として深刻です。
子どもの受け入れ先が決まったら、「保育の質」も気になります。ベネッセホールディングスが支援するインターネット上の子ども学研究所「チャイルド・リサーチ・ネット」(CRN)は、先頃第5回ECEC研究会を東京都内で開催し、海外の事例をもとに、研究者や保育者、保護者ら約100人が、日本の保育の在り方を話し合いました。
ECECとは「人生初期の教育とケア(Early Childhood Education and Care)」の略語で、CRNが2013(平成25)年度から研究に取り組んでいるものです。日本では長らく、文部科学省(旧文部省)が所管する幼稚園と、厚生労働省(旧厚生省)が所管する保育所の「幼保一元化」が課題となっており、教育と保育を一体的に行う「認定こども園」(2006<平成18>年に制度化)も含めて、園に対する給付を一本化する「子ども・子育て支援新制度」が今年4月からスタートしています。一方で、質の高い幼児期の教育と保育が、その後の学校での学力向上はもとより、将来の所得向上など人生にも大きく影響することが米国での研究(外部のPDFにリンク)から明らかになるなど、その重要性は国際的にも認知されています。
ただ、幼児期の教育と保育は、各国の社会や文化によって違っているのも確かです。先のECEC研究会では、英国イングランド・韓国・オランダ・スウェーデンの事例が報告されました。このうち韓国は、所管の違う幼稚園と保育所(オリニジップ)の一元化が課題になっているなど、日本とよく似ています。一方、ユニセフの国際比較で「先進国で一番子どもが幸せ」とされるオランダは、「学校レディネス(準備)型」とされます。
「世界の保育モデル」とされるスウェーデンでは、だいたい朝7時半から午後5時までの保育が基本で、1歳児の就園率(家庭保育室、いわゆる保育ママ)は50%程度だといいます。というのも保護者のワークライフバランス(仕事と生活の調和)が徹底していて、残業しなくてもよい働き方はもとより、男性も含めた育児休暇の取得が徹底されているからです。
話し合いの中では、保育者の質の高さや、子どもの成長と発達を丸ごととらえる保育実践の蓄積など、日本の保育が諸外国に比べてもひけを取らないことが確認されました。しかし一方で、長時間保育の常態化などにより、なかなかその利点が発揮できない悩みも出され、「子どもの幸せを実現するには、保護者や保育者が幸せでないといけない」という指摘が相次ぎました。
質の高い幼児期の教育と保育を考えることは、私たち大人の社会の在りようを考え直すことにつながります。そして、それは子どもを将来の市民社会の一員として育て、ひいては、よりよい未来をつくっていくことに資することなのです。