奨学金の申し込み「保護者任せ」では返済も無責任に……?‐渡辺敦司‐

今春、大学に進学したお子さんの中には、奨学金の貸与が始まったかたも少なくないでしょう。高騰する学費や生活費を捻出するためにも、多くの家庭にとって奨学金はなくてはならない存在です。しかし、主流である日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金はあくまで「借りるもの」であり、学生本人が卒業後に働いて返すべきものであることを忘れてはなりません。しかし社会経験の乏しい学生には、なかなかそうした自覚を持ちにくいのが現状でしょう。そうした実態を裏付ける結果が、同機構の調査(外部のPDFにリンク)(2012<平成24>年12月)から浮かび上がっています。

奨学金を申請する際に書類を作成したのは誰だったかを尋ねたところ、「奨学生本人」と答えたのは、延滞していない人で57.9%だったのに対して、延滞者では37.5%と約20ポイント少なくなっています。「親(または祖父母等の家族)」は各19.2%、37.9%でした。本来は借りる本人が書くことが望ましいのですが、実際には保護者が書いているケースも多く、しかも保護者任せにした人のほうが将来、延滞が多かったというわけです。
当サイトが会員のかたに行ったアンケート(2012<平成24>年12月実施)でも、学費を支払うべきなのは「主に保護者のかた」という回答が半数を超え、「主に保護者のかただが、子ども自身も」を加えると81.8%に達していました。保護者の方々自身にも、子どもの学費は本来、保護者が出すべきであって、奨学金を利用する場合でも極力、子どもに返済の負担をさせるべきではない……という意識が働いているのかもしれません。

延滞は、誰に奨学金の申請をすすめられたかによっても変わってきます。すすめられた相手が「学校の先生や職員」だったとしたのは無延滞者で18.7%だったのに対して延滞者では46.4%を占め、「親(または祖父母等の家族、親戚)」の場合は各75.5%、43.6%と、逆に無延滞者のほうが多くなっています。
学校からすすめられて奨学金を申請した人に延滞者が多いというのは、なぜでしょう。一つ考えられるのは、先生などが返済について生徒に十分説明をしなかったり、正確に伝わらなかったりしていた可能性が高く、文部科学省「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」も高校生に対する情報提供の必要性を強調しています。ただ、もう一つ考えられるのは、そうした人たちの家庭ではそもそも奨学金の存在を知らず、学校の先生にすすめられて初めて知ったというケースです。奨学金がなければ、進学そのものを諦めていたかもしれません。

調査時点で、3か月以上の延滞者は全体の6%に当たる延べ19万4,000人でした。延滞金の多さは将来の奨学金の原資を減らすだけでなく、「奨学金の拡充より回収を急ぐべきだ」という財政当局の主張の根拠ともなっています。
返済を安易に考えている人には、自覚を強く促すべきなのはもちろんです。2012(平成24)年度からは年収300万円を超えるまでは返済を猶予する「所得連動返還型無利子奨学金制度」も始まりました。しかし、それでも返せない人がいるのも事実であり、更なる救済策や給付型奨学金の創設などが望まれます。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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