ネットでの出会い……保護者を思うからこそ言えない?-渡辺敦司-

もうすぐ冬休み。雪国などを除けば夏休みに比べてずっと短いですが、子どもに自由な時間が増えると心配になるのが、保護者の目の届かないところでトラブルに巻き込まれることです。とりわけ昨今、インターネット上で知り合った人との出会いや、それが発展して犯罪の被害者となるばかりか、加害者として巻き込まれるケースさえ容易に起こる時代になってきました。「うちの子は大丈夫」と思いたいところですが、我が子とはいえども気持ちを理解するのが難しいことは、保護者の方々が日々実感していることでしょう。

そんな思春期心理の難しさを実感させるような調査結果を、篠原保育医療情報専門学校の香川七海講師(教育社会学)が夏に福岡市で開かれた日本教育学会で報告していました。香川講師は2008(平成20)年から中高生の男女28人を対象として、ネットいじめを含めたインターネット利用の実態に関する継続調査を実施しており、13~14(同25~26)年には5人に絞った詳しいインタビューを行いました。28人や5人では対象人数が少なすぎるように思われるかもしれませんが、教育社会学の調査方法としては珍しいことではなく、むしろ対象者から本音を深く聴き取るには有効な手法なのだそうです。
5人はインタビュー時、大学生や浪人生になっていました。いずれも中高生時代から一見すると「普通の思春期の子」だったそうですが、実際にはインターネット交流サイト(SNS)をとおして複数の異性と会った経験を持っていました。
そのうちの一人は、そのことを「親にはいまだに言っていない」と言います。別の一人は母子家庭で、「特別、過保護」な母親に心配を掛けたくないとの気持ちから「絶対言わない。そういうサイトを使っていることも言わない」と話していたそうです。報告は「むしろ、調査対象者たちは、自分の親を思い配慮する気持ちから、〈出会い〉という行為について口を閉ざすのであって、それは、調査対象者たちが持ち合わせる孝行さとでも解釈するほうが適切なのではないだろうか」とまとめています。

インターネット利用をめぐっては、メディアリテラシー(活用方法)教育や、フィルタリングなど保護者の監督下で使い方を制限する「ペアレンタルコントロール」が不可欠だとされています。しかし保護者への反抗からではなく、逆に思いやりから、ますます保護者に隠れて出会いなどの行為にはまっていく危険性もあるというわけです。警察庁のまとめ(外部のPDFにリンク)でも、対策の強化にもかかわらず犯罪や被害に巻き込まれる子どもは増えていますが、数値の裏側には、そんな思春期の微妙な心理があるのかもしれません。

子どもへの接し方について、香川講師は「むしろ気負わず、まずは学校で養護教諭がやっているように、受容から入ることが大切です」とアドバイスします。見知らぬ異性に会ったかどうかを根掘り葉掘り聞き出そうとするより、まずは見守っているという安心感や信頼感を与えることが、保護者思いの子どもをそれ以上の深みにはまることから防ぐ第一歩なのかもしれません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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