ICT教育の推進に<自治体の壁>?

パソコンやタブレットなどのICT(情報通信技術)機器は、今や社会生活や職業生活になくてはならないものになっています。学校教育にICTを導入することは、これからの時代を生きる子どもにICT機器を使いこなす力を培うだけでなく、調べる力をつけたり、思考力などを育んだりする学力の向上に、大きく役立ちます。しかし最近では、自治体によって公立学校のICT環境(外部のPDFにリンク)に大きな差が生じているのも事実です。

「奈良県は都道府県別で44番目。その中でも奈良市は足を引っ張っています」……。3月に開かれた一般社団法人日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)の「教育の情報化」推進フォーラムの分科会「地方自治体の教育情報化政策推進を考える」に登壇した奈良市教育委員会の石原伸浩・教育政策課長は、自嘲気味にこう述べました。
政府は、2013(平成25)年6月に閣議決定した「第2期教育振興基本計画」の中で、教育用コンピューター1台当たりの児童・生徒数を17(同29)年度までに3.6人とする整備目標(外部のPDFにリンク)を立てました。コンピューター教室に40台そろえるのはもちろん、普通教室に各1台、特別教室に6台、さらには持ち運びのできる端末を40台備えて、授業で使いたい時にいつでも使える環境を整備しようというものです。そのために2014~17(平成26~29)年間で計6,712億円の財政措置も用意しました。

ところが奈良市の場合、毎年3億4,500万円余りが用意されているはずなのに、1億円ほどしか予算化されていないといいます。これは、奈良市だけの問題ではありません。先の財政措置が、使い道を限定しない「地方交付税」で措置されているからです。自治体によって橋や道路の整備が優先だと判断されれば、ほかの予算に振り向けられてしまうのです。教育委員会が「学校に入れたい」と思っても、首長が了解しなければ予算案には盛り込まれませんし、予算案に計上されても、議員の理解を得て議会で承認されなければ、導入はできません。二重三重のハードルがあるのです。
ICT教育に比較的早くから取り組んできた相模原市ですら、今は「停滞気味」(篠原真・市立総合学習センター課長)だといいます。交付税を担当する総務省自治財政局の八矢拓・調整課課長補佐は「首長たちも自分がICTを使った教育を受けてきていないから、どう大事なのか想像できないんじゃないでしょうか」と指摘。文部科学省生涯学習政策局の降旗友宏・情報教育課課長補佐は「4月から首長と教委の『総合教育会議』が立ち上がるので、そこで大きな方向性を話し合ってほしい」と期待を寄せました。

奈良市では、清水康敬・独立行政法人メディア教育開発センター元理事長や、ベネッセ教育総合研究所の新井健一理事長らを招いた「奈良市教育ICT戦略会議」を設け、全国レベルの視点から必要性を提言してもらい、予算化に弾みをつけたい考えです。この日の分科会で司会も務めた新井理事長は終了後、「教育のICT整備には、世論を喚起する必要があります。そのためには保護者の方々も関心を持つことが重要です」と話していました。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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