心配な「思考力」「問題解決」 小学校、指導要領の改訂にらみ-渡辺敦司-

国立教育政策研究所は先頃、学校での授業の定着状況を調べる「小学校学習指導要領実施状況調査(外部のPDFにリンク)」(旧「教育課程実施状況調査」)を公表しました。新聞などでは、その前の指導要領の下で出されたのと同じ問題の結果を比較して「脱ゆとり」の学力がどうなったかという「過去」に注目した報道ぶりが多かったようです。ただ、同調査は本来、次期の指導要領の改訂に向けて、現行の指導要領の実施にどんな課題があるかを明らかにしようという趣旨で行われています。そうした「未来」に着目してみると、少し心配な結果が見えてきます。

現行の指導要領(外部のPDFにリンク)は、一般に「ゆとり教育」から「脱ゆとり」にかじを切って「学力向上」を目指したものといわれていますが、ことはそう単純ではありません。知識の「習得」はもとより「活用」「探究」の3つをバランスよく育成することを目指し、知識を活用して思考力・判断力・表現力を育成する学習活動を重視したり、教科を横断した課題解決的な学習や探究的な活動を充実したりしています。
学校に対する質問紙調査の結果を見ると、「体験的な学習の充実」「基礎的・基本的な知識及び技能の習得」は9割の学校が「実現できている」と回答していますが、「思考力・判断力・表現力の育成」「問題解決的な学習の充実」「自主的・自発的な学習の促進」は「実現できていない」との回答が3~4割を占めていました。6~7割の学校が「実現できている」ならまずまずの結果だと評価することもできますが、先に見たとおり現行指導要領が「習得」「活用」「探究」のバランスを求めている以上、やはり無視できない結果といえます。

これには、「習得」が指導を強化すればすぐに結果が出やすいのに対して、「活用」や「探究」はいっそう丁寧な授業づくりが不可欠であることと関係しているかもしれません。そう考えると、教員の3人に1人が指導方法や教材の研究を十分に「行えていない」と答えているのは、着実に「活用」や「探究」の力を身に付けさせる授業を行ってもらうためには心配な結果といえそうです。

既に紹介したように、指導要領の改訂を求めた諮問では、新しい時代に求められる「資質・能力」の育成を目指し、アクティブ・ラーニングと呼ばれる課題発見・解決型の主体的な学習を充実させることを求めています。そうした点から考えると、現行指導要領の下で教員が授業の研究を十分にできず、その結果「活用」「探究」の力が必ずしも十分に育成できていないとしたら、次の指導要領が掲げようとしている理念の実現にも相当な困難が予想されます。
教員が授業研究に打ち込める余裕の確保や指導力向上の支援も含め、並行して解決しなければならない課題は山積しています。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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