次の指導要領で目指すのは≪教科を超えた力≫?‐渡辺敦司‐
新学期の授業が始まりましたが、学校の授業や教科書のもとになっているのが国の「学習指導要領」であることは、ご存じのかたも多いと思います。指導要領は時代の変遷に合わせてほぼ10年に一度の改訂(外部のPDFにリンク)が行われてきました。現行の指導要領は小学校が2011(平成23)年度から、中学校が12(同24)年度から、高校が13(同25)年度入学生から順次、全面実施に入っています。そんな中で道徳や小学校英語の教科化など、早くも指導要領の改訂に関わるニュースが出てきていることもご存じでしょう。さらに次の全面改訂では、一見目立たないけれども大きな改革が行われそうです。教科の内容重視から、<教科を超えた力>重視への転換です。
国立教育政策研究所が報告書で「21世紀型能力」を提言したことは、昨年の記事で紹介しました。この報告も参考にしながら、文部科学省の有識者検討会が指導要領改訂に向けた「論点整理」を行いました。検討会はあくまで改訂の「下準備」のための「勉強会」という位置付けで、専門の研究者を集めたメンバーの中でも一致が見られず意見を列記した部分も多いのですが、教科縦割りになりがちな指導要領の在り方を改め、「何かを知っていること」よりも「何かをできるようになること」(資質・能力)を重視しようという方向性を明確に打ち出していることが注目点です。
論点整理では、教科の再編成までは求めないものの、まずは教科等を超えて必要とされる資質・能力とは何かを定めたうえで、そうした資質・能力を各教科等のどこで、どう育てるのかを明確にしようと提言しています。そこで育成を目指すのは、問題解決力や論理的思考力、コミュニケーション力、チームワークといった「汎用的スキル」(コンピテンシー)であり、教科特有の力でありながらほかの分野にも適用(転移)できるような能力です。今までは各教科の勉強をしっかりしていれば自然と社会で活躍できる力が身に付くと考えられてきましたが、知識基盤社会と言われるこれからの時代には、教科を超えた力として意識的に教育しなければ求められる能力は身に付かないと考えてのことです。
注意したいのは、こうした改革は何もゼロから始めようというわけではなく、1989(平成元)年改訂の「新しい学力観」や98~99(同10~11)年改訂の「生きる力」(2008~09<同20~21>年改訂の現行指導要領でも踏襲)を発展させたものだと位置付けていることです。指導要領の改訂を待つまでもなく、現在の学校の授業でも何らかの形で育成されなければならない能力でもあるというわけです。具体的な改訂スケジュールは正式に発表されていませんが、さまざまな情報を総合すると、今秋に文部科学大臣が次期指導要領の改訂を中央教育審議会に諮問し、2年間の審議を経て2016(平成28)年度中に改訂を告示。東京オリンピック・パラリンピックの開催年である2020(平成32)年度から小学校を皮切りに順次、全面実施に入っていきたい方針と見られます。既に検討の進んでいる道徳教育や英語教育は、それより前倒しで実施されることも予想されます。