急がれる子どもの「貧困対策」、政府も7月に大綱案‐渡辺敦司‐

景気が回復していると言われながら、その実感は広く国民になかなか届いていないとも言われています。とりわけ深刻なのが貧困状態にある世帯と、そうした家庭で育つ子どもです。政府は「子どもの貧困対策法」(外部のPDFにリンク)が2013(平成25)年6月に成立したことを受けて現在、7月をめどに対策の大綱案(外部のPDFにリンク)を作成しようと検討を行っています。

豊かなはずの先進国・日本ですが、発展途上国とはまた違った貧困状況が進行しています。その指標となるのが「相対的貧困率」です。等価可処分所得(世帯収入から直接税・社会保険料を除外したものを世帯人員数の平方根で割った所得)を低い順に並べ、その中央値の半分を下回る所得しか得ていない人の割合のことで、厚生労働省の推計によると2009(平成21)年(可処分所得112万円以下)は16.0%、17歳以下の子どもでは15.7%とされています。つまり子どもの6~7人に1人が相対的な貧困状態にあるというわけです。40人のクラスなら6人いる計算であり、子どもにとっても貧困は既にごく日常のものになっていると言っても過言ではないでしょう。とりわけ一人親世帯では50.8%と、2人に1人です。表面的にはなかなか気付きにくいこともあって見過ごされがちですが、いじめや給食費未納など学校で起こる問題の背景にもそうした貧困が潜んでいることも少なくないと見られます。
子どもの貧困は、今だけの問題ではありません。心配されているのが「貧困の連鎖」です。道中隆・関西国際大学教授の調査(2006<平成18>年)によると、生活保護を受けている人の4分の1が子ども時代に生活保護世帯で育ったといいます。

以前の記事で、学力が家庭の経済状況や保護者の学力に左右されるという調査結果を紹介しました。調査を担当した耳塚寛明・お茶の水女子大学副学長は内閣府の有識者検討会に出席して結果を報告し、「(勉強時間を増やすなど、子ども自身の)努力の効果は限定的だと言わざるを得ない」として、学力格差を教育問題としてだけでなく社会問題としてとらえて対策を講じるよう提言しました。
貧困家庭で育った子どもの低学力がそのまま放置され、金銭的な問題も加わって高校を中退したり上級学級への進学を諦めたりした結果、思うような仕事に就けないことによって、貧困の連鎖が起こると見られています。検討会の委員からも、「貧困対策のプラットフォーム」としての学校の役割に期待する声が挙がりました。義務教育である小・中学校はすべての子どもが把握できるため福祉部局などにつなげられる可能性があり、高校でも学力をつけさせたり奨学金などの支援策を紹介して進学につなげたりするなど、有効な対策が打てるからです。

子どもの貧困対策は当事者だけの問題ではなく、将来の納税者になってもらうという社会全体の課題でもあります。その貧困が「連鎖」によるもので自己責任とばかり言えないとしたら、やはり社会的な対策が求められます。学校が役割を発揮するためにも、先生方が学力向上や生活指導に打ち込めるような環境作りが、教育面のみならず福祉面でも急務であると言えるでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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