子どもの貧困対策ようやく本腰 文科省予算-渡辺敦司-
2015(平成27)年度の文部科学省予算案について、先の記事では奨学金などを中心に、教育費負担の軽減策を紹介しました。もう一つの焦点が、政府を挙げて取り組みを始めた「子どもの貧困対策」の具体化でした。どのような事業が予算案に盛り込まれているか、見ていきましょう。
文科省の説明資料(外部のPDFにリンク)によると、「学校をプラットフォームとした総合的な子供の貧困対策の推進」として前年度の約1.6倍(8億100万円増)の21億8,200万円を計上したとしています。具体的には、▽福祉の専門家である「スクールソーシャルワーカー」(SSW)の配置拡充(1,466人→2,247人)▽学校地域支援本部で中学生を対象とした原則無料の学習支援「地域未来塾」(新規、2,000か所)▽定時制・通信制など「多様な学習を支援する高等学校の推進事業」(同、14件)▽学習や意欲が十分でない生徒や、不登校・中退が多い高校に地域の退職教員や社会人、大学生などを配置する「補習等のための指導員等派遣事業」……などです。
政府を挙げた子どもの貧困対策に関しては、2014(平成26)年5月の記事でも少し紹介しましたが、その後、初めての「子供の貧困対策大綱」(外部のPDFにリンク)が同14年(同26)年8月に閣議決定されています。教育分野に関しては、生活保護世帯の子どもの進学率や中退率などを指標として、学校をプラットフォーム(基盤)とした総合的な子どもの貧困対策を展開するとしています。
なぜ学校が重要かというと、就学年齢に達したほぼすべての子どもが集まること、貧困家庭に育った子どもが社会人になっても貧困に陥る「貧困の連鎖」は学力不振や学歴の影響が大きいことなどからです。
既に紹介したとおり、子どもの学力が家庭の経済状況や保護者の学歴によって大きく左右されることが、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果分析でわかっています。まずは何より「家庭の貧困」に対する支援が急務ですが、それと並行して、不利な状況に置かれた子どもを教育面でも支援して、不利な状況から脱する手助けをしなくてはなりません。そのためには、公立学校を中心とした学習支援や、児童・生徒への就学支援・育英奨学が不可欠です。
厚生労働省の調査(外部のPDFにリンク)では、2012(平成24)年時点の「子どもの貧困率」が16.3%(前回調査の09<同21>年に比べ0.6ポイント増)と既に6人に1人、とりわけ一人親世帯では54.6%(同3.8ポイント増)と2人に1人を超える子どもが貧困状態にあるという深刻な事態が明らかになっています。どんな家庭に生まれるかは子どもの責任ではありませんし、不利な状況のなかで学力が振るわないのも「自己責任」で片付けられる話ではありません。景気回復の恩恵がなかなか津々浦々にまで広がらず、格差拡大が心配されるなか、子どもの貧困対策にはまだまだ取り組みが必要だと言えるでしょう。