漢字のとめ・はね・はらいは、どの程度厳しく見るべきか?[教えて!親野先生]

【質問】

 

通信教材で漢字の丸つけをするとき、どれくらい細かく厳密に見ればよいのか迷っています。とめ・はね・はらいがちょっと違ってもバツにしたほうがよいのでしょうか? パパの丸つけはすごく厳密なので、子どもは嫌がります。やり過ぎると漢字嫌いになるような気もします。(のど自慢 さん:小学3年生女子)


漢字のとめ・はね・はらいは、どの程度厳しく見るべきか?[教えて!親野先生]

親野先生からのアドバイス

のど自慢さん、拝読いたしました。

漢字については先生たちも迷います。
「これは許容の範囲内でマルでよいのか? それとも、バツなのか?」と迷いながらマルつけすることはよくあることです。
そして、その厳密さの程度はいろいろで、細かく見る先生とそれほどでない先生がいます。

私はどうだったかというと、若い頃は「超」がつくほど細かく厳密でした。とめ・はね・はらいだけでなく、書き順についてもそうでした。
そのほうが子どもたちのためになると思っていたからです。
でも、重箱の隅をつつくような過度な厳密さは、子どもたちを漢字嫌いにするだけだということがだんだんわかってきました。いくらがんばっても漢字テストで良い点数が取れないのですから、子どもたちがやる気をなくすのも当たり前です。
そして、あるとき、自分が細かく指導しているとめ・はね・はらいや書き順も絶対的なものではないということを知りました。

日本では、漢字は常用漢字表に則って使うことになっていますが、そこで示されている基準はけっこうゆるやかです。
たとえば、学校では「空」の5画目は曲げてからとめると教えていますが、常用漢字表では曲げてからはねてもよい旨が明記してあります。また、4、5画目はカタカナの「ハ」のように書いてもよいということも明記してあります。
また、学校では「骨」の7画目はとめると教えていますが、常用漢字表にははらってもよい旨が明記してあります。
常用漢字表がなぜそれほどゆるやかなのかというと、何千年にもわたる書の歴史の中でそれらの複数の書き方がされてきているからです。
その歴史を無視して、勝手に「空」の5画目はとめなければならないと決めることは誰にもできないことです。
こういう例はたくさんあります。
つまり、常用漢字表では書の歴史に則って「どちらでもよい」と明記してあるのに、学校では「こうでなければバツ」と教えているものがとてもたくさんあるのです。

では、なぜ学校では「こうでなければバツ」と教えるのでしょうか?
それは、学校で教えるときは学習指導要領の「学年別漢字配当表」に示された「教科書体」という字体を「標準」として教えることになっているからです。
つまり、「空」という字の5画目は常用漢字表ではとめてもはねてもよいと明記してあるのにもかかわらず、「学年別漢字配当表」の「教科書体」つまり「見本の字」がとめてあるので学校の指導ではとめるように教えるのです。
もちろん、教科書もそうなっています。
ひと言で言えば、常用漢字表と学年別漢字配当表のダブルスタンダードになっているのです。

では、なぜそうなっているのでしょうか?
それは、子どもたちの負担を減らすためです。
つまり、「空」の5画目はとめてもはねてもよいし、4、5画目が「ハ」のようになってもよいと教えると、子どもたちが混乱するだろうということで教える字体をひとつに決めたのです。
もともと子どもたちの負担を減らすために標準の字体をひとつに決めたのです。
漢字の勉強で過度な負担をかけてほかの勉強に差し支えることがないように、そう決めたのです。
でも、その経緯と趣旨を伝える努力をしなかったために、理解している人はほとんどいません。そのため、実際の指導では先生たちが標準の字体にこだわりすぎるようになりました。
標準の字体で「空」の5画目は曲げてからとめてあるので、それ以外はバツということになってしまったのです。
子どもたちの負担を減らすために標準の字体を決めたのに、今度はそれにこだわりすぎて子どもたちの負担を増やしてしまっているのです。
しかも、学習指導要領を解説する本の中には「教科書体の字を標準として指導するがこれ以外を誤りとするものではない」という趣旨のことも書かれています。つまり、こだわりすぎないようにしてほしいと文科省も言っているわけです。
でも、このことも広く伝わっていません。

書き順にしても同じことが起きています。
たとえば、「上」という字は学校では「縦・横・横」と教えることになっています。
でも、何千年にもわたる書の歴史では「横・縦・横」の書き順もよく使われてきました。
しかし、どちらでもよいと教えると教えにくいし子どもたちも混乱するだろうということで、子どもたちの負担を減らすためにかつての文部省が「学校では『縦・横・横』で教えよう」と恣意的に決めたのです。
ところが、その経緯と趣旨がまったく伝わっていません。
それで、子どもたちの負担を減らすために書き順の教え方をひとつに決めたのに、今度は先生たちがそれにこだわりすぎて子どもたちの負担を増やしてしまっているのです。

私は、どちらでもよいものはどちらでもよいと教えればよいと思います。そのほうが子どもたちの負担が少ないはずです。それに、そもそもそれが真実なのですから。
しかも、これからは手書きで「書く」ことは明らかに減っていきます。既に今ですら、大人でも学生でも文章のほとんどはパソコンなどのIT機器で「打つ」状態になっています。この状況はさらに加速度的に進むはずです。
そのような時代に生きていく子どもたちに、細かいとめ・はね・はらいの違いにこだわりすぎた指導は必要ありません。
それよりも、使える熟語を増やして語彙を豊かにすることや、同音異義語・同訓異字語の使い分けが的確にできるようにすることに時間をかけたほうが子どもたちのためになります。

もちろん、私はとめ・はね・はらいや書き順の指導がまったく必要ないという極論を言うつもりはありません。
「骨」という字にしても、7画目がはねてあるのはいけません。
「上」の書き順にしても下の横棒から書くようなことではいけません。
これらは書の歴史上にない書き方なので明らかに間違いですし、これらを許したら書き文字の文化が崩壊します。
ですから、私が言いたいのは行きすぎた指導は必要ないということです。

ただ、学校の先生が厳密な指導をする先生だった場合は一応それに順応することも必要でしょう。
文科省の見解では、学校のテストは先生が教えたことを理解し習得しているかを見るものですから、先生が「とめ」だと教えればはねてある字をバツにすることはできます。
その場合は、「細部への注意力が鍛えられる」くらいに思ってプラス思考でとらえてください。

最後に常用漢字表からいくつか参考になるものを載せておきます。
「戸」の1画目は横棒でも点でもよい
「木」の2画目はとめてもはねてもよい
「保」の6、7、8、9画目は漢字の「木」のようでもカタカナの「ホ」のようでもよい
「切」の2画目はとめてもはねてもよい
「改」の3画目はとめてもはねてもよい
「糸」の4画目はとめてもはねてもよい
「女」の2画目は3画目の上に出ても出なくてもよい
「外」の5画目はとめてもはらってもよい

私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
皆さんに幸多かれとお祈り申し上げます。

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プロフィール

親野智可等

親野智可等

教育評論家。23年間の教員生活のなかで、親が子どもに与える影響力の大きさを痛感。その経験をメールマガジンなど、メディアで発表。全国の小学校や、幼稚園・保育園などからの講演に引っ張りだこの日々。

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