出願直前! 子どもの「将来」を見据えた最終決定を(2)新しい世界で生きていくには[高校受験合格応援コラム 第8回]

前回は、出願直前のこの時期にあえて考えておきたい、「子どもの将来と進路選択」について取り上げました。今回はこの問題について、さらに具体的に述べていきます。


生きるために必要なコミュニケーション力

前回お話ししたとおり、今の中学生が大人になるころには、「海外で働くことが必然」ともいえる時代になっていると考えられます。
これまで、文化や価値観がある程度均質化した国内で生きているかぎり、「わかり合える」のが当たり前だったため、説明する能力はさほど必要ありませんでした。しかし、海外で多様な価値観・背景を持つ人たちと共に仕事をし、生活していくには、自分なりの考えを持ち、それを相手にわかるように伝えるコミュニケーション力が必要となってきます。そのためには、知識を受け身で学ぶだけでなく、自分の意見を持ち、相手の言うことを聞き、発言することに慣れなくてはなりません。

海外では、議論の場で自分の意見を言わないと「フリーライダー(無賃乗車)と言われて次の会合に呼んでもらえない」と聞いたことがあります。ゆっくりとでも、自分の考えを言葉にできるようになるには経験が必要です。知識の「インプット」だけでなく、話し合う「プロセス」と「アウトプット」を重視したアクティブ・ラーニング型の授業が注目されているのはそのためです。



我が子を「フリーライダー(無賃乗車)」にしないために

ただし、アクティブ・ラーニングは時間を要するため、旧来の大学受験突破を最重要視する価値観からすると、「非効率」に見える場合があるようです。ある学校では、土曜日をまるまるアクティブ・ラーニング型の授業に充てたところ、「そんなことに時間を費やして、大学受験は大丈夫なのか」という保護者からの批判が、ネット上に多数書き込まれました。が、議論の場で「フリーライダー」にならず、自分の意見を発言でき、価値観の異なる人たちと共に問題解決に向けて話し合う力は、グローバル化社会に欠かせないものです。

高校受験が間近に迫った今、「偏差値」「大学進学率」といった数値を脇に置くのは難しいことだと思います。しかし、「グローバル化社会をどう生き抜くか」という視点は、受験校最終決定において、これらの数字以上に大切ではないでしょうか。



これまでの「枠組みを越える」経験ができる場か?

私はこの夏、「台湾教育事情視察研修」に参加しましたが、その折に聞いた開南大学の副学長による、日本の高校生向けの講演が印象的でした。「グローバル化をチャンス到来ととらえ、これまでの枠組みを越えて、新たな進路にチャレンジしよう。そこには確かにリスクはあるが、国境を越えた人的ネットワークを持つことが、リスクを軽減する道だ」といった趣旨の話で、日本の高校生にとって、より広い視野で自分の進路を考えるきっかけになったと思います。同時に、必要なのは必ずしも「海外に出る」ことではなく、国内にいても、これまでの枠組みや物差しを越えて生き方を考えることが「グローバル化」なのではないかとも感じました。多様な価値観にふれてこそ、自分なりの見方が生まれ、枠組みを越えて飛躍する力も芽生えてきます。大事なのは、子どもが飛躍しようとした時、保護者のかたが旧来の価値観にとらわれて「ガラスの天井」になってはいけないということです。

現代の子どもたちは、親や先生以外の大人と接する機会が少なく、均質な環境の中で成長しがちです。高校選びには、多様な価値観にふれられる機会が用意されているかという視点も大切です。さまざまな国内・海外研修旅行や農村体験、職業体験といった機会を用意している学校もありますし、部活動やボランティア等を通じ、子どものコミュニケーション能力を育てているケースもあります。



少しずつ、子どもから「手を離す」ための選択を

「海外で働く」というと欧米をイメージするかたが多いと思いますが、今後、日本人の仕事の場は発展途上国、それも都市部以外の地域に広がっていくでしょう。「我が子につらい思いをさせたくない」というのは、親として当然の感情です。しかし、これからはあえて親元を離し、未知の環境を体験させることが必要ではないでしょうか。

たとえば東京都の聖学院中学校・高等学校では、25年前から、希望者対象ですが、生徒をタイ北部の村に連れて行っています。少数民族の高床式の家にホームステイをし、NGOが運営する施設では、そこに保護されている親のいない子や国籍を持たない子どもたちとも交流します。生徒はそこで同世代がさらされている人身売買といった過酷な現実も知ることになります。「自分が勉強する意味を考えさせられた」「言葉が通じなくても、遊びの中で気持ちが通じ合っていく温かさは忘れられない」といった参加者の声が印象的でした。
未知の環境に身を置くことで「どこででも生きていける」自信も身に付きますし、日本文化のよさを再認識することにもつながります。また、よい友達や師との出会いが、子どもの視野を広げてくれることはいうまでもありません。

この時期、保護者のかたはあえて少しずつ「子どもの手を離す」「少し距離を置いて見守る」ことを考え、その視点を大切にしながら、お子さんと一緒に受験校最終決定をしていただきたいと思います。よい選択ができることを、心からお祈りしています。

次回は、受験直前の過ごし方について述べます。



プロフィール

安田理

安田理

大手出版社で雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。
安田教育研究所(http://www.yasudaken.com/)

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