特別支援学校の先生、3割は「免許なし」!?

特別支援教育に「インクルーシブ教育」の考え方を導入するよう提言した中央教育審議会の報告がまとまったことは、先の記事で紹介しました。これからは、一人ひとりの困難に応じた十分な教育が行えるよう、「合理的配慮」が求められます。しかし、現行の特別支援教育にもさまざまな課題があります。その代表例として、担当する先生の教員免許状の問題がクローズアップされています。

国公私立を問わず、高校以下の「学校」で正規の授業を行うには、その学校の種類や教科別の免許状を持っていることが不可欠です(ただし中等教育学校は、中学校と高校の免許状)。免許を持っていなかったり、失効してしまっていたりした先生が授業を行っていることが発覚したら、その分の授業をもう一度やり直さなければならないくらい厳しいものです。特別支援教育でも当然、特別支援学校教諭免許状というものがあり、視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱の各領域別に免許状が授与されています。ところが特別支援学校では、免許状保有率が7割だというのです。担当する学級と違う障害領域の免許状を持っている先生を加えても、75%に過ぎません。どういうことでしょうか。

実は、教育職員免許法の附則で、幼・小・中・高校の免許状を持っている人は「当分の間」特別支援学校の相当する部(小学部・高等部など)で教えることができるとされているからです。これは特別支援教育が、小・中・高校などの教育に「準ずる教育」を行うものだとされているからです。ただ、実際には特別支援学校の免許状(以前は盲・ろう・養護学校の各免許状)の保有者が足りないこと、小・中・高校などと特別支援学校の間で人事交流が頻繁に行われていることなどから、免許を持っていない教員にも担当させざるを得ないという現実的な判断も働いている側面は否めません。

そうは言っても、障害を抱える子どもの教育だからこそ、その障害に応じた専門的な知識が必要なはずです。そのため文部科学省や都道府県教育委員会などでは、特別支援学校在職中に免許状を取得するよう奨励してきました。もともと特別支援学校の免許状は小学校などの免許状(基礎免許状)と併せて取得することになっていますから、新たに取得するにしても、単位数は少なくて済みます。改めて教育学部などに通い直すほかに、教育委員会が実施する認定講習などを受講すれば免許状を取得できる道も開かれています。今回の中教審報告でも、早急に取得率を上げることを求めています。

免許状取得など専門性の向上は、特別支援学校だけの課題ではありません。小・中学校でも特別支援学級が増加しているほか、通常の学級の中にも、発達障害など困難を抱える児童・生徒が増えています。インクルーシブ教育の理念を実現するためにも、すべての教員が一定の特別支援教育の専門性を持っていることが不可欠になります。そのため報告も、「すべての教員」に特別支援教育の研修などが必要だと指摘しています。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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