親だからって子どもに対して命令口調でいいの?[教えて!親野先生]

今週の相談

 

子どもに対しての直接の悩みではないのですが、親の「言葉遣い」についてです。基本的に私は「……しなさい」などの命令語は好きではなく、子どもに対して使うことはほとんどないのですが、主人が頻繁に使います。
身の危険がある場合や人としてやってはダメなことをした場合には私も使いますが、日常的に命令語を使用することについて、親野先生はどのようにお考えでしょうか。(えりさん)

 

【親野先生のアドバイス】

えりさん、拝読いたしました。

私も「○○しなさい」という言い方は好きではありません。
自分が言われたとしたら、あまり気持ちのいい言葉ではないからです。
もちろん、時と場合によっては必要なこともありますので、そのときは使いました。
でも、できるだけ使わないようにしていました。

いつも「○○しなさい」「○○しなさい」という言い方をされると、言われるほうは威圧的に感じます。
ですから、大人同士で使うことは少ないのですが、相手が子どもだとついつい使ってしまう人も多いのではないでしょうか。

でも、相手が子どもでも、人間関係の基本は大人同士の場合と変わらないのです。
子どもは、決して侮れない相手ですし、侮るべきでもありません。
子どもたちと長年接してきて、私はそれがよくわかりました。
大人はいつもこれを頭に入れておくといいと思います。

それと、もう一つ頭に入れておくといいのは、相手を尊重した分だけ相手から尊重されるということです。
たとえ相手が子どもであっても、これは真実なのです。
「○○しなさい」という言い方は、相手を尊重しているとは言えないと思います。

それに「○○しなさい」と言わなくても、もう少し柔らかい言い方で十分なことが多いのです。

「○○してください」  「○○してね」   「○○しましょう」
「○○してみようか」  「○○してみよう」 「○○しよう」 
「○○しようか?」   「○○します」   「○○するといいよ」 
「○○したらどうかな?」
これで十分です。
親子の間に信頼関係があれば、これで十分行われるのです。

ところで、正直な気持ちとして、「なんで親が子どもにお願いしなければならないのか?」と思う人もいるかもしれません。
「産んでやって、育ててやっているのに、なんでお願いしなければいけないの?」というわけです。

でも、私はこういう考えはもたないほうがいいと思います。
そもそも、親子といえども、まったく別の人間です。
子どもは親の付属物でも所有物でもないのです。
それぞれが個別の人格をもち、個別の意思をもち、個別の自由をもち、個別の尊厳をもっているのです。

親はその一人の人間をこの世に現しめ庇護するという大事な役目を、存在から委託されているのです。
親と子は、ただこの世に現れる順番が違っただけで、その個別の尊厳において上下などないのです。

そのように理解していれば、親が子どもを一人の人間として尊重することに何の抵抗もありません。
そして、先ほども言いましたが、相手を尊重した分だけ相手からも尊重が返ってくるのです。

ここに信頼関係が生まれます。
信頼関係があるとき、「○○しようね」と言うだけでそれは行われます。
優しく丁寧に言うだけで、相手は受け入れてくれるのです。
信頼関係がないとき、「○○しなさい」と言っても行われません。
強く命令しても、相手は受け入れてくれないのです。

それで、ますます強権的な命令口調になりがちです。
職場でそうなっている人は、自分の言葉が受け入れられていないと感じている人です。

自信があれば言葉は優しくなります。

最後に、絶対に気を付けてほしい言い方があります。
それは、次のような言い方です。
「○○しなきゃだめでしょ」 「○○しなきゃ」 
「○○しないと!」 「何度言ったらわかるの!」
このような否定的な言い方をされると、聞くほうはとても嫌な気持ちがします。
なぜかというと、これらには非難が含まれているからです。
特に、「○○しなきゃだめでしょ」という言い方は絶対に使わないことです。
この「だめ」の部分が強く心に残り、自分自身が「だめ」と否定されたように感じてしまうのです。

さて、えりさんがこれをご主人にどう伝えるかということを考えてみましょう。
ご主人がどのようなかたかにもよりますが、直接この文章を読んでもらうという方法もあります。
でも、これが自分のことだとわかると、素直に受け取れないかもしれませんね。
どこかまったく別の家のこととして、「こういうのがあったよ」という感じで見せたほうがいいでしょう。

直接読んでもらうのではなく、自分の言葉でうまく伝えるというのもいいでしょう。
でも、「うまく」伝えてくださいね。

または、読んだ内容をおなかの中にしまっておいて、ご主人のためにできることをするという方法もあります。
つまり、こういうことです。
もしかしたら、このご主人は子どもとの人間関係に自信がないのかもしれません。
ですから、父と子の人間関係が良くなるように、できることをするといいでしょう。


すぐにでもできることとしては、子どもに、「お父さんが○○のことでほめていたよ」とか「お父さんも喜んでいたよ」などと言ってやることです。
または、その逆に、お父さんに「子どもが『お父さんありがとう』って言ってたよ」とか「お父さんに『がんばってるね』って言われるのが一番うれしいみたい」などと伝えるのもいいでしょう。

これは一つの例ですが、まずは父と子の人間関係が良くなるようにできることをしてください。

私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
えりさん親子に幸多かれとお祈り申し上げます。


親力革命──「親」であることにふと迷ったときに読む本 (単行本)親野智可等(著) 講談社 ISBN-10: 4062137267親力革命』「親」であることにふと迷ったときに読む本(講談社)
Benesse教育情報サイトの人気コンテンツ「教えて!親野先生」が一冊の本になりました。子育ての悩みは多様に見えて、実は意外と似ているものです。『親力革命』のなかに、今のあなたの、または将来の悩みを解決するヒントが隠されているかもしれません。


Amazon.co.jpで『親力革命』「親」であることにふと迷ったときに読む本を見る

プロフィール


親野智可等
  • web アイコン
  • instagram アイコン
  • youtube アイコン
  • twitter アイコン

・『子育て365日』(ダイヤモンド社)
・『反抗期まるごと解決BOOK』(日東書院本社)


長年の教師経験をもとに勉強法・家庭教育・親子関係などについて具体的に提案。
Instagram、Threads、X、YouTube「親力チャンネル」、Blog「親力講座」などでも発信中。ドラゴン桜の指南役としても著名。『子育て365日』『親の言葉100』などベストセラー多数。全国各地の教育講演会でも大人気。詳細は「親力」で検索

子育て・教育Q&A