慶應義塾普通部2年生 T・Kさんのお母さま
塾の課題をすべてやるのが無理ならば、できないところをはっきりさせて、そこを改善するための努力をする。それが力をつける早道。
その後の塾での成績はどうでしたか?
スタートは順調で、塾内9位・14位という成績をとったこともあります。そのときいただいたメダルは今でも大切にしていますが、これは自信になりました。
しかしその後は、塾内でいちばん上のクラスとその下のクラスを行ったり来たりという感じでした。
勉強は言われなくても自分からやるタイプでしたし、口出しされるのをいやがるので、基本的には私はあまり口を出しませんでした。
塾では授業をちゃんと聞いてきて、家に帰ってからは必ず復習をしてから寝ていましたね。こういうところが長男とは違うところだと思います。
しかし、算数は得意だったのですが、国語が苦手。アニメやマンガを読んでも、それ以外の本を読むのが好きではなく、精神的にも幼いため、細かい心理描写を読み取ることが求められる長文読解などではなかなか点がとれませんでした。特に栄光の国語は記述問題が多いので、最後までこれが課題でしたが、成績は伸びませんでしたね。
勉強に関して、ご家庭で何か工夫をされましたか?
基本的には塾はプロなので、お任せしました。しかし、長男のときには私も考えが甘くて、絶対大丈夫というところまでがんばらせることをしなかったので、次男には実力相応校の慶應には必ず合格できる力をつけさせたいと思いました。
SAPIXはプリントの量が膨大で、長男のときには、その量に振り回されてしまい、こなすので精一杯になっていました。どこまで理解しているのか、反対に理解できていないところはどこなのかを、把握できていなかったのです。受験をさせてみて、もっときめ細かく見てあげればよかったと反省しました。
そこで次男には、できないところをつぶしていくようにして、できるだけ無駄を省き必要なものを選択するように努めました。
算数は本人も得意でしたし、塾を信頼していましたが、苦手な国語は、慶應の問題を研究して、四字熟語やことわざ、漢字などは四谷大塚のテキストで、基本的な問題をやらせました。
過去問は6年生の夏のお盆過ぎから始めて、5~7年分は解かせました。塾からは、「指示をするまで解くな」と言われていましたが、それでは間に合わないと思ったからです。
実際やらせてみると、算数はけっこうできるのですが、理科はなかなか点がとれなくて。慶應は、理科や社会で細かい知識が要求される問題が出るのです。
このままで、慶應で求められるような細かい知識を身につけられるのか不安でした。
2学期の終わり頃には、確認用にまとまった教材が欲しくなりました。塾のプリントは整理するのも大変で、あとから必要なものを取り出そうとしても難しい。そこで、市販のテキストをついつい買ってしまいました。
その中では、学研の『理科の鉄人』という暗記カードが、植物や動物、星座などの細かい説明が写真と共に載っていて重宝しました。
健康管理は親の仕事。受験生を抱える母親自身も精神を安定させることが大事。母友とのおしゃべりで気分転換を図った。
受験を通して、大変だったことはありますか?
長男のときですが、入試の直前に風邪をひき、本番2日前に38.5度の熱を出してしまいました。当日、熱は下がったものの体力をかなり消耗してしまったので、慶應の入試会場に入っていく後ろ姿を見て、まるで戦地に兵士を送り出す母のような気持ちになって、涙が出てきました。
このときの経験から、次男には、特に入試直前は、風邪をひかせないように食べ物にも気を遣い、胃に優しく体が温まる食事をさせるようにしました。
ビタミンCがたくさんとれるように、鍋にもカボスをたくさん入れて食べさせ、入試1週間前からは生ものは避けるようにしていました。
また、体を冷やさないように、夜はお風呂に入ったらすぐに寝かせ、睡眠時間もなるべく確保していましたね。4年生のときは10時には寝ていました。6年生になると帰宅も9時半くらいになり、それから勉強をすると寝るのが遅くなってしまうのですが、それでも12時前には床に就くようにさせていました。
日曜日は、志望校別講座があるのですが、次男は栄光と慶應用の講座2つを朝の9時から夕方6時までかけもちしていたので、帰ってくるともうフラフラでしたね。
健康管理は親の仕事なので、かなり気を遣いました。また、二人とも、入試のときに持たせるお弁当には必ず「がんばってね」というようなメッセージを書いたカードを入れました。こうして、私自身も不安な気持ちを静めていたのです。
受験勉強中、親子関係はいかがでしたか?
長男は、おとなしくて親の言うことを素直に聞くタイプでしたが、次男は正反対で、負けず嫌いで自分のペースでやりたいほう。
だから成績が下がったときにも、こちらがあれこれいう前に、自分で悔しがったり落ち込んだりするので、反対にあまり口を出すことはしませんでした。
ただ、宿題のまるつけや、チェックをしたときには「こんな問題まちがって、だめじゃない」とか「どうするの、こんなまちがいして」とか、ついついいやみを口にしてしまいました。次男はプライドが高いので、かなり怒っていましたね。
エピソードとして、4年生で成績が急に下がって、真ん中くらいまでクラスが下がってしまったときに、家に帰るなり自分の部屋に閉じこもって布団をかぶって泣いていたことがありました。
その様子を見ていて、「こんなに悔しがるくらいなら見込みがあるな」と思いました。次男の勝因は、この負けず嫌いな性格だと思います。
実際の受験はいかがでしたか?
2月1日 慶應義塾普通部 合格
2月2日 栄光学園 不合格
2月3日 慶應義塾中等部 合格
という結果でした。
塾からは、3日は浅野をすすめられていたのですが、浅野は難しくておさえにならないし、中等部の問題のほうが手応えもあったので、こちらの意思を通しました。父親も同じ意見でした。
お母さま自身のストレスはどのように解消されていましたか?
同じように受験を考えているお母さん仲間と「こんなとき、どうしている?」とか「こんな状態だけれど、どうしよう!」とかおしゃべりをして、発散していました。
また、受験を経験された先輩ママにもアドバイスをもらったりしていましたね。そういう場では、こちらが情報を隠していると相手も情報はくれませんから、なるべくオープンにしていました。一緒に学校見学に行ったり、お出かけみたいに楽しんでいました。
中学で出会ったお母さんたちとも仲良くしていて、同じように情報交換をしています。
実際にお二人を私学に入れてみて、いかがですか?
それぞれに満足しています。長男は、テニス部。次男は陸上部に所属して、クラブ活動にも取り組んで、学校生活を楽しんでいるようです。
ただし、長男は中学受験をする頃は「男子校がいい」と言っていたのに、今頃になって「共学にすればよかった」なんて。だから、「大学はがんばって女の子もいるところに行けばいい」と話しているのですよ。
長男は今年、大学受験です。最終的には本人次第だと思いますが、先生も熱心ですし、私学に行かせてよかったと思っています。次男は付属校ですが、中学から留年もありえるので、「それだけはしないように」と言い聞かせています。
最後にこれから受験をされるかたへアドバイスをお願いします。
塾のテストでは、成績に一喜一憂すると思いますが、できなかったところをできるようにすればいいのですから、点数にとらわれないで、何がわかっていないのか、その中身に注目して、できなかったところをつぶすように心がけたらいいと思います。特に男の子はまだ幼くて、中学受験は大変な面もありますが、逆に親の言うことを聞くのは小学生のうちです。おだてながら、勉強をさせるといいでしょう。
また、一緒に不安な気持ちを分かち合えるような、母友がいると心強いですね。
▲成績優秀賞・努力賞のメダル 塾全体で9位・14位をとって表彰された。これで自信がついた。 | ▲補習用に購入した教材 細かい知識を求められる慶應の理科対策のために使用した。 ※学研『理科の鉄人』植物・動物・星座・用語カード |
<取材後記>
「点数ではなく、何がわかっていないのか、その中身に注目して、できないところをつぶす」という言葉が印象的でした。母親同士もフランクにおつきあいされていて、上手に情報交換されていました。こうした姿勢はまねしたいところではないでしょうか。(教育ジャーナリスト 中曽根陽子)