クイズノックに聞く「考える力」はどう伸ばす?
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「クイズ」を切り口に独自の道を拓いた、東大発・知識集団「「クイズノック」の皆さん。『10歳からできる 自分のあたまで考えること』を出版されています。今回は、さまざまな経験から「考える力」の伸ばし方について語っていただきました。「答えのある問い」「答えのない問い」、そして「問いを立てる力」。これから時代に必要とされるそれらの力は、一体どうすれば鍛えられるのでしょうか? クイズノックが考える「答え」とは?
考える力を育むのは、やはり親子での対話
——「答えのある問い」は学校生活に大切なものですが、「答えのない問い」を考え抜く力もこれからの時代には大切ですよね。皆さんはどのようにそうした力を伸ばしてこられましたか?
須貝駿貴(以下須貝):小さいころ、親と対話の時間が割とあったほうだと思っていて、それが「考える力」をつけてくれたような気がします。特に、教員だった父親と話すことが多くて、安心してなんでも話せるような雰囲気を作ってくれていたなと思いますね。
親子の会話の内容はなんでもいいけれど、「これを考えておきなさい、勉強しなさいよ(でも私はしないけど)」という態度だけはダメだと思うんです。なぜ俺だけしないといけないんだと子どもに思われると、信頼感を損なう。ともに考えている態度を示し、対話することが大切だと思います。
こうちゃん:一緒に、と言うのは大切ですね。
僕の母はものすごく物知りなのですが、唯一歴史が苦手で。小5、6年生の時、「お母さんも一緒にがんばるからやろう」と隣で勉強してくれて、自分もやる気になれたことを今でも覚えています。
あとは、父母はよく政治でもなんでも議論をしていました。僕たち子どもとも、たとえば学校の校則について「白のワンポイント靴下と決まっているけど、これってどう?」というようなことも。「汚れが目立つしうれしくないよね、どうして白なんだろう?」など、世間の常識に対して、どうして? と考えて話す機会は多かったです。
山本祥彰(以下山本):「なんでこうなんだろう」と前提を疑う力や癖は、もっと小さいうちからつけておいたほうが苦労しなかったなと僕自身思っています。元々勉強はすごく好きで、求められる回答をする能力はあったと思うのですが、自分で問いを立てる力は小さいうちはなかったなと思っていて。
高校に入り、それまでのやり方が通じなくなってきて、成績が伸びなくなりました。そこで今までやってきたことは違ったのかなと気付いて、勉強の仕方を変えました。
伊沢拓司(以下伊沢):僕は、親から子ども扱いされていなかったんですね。親は大人に使うような難しい言葉を使っていたし、自分も子どもだからしょうがないと思うこともありませんでしたし、子どもだとも思っていませんでした。
あとは本当に怒られた経験がなくて。最後に父に怒られたのは小2の時なのですが、テレビでサッカーを見ていて、ゴールを決められたシーンで僕が「別のキーパーなら絶対防げたのに」と言ったんですね。そうしたら「物事に絶対はない。お前が言ったことはもしもでしかない。やすやすとこれが絶対などと言うな」と怒られました。それからあらゆることに対して本当にそうかな? と疑わないと進めなくなり、呪いのようなブレーキがかかるように。これはいい影響も悪い影響もあって、自己主張しづらくなった時期もありましたが、ターニングポイントとして記憶にあります。あ、母はずっと怒っていましたけど(笑)。
わからなければすぐ「答え」を見たっていい
——小学生の親としては、わかりやすくテストなどの「答えのある問い」もがんばってほしいなと思ってしまうのも正直なところです。どうしたら問いに向き合う力を伸ばせますか?
伊沢:日々お子さんに向き合っている親御さんに言うのはおこがましいのですが、比較の中に生きているとお子さんは辛いと思います。特にテストは○×がつきますが、その結果が努力に紐づいているかといえばそうではない部分もある。ちょっとした覚え間違いで×になるし、計算間違いもします。その×は努力を否定するものではないのですが、子どもにとっては否定されたような気持ちになり、やる気が削がれることがある。
だから親御さんにはぜひ、○×の一歩先を見てあげて、人と比較せずに「前よりもがんばったね」と本人比で褒めることをしてほしいです。
須貝:1人対40人の先生には難しくて、親にしかできないことですよね。
伊沢:そう。他者との比較ではなく、自己との比較で進むことが、ポジティブな学びの習慣化には必要なのかなと思います。
須貝:たとえ苦手だったとしても「算数はわからない」と言わないで、得意でなくても×の部分を一緒に見てあげてほしい。子どもは、お母さんが嫌いなものを好きになろうとは思えないものです。
あとは、「やり抜く」と聞くと、答えを見ないで一生懸命考えることをイメージするかもしれませんが、答えがある問題ならばすぐ答えを見ていい。
——つい、すぐ見ちゃだめと言っていました。
須貝:答えがある問題は、考え方のルールがあるはずなんです。それを知っているか答えを見て確認して、答えから検討してみる。わからない時は、答えを見てもわからないですから。
この世のあらゆる答えをたくさん知っておくことが大事で、いろんなルールを知って覚えたら、これとこれを足したらできると気付く時がくるんです。
山本:子どもがやり抜いていないと思うのは、大人が勝手に設定したゴールに辿り着いていないと思うから。
子どもからしたら、やれるところまでやったという意味ではやり抜いていますよね。その意味で、一度認めてあげて、なぜそこまでしかできなかったのか向き合ってあげるのは大事かなと思います。
こうちゃん:自分の子どもが勉強でつまずいていたら、そこをどうにかしたいと思うはずですが、つまずいた経験も将来生きてくる。そこだけで焦らず、長い視点で一緒に取り組んであげてほしいと思います。
今は勉強のスタイルも増えているし、ゲームでもなんでもたくさんある世の中です。勉強だけでなく、これならやり切れる、という体験は他でも積めるものだと思います。
これから必要な「問いを立てる力」。伸ばすには?
——答えをすぐ見ていいとは目から鱗でした。そして焦らず、「自己比較」ですね。肝に銘じます。また「問いを立てる力」というのもとても大切かと思いますが、どうすれば伸ばせると思いますか?
須貝:先ほどお伝えしたように、「答え」をたくさん知っていることは大事だと思っていて。僕は大学院で研究をしていたのですが、このルールも、あのルールの答えもあるのに、なぜこれは知られていないんだろうということが見つかるんです。だからそれを研究しよう、ということを研究者たちはやっています。それは新しい問いですよね。ルールや答えをたくさん知って調べていくと、問いというものは勝手に思い浮かんでしまうものだと思います。
伊沢:答えのない問いは、答えがある問いと比較されるなかで、知識とは関係のない領域に見えてしまいがちです。でも、いろんな人を知っていることが、多様な問いを立てることにつながります。何も知らず、自分の住んでいる世界しか知らないとまさに井の中の蛙で、疑問が生まれてこない。この井戸とこの井戸は違うと知って初めて、なんで? が生まれる。だから、多様な価値観に触れることが、良いきっかけになると思います。だからまず知識を増やすのは大事。親の立場からなら、こんな人もいるよ、こんな文化もあるよと紹介することが一歩目になるかもしれませんね。
こうちゃん:個人的には、自分なりに考えたことを否定されなかった経験が大きいのかなと思います。「それは違う」と言わず、まずは受け止めてあげてほしいです。
山本:前提を疑うことが問いを立てるために重要で、疑う前提が多ければ多いほど、いろんな問いを作りやすくなります。その意味で、知識やいろんな立場を知っていることがベースになる。
——知ることが起点になるのですね。
山本:はい。それと僕たちは主としてYouTuberとして生計を立てていますが、この職業が世に出始めたころは娯楽で生計を立てるってどうなの? と言う人もいたと思う。でも新しいものを認めないのではなく、受け入れてみることも大切だと思います。それが問いを作る力にも、それ以外にも生きてくるのかな、と。
須貝:今の話を聞いて思ったのは、一回「ムカつく」ことも大事ですよね。だって、気持ちいい時はそのままでいいから問いは立たない。「YouTuberって楽して生きてそうで嫌じゃない?」とムカついた時、でもムカついたままに言うのはだめだから、表に出すためにはよく考えて優しい言い方にしますよね。「このような仕事はありえるのだろうか?」とか。それが問いにつながります。
こうちゃん:違和感みたいなものが、問いの始まりだったりするのかもしれませんね。本の中で、「正義のヒーローはなぜ殴っていいんだろう」と考えるページがあります。学校では人を殴っちゃいけないと強制されているのに、どうしてヒーローは殴っていいのか、もやもやするかもしれない。なんでも違和感のようなものを大事にしてみると、新しい問いが生まれてくるのではないでしょうか。
まとめ & 実践 TIPS
安心して発言できる家庭環境づくりが、遠回りなようで子どもたちの「考える力」を育むのだとあらためて感じたインタビュー。多様な社会や人に触れさせ、親自らも多様な価値観を受け入れることも大切なのかもしれません。「考える力」は、子どもだけが伸ばせばいいものではなく、生涯大人も磨き続けるべきスキルだとも、感じました。
取材・文/有馬美穂
書籍情報
『10歳からできる 自分のあたまで考えること』著:どう解く?製作委員会+QuizKnock 1760円/ポプラ社 世の中には、答えのある問題と、答えのない問題がある。「答えのない問題」を考えながら、思考力=生きる力を身につけよう。変化する時代を生きる子どもが、自分で考え、意見を言い、行動する力をつけるための実践的な一冊。
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