データとともに考える子どもの学び~学校・家庭の学びが変わる中で、保護者ができることは?~

  • 教育動向

新学習指導要領の実施や急速なICTの普及などによって、学校の授業や家庭での学びが大きく変わりつつあります。その変化のスピードは、地域や学校によって異なるのが実態です。
保護者世代が知る授業や宿題と、今の子どもたちの授業や宿題がどのように違うのか、今後どのように変わろうとしているのかをデータを見ながら確認し、保護者に求められる子どもへのかかわり方を考えます。

「学力格差」が広がる今、家庭ではなにをすべき?格差が生まれる要因と今後の国への期待とは
コロナ禍から2年、変わる親子の意識と家庭でできる子どもの体験活動とは?
前向きな進路選択のための2つのカギ ~新大学入試一期生への調査から学ぶ~
教育格差を乗り越えるために家庭で実践したいこと お金をかけることよりも大切なこととは

この記事のポイント

学校の学びは、思考力・判断力・表現力重視へ

※出典:ベネッセ教育総合研究所「小中学校の学習指導に関する調査2021」
※「よく行っている」+「ときどき行っている」の%。
※項目については、わかりやすさを考慮し、2021は、比較できる範囲内で、文言の変更を行っている。
※グラフは2021年の比率が高い項目から順に並べている。

図1は、小学校の教員に、どのような授業を行っているかを尋ねた結果です。2020年と比べ、「自分で調べたり考えたりしたことを発表する」「自分で調べたり考えたりする」「体験的な学びを取り入れる」「グループで話し合う」といった授業が大きく増え、その一方で「教師主導の講義」が減っています。

※出典:ベネッセ教育総合研究所「小中学校の学習指導に関する調査2021」
※「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の%。
※グラフは2021年の比率が高い項目から順に並べている

図2は、中学校の定期試験の出題について尋ねた結果です(ベネッセ調査)。2020年と比較して、2021年は「記述式の問題を出す」「入試問題に対応した問題を出す」「まったくオリジナルな問題を作成する」が増えています。
小中学校でのそうした変化は、小学校では2020年度から、中学校では2021年度からスタートした新学習指導要領に基づき、学校が子どもの「主体的、協働的で深い学び」や「思考力・判断力・表現力の育成」を重視しているからだと考えられます。

タブレットなど端末の活用によって、学びが大きく変化

学校の授業が変化している要因に、教育におけるICT活用の広まりがあります。文部科学省は、2019年、全国の児童・生徒が、パソコンやタブレットなどの端末を1人1台活用して、それぞれの子どもに合った学びを実現する「GIGAスクール構想」を打ち出しました。

当初は5年ほどかけて、端末や高速大容量の通信ネットワークを各学校に整備する計画でしたが、コロナ禍の影響で計画は大きく前倒しされ、2021年度中に、小・中学校においては「1人1台端末」がおおむね実現されました。

授業でインターネットに接続された端末を活用することで、子どもの調べ学習はより充実しますし、調べたことをまとめることも容易にできるようになります。
また、端末を介して、ほかの子どもと調べたことや考えたことを共有し、自分の考えをさらに深めることもできます。つまり、1人1台端末は、思考力・判断力・表現力等や協働する力の育成を重視する新学習指導要領の実現において、とても大切なツールなのです。
そして、子どもが1人1台の端末を使うことで、学校の教育環境や家庭の経済力などに左右されず、どの子も同じようによりよく学ぶことができるようになると期待されています。

ICT機器の活用状況には地域・学校差が!

ただ、現状を見ると、タブレットなど、ICT機器を活用した教育の充実は、地域や学校によって差があります。
図3をみてください。中学校では、端末を家庭に持ち帰って、家庭学習に活用しているのは約22%(「月に2~3回」~「ほぼ毎日」)で、「まったく持ち帰らせていない」割合は約66%に上ります。「まったく持ち帰らせていない」のは、人口規模が小さい自治体ほど多い状況でした。同様の傾向は小学校でも見られました。

※出典:ベネッセ教育総合研究所「小中学校の学習指導に関する調査2021」
※1人1台端末を導入済みと回答した人 2,122人の回答を分析。

さらに、中学校教員に、授業でICT機器を使う頻度と内容を尋ねたところ、32%の教員が毎回の授業でICTを使うと回答した一方で、約18%の教員が1割以下の授業でしかICTを活用していないと答えました。
また、授業中子どもがICT機器を活用する頻度を尋ねたところ、「毎回の授業」「7〜8割程度の授業」と答えた教員が約19%である一方、「1割以下の授業」と答えた教員は、約37%に上っています(図表省略)。
つまり、端末の学校や家庭での活用には、地域や教員によって大きな差があるのです。

授業や家庭学習でICTを活用している学校と、そうではない学校との差が生まれているのは、ICTを活用した教育が広がる過渡期だからでしょう。そうした学校差、地域差がある現状を知った上で、子どもの学校では授業や家庭学習に、どのくらいICTを活用しているか、関心を持っていただきたいと思います。

ICTは子どものことを知るきっかけに

学校では、どのようにICT機器を活用しているのかにも注目することが大切です。
例えば、宿題は、保護者世代では、クラス全員が同じプリントの問題に取り組むことが一般的だったかもしれません。ところが、今は、端末を活用することで、家庭でも、AI(人工知能)が子どもの学力に合ったドリル学習から、インターネットでの調べ学習、さらにネットを通じて子ども同士の話し合いなどまで、多様な学びは可能となります。

そこで、子どもが端末を学校から持ち帰って宿題などをしていたら、どんなことをしているのか、ぜひ聞いてみてください。端末の持ち帰りを行っていない場合も、授業で端末をどのように使っているのか、どんな授業を楽しいと思うのかを聞いてみるとよいでしょう。そうすることで、学校の現状と、子どもがどんな学びに興味を持っているのかを知ることができます。

端末を使ってどんどんドリル問題を解くのが好きな子どももいれば、調べたことをプレゼンテーションソフトなどでまとめたり、画像や動画にして発表したりするのが得意な子どももいるでしょう。また、チャット機能などを使った話し合いをリードするのが上手な子どももいるはずです。これまで、ペーパーテストの点数や通知表の成績で知ることが多かった子どもの学ぶ力が、ICTを通して、数字以外の様々な形で把握することができるようになっています。

今まで知らなかった、見えていなかったわが子の良さを発見し、保護者の方々にとっては、子どもを褒めて、さらに子どもの学ぶ意欲を高めるきっかけをもたらしてくれるのです。
ぜひ、子どもに「授業では、どんなことをしているの?」「タブレットは授業や宿題でどんなふうに使っているの?」「どんな勉強が楽しい?」と子どもに聞いてみてください。今まで気がつかなかった、子どもの「得意」や「好き」が見えてくるはずです。

まとめ & 実践 TIPS

思考力・判断力・表現力等、そして協働する力の育成を促すICTの活用は、現段階では地域や学校、教師によって差があります。子どもの授業や宿題に興味を持ち、子どもの話を聞いてみることで、子どもの学校のICT活用の現状を理解することができるとともに、子どもの興味や得意を知り、子どもに合った関わりができ、学ぶ意欲を高めることにつながるでしょう。

プロフィール

邵 勤風(しょう きんふう)

ベネッセ教育総合研究所 学び・生活研究室 主任研究員。初等中等教育領域を中心に、子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究に多数携わる。
これまで担当した主な調査は、「学習基本調査・国際6都市調査」(2006年~2007年)、「第3回子育て生活基本調査」(2007年~2008年)、「小学高学年の学びに関する調査2019」など。近年、子どもの主体的な学びを支える学び方や周囲の支援に関心を持ち、学び方に関する理論研究や実証研究に取り組んでいる。

プロフィール



株式会社ベネッセコーポレーションの教育、調査、研究機関です。子ども、保護者、先生、学校などを対象に、教育に関連する調査、研究を行い、その研究成果や調査報告書、各種データを無償で公開しています。

  • 教育動向

子育て・教育Q&A