「学力格差」が広がる今、家庭ではなにをすべき?格差が生まれる要因と今後の国への期待とは

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コロナ禍によって子どもの教育に家庭の比重が高まったことによる、家庭環境の違いからくる差の拡大。また、デジタル機器の学校活用の地域差、学校差も、学力格差を生み出す新たな課題となっています。
環境による格差を乗り越えるために、家庭でできることは?ベネッセ教育総合研究所の研究にもご協力をいただいている、青山学院大学の耳塚特任教授にうかがいます。

この記事のポイント

家庭の「経済的な豊かさ」「文化的な環境」が子どもの学力に影響

子どもの教育において、今、最も憂慮すべき問題は学力格差といえるでしょう。
昭和から平成にかけて、都道府県間の経済水準が平準化したことなどにより、学力の都道府県間の差が小さくなりました。

しかし、学力格差そのものが解消されたわけではありません。文部科学省が実施する「全国学力・学習状況調査」と「保護者調査」を用いて分析したところ、同じ都道府県内でも、高学歴者が多く住む地域や経済的に豊かな家庭が多い地域にある学校は、学力が高い傾向にあることが分かりました。

また、家庭における読書活動や生活習慣に関する働きかけ、親子間のコミュニケーション、親子で行う文化的活動は、いずれも学力にプラスに影響しているという結果が出ています。

家庭の経済的な豊かさ(経済資本)や文化的な環境(文化資本)は、子どもの学力に大きな影響を与えその格差が顕在化してきているのです。

令和になった今、私が心配しているのは、コロナ禍によって子どもの教育上、家庭の比重が高まったことの影響です。家庭環境による教育の格差を縮小する役割を担うのは学校です。その学校が一時的に休校になり、子どもの教育への家庭の影響力がその分強くなったことで、学力格差が広まったのではないかと推測しています。

地域間や学校間でのデジタル活用の差が生む、新たな学力格差

地域間や学校間でのデジタル活用の差も、新たな格差の課題です。国が推進するGIGAスクール構想によって、2021年春までに大半の公立小・中学校で1人1台のデジタル端末が配備されました。しかし、ベネッセ教育総合研究所が2021年8〜9月、全国の小・中学校、高等学校の教員を対象に行った調査(※1)では、デジタル機器の配備や利活用の状況に地域差があることが明らかになりました。

例えば、高校の1人1台端末の配備状況を見ると中国や四国では50%を超えていましたが、北海道では20%を下回り、東北や近畿は約25%と未整備の状況が目立ちました。本調査(※1)では都道府県別の配備状況は分かりませんが、地域差があると推測できます。

利活用の面で注目すべきは、端末の家庭への持ち帰りの状況です。地域別に見ると、北海道、東北、中国、四国では、「全く持ち帰らせていない」の比率が7〜9割と、地域間で家庭での端末の利活用に大きな差が生じている状況が浮き彫りになりました。

端末の持ち帰り状況の地域差から推測されるのは、授業での利活用による地域差です。GIGAスクール構想の目的は子どもが授業でデジタル機器を使って学び、家庭学習でも主体的にデジタル機器を活用することで、デジタル読解力を高めたり、個別最適な学びや協働的な学びを充実させたりすることにあります。デジタル機器の利活用に地域差があるままでは、都道府県間の新たな学力格差につながりかねません。

【図 1人1台端末の持ち帰り状況】
■学校端末の持ち帰り頻度(小学校)

■学校端末の持ち帰り頻度(中学校)

出典/ベネッセ教育総合研究所「小中学校の学習指導に関する調査2021」(2021年8~9月実施)

自分好みの世界に浸る子どもたち 家庭でも学校でも、異質な他者と出会う機会を

子どもの意識についても、気になることがあります。「全国学力・学習状況調査」の小学校の質問紙調査で、「将来の夢や目標をもっていますか」という質問で「あてはまる」の割合が、2017年度は7割だったのが、2021年度は6割だったことです。4年間で夢や目標をもつ子どもが1割減少したのは、大きな変化と捉えています。

コロナ禍に象徴される先行き不透明な社会において特定の夢や目標をもつことは、子どもにとって難しいのかもしれません。明確な目標をもたない方が社会の変化に柔軟に対応できるともいえるでしょう。一方で、学びや社会参画への動機づけや人生の活力という面では、夢や目標をもっている方がよいかもしれません。

子どもが自分の嗜好にとどまる傾向にあることも気になる点です。
デジタル機器(スマートフォンやパソコンなど)の利用時間はテレビやDVDの視聴時間を上回り、新聞や書籍を読む時間は圧倒的に少ない状況です(※2)。

大学生に話を聞くと「ニュースはちゃんと見ている」と言いますが、そのメディアはインターネットのニュースサイトであり、新聞やテレビではありません。インターネットのニュースサイトは、AI(人工知能)によって自身の嗜好が反映された情報が自動的に表示されますから、自分の見たい世界だけを見ているに過ぎません。小学生のうちから新聞やテレビの情報も見るなど、社会全体を俯瞰する情報を得る機会への意識が必要ではないでしょうか。特定の分野には詳しく深い専門性があるものの、世界観に偏りが見られることをどう捉えればよいのか考えさせられます。

学力格差は、教育にとどまらない社会の課題です。どんな家庭に生まれたかによって学力に差が生じ、それが職業や所得に大きな影響を及ぼします。この問題を放っておけば、努力の報われない地位達成の機会が不平等な社会としての性質が強くなり、それこそ誰も夢や目標をもてなくなってしまいます。

学力格差を生み出す要因の一つである家庭の「経済的格差」は、国や自治体がリーダーシップをとり、その差をできるだけ小さくする政策が期待されます。
一方、学力格差を生み出すもう一つの要因である家庭の「文化的格差」に対しては、家庭でも学校でも意図的に異質な他者との出会いをつくったり、他者が編集した情報にふれる機会を設けたりすることが大切です。

まとめ & 実践 TIPS

異質な他者の存在を知ってこそ、平等は意味をもつのであり、自分には必要ないと思う情報や全く知らない世界の情報にもふれることが、社会に目を開き人生の選択肢を増やすことにつながります。そうした経験を積み重ねていき、子どもたちが様々な格差を乗り越えていくことを願っています。

※1 ベネッセ教育総合研究所「小中学校の学習指導に関する調査」「高等学校の学習指導に関する調査」(2021年8~9月実施)

※2 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究「子どもの生活と学びに関する親子調査2020」

プロフィール

耳塚寛明

耳塚寛明

青山学院大学 コミュニティ人間科学部学部特任教授
専門は教育社会学。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。国立教育研究所研究員、お茶の水女子大学講師を経て、同大学教授、文教育学部学部長、理事・副学長を歴任。現在、文部科学省「全国的な学力調査に関する専門家会議」の座長を務める。

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株式会社ベネッセコーポレーションの教育、調査、研究機関です。子ども、保護者、先生、学校などを対象に、教育に関連する調査、研究を行い、その研究成果や調査報告書、各種データを無償で公開しています。

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