教育格差を乗り越えるために家庭で実践したいこと お金をかけることよりも大切なこととは

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親子を対象にした調査では、家庭の「社会経済的地位」(Socioeconomic Status)によって、教育費に違いがあることが明らかになっています。
しかし、大切なのは、お金をかけることではありません。保護者が子どもに高い期待をもち、学ぶ意義や価値を伝えることが大切です。そうした教育に対する考え方や行動を見直すことが、教育格差の改善に必要です。

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この記事のポイント

家庭環境によって異なる進学期待

『金持ち父さん貧乏父さん』(筑摩書房)というベストセラーがあります。この本は、お金に対する“考え方”を変えることが、お金持ちになる秘訣だと教えてくれます。著者のロバート・キヨサキさんは、大切なのはお金をたくさん稼ぐことではなく、自分のためにお金をどう使うかを考えて行動することなのだと説いています。

これは、子どもの教育についても同じことが言えます。子どもが学習成果を上げるうえで重要なのは、子どもの教育にお金をかけることではありません。子ども自身が学ぶ意味を理解して、自分の学習をコントロールできるようになること。それこそが、学習成果を高めるのに最も大切な要素です。

そのためには、保護者が子どもの学びに強い関心をもち、子どもに学ぶ意義や価値を伝えられるとよいと思います。そして、子どもが主体的に学習する力を身につけられるように、適切な支援をする必要があります。
ロバート・キヨサキさん風に言うと、大切なのは教育費をかけることではなく、学びや経験の意味を子どもが考え、自分で行動できるような支援をすることだ、ということになるでしょう。

確かに、教育費は家庭によってずいぶんと違います。ベネッセ教育総合研究所が東京大学社会科学研究所と共同で行っている2万組の親子の追跡調査でも、そのことは明らかです。

社会学や経済学では、家庭環境の違いを「社会経済的地位」(Socioeconomic Status、以下SES)という概念で説明します。わかりやすくいうと、SESが高い層は高学歴・高収入で、SESが低い層はその反対の傾向があります。SESの高さを基準に25%ずつ4つのグループに分けて、最も高い25%(Highest SES:H層)と最も低い25%(Lowest SES:L層)を比較すると、子ども1人当たりの学校外教育費は約2倍の開きがあります(図1)。

H層の多くは、子どもが小さいうちからに習い事や塾に通わせます。子どもから見ると、幼少期からさまざまな経験に差がある状況といえます。いわゆる「教育格差」です。

図1:SESによる学校外教育費の違い

*出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」
*対象:小1~高3の保護者15,598名のうち、SESが判別できた15,552名を分析。

しかし、教育費を支出する以前に、子どもにどの学校段階まで進学してほしいと考えるか、という進学期待が、SESによって異なります。図2は、子どもに「大学」もしくは「大学院」まで進学してほしいと考える保護者の比率を示しています。

これも、H層とL層では約2倍の開きがあります。そして、私たちの分析では、進学期待のような子どもの教育に対する意識のほうが、実際にかけている教育費よりも、学力や学業成績に強く影響していました。進学期待によってさまざまな働きかけが変わるため、それが最終的に成果に結びつくのだと考えられます。

図2:SESによる進学期待の違い

*出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」
*対象:小1~高3の保護者15,598名のうち、SESが判別できた15,552名を分析。

「学ぶことの大切さ」を伝える働きかけが重要

そこで、SESによって子どもへの働きかけがどのように異なるのかを確認しました。その結果、保護者が勉強の内容を直接教えるというよりも、「勉強の意義や大切さ」を伝えたり、「勉強のおもしろさ」を教えたりすることのほうが、SESによる差が大きいことがわかりました。

図3は、SESによる働きかけの違いを示しています。これをみると、SESが最も低いL層の保護者も、8割以上が「結果が悪くても努力したことを認める」と言っていて、基本的な関わりをしっかりとされているかたが多いことがわかります。「勉強の内容を教える」といった関わりも、H層と10ポイント程度の差は見られますが、大きなかい離はありません。

ポイント差が大きいのは、「勉強の意義や大切さを伝える」「勉強のおもしろさを教える」といった、学ぶことの意味に関連する要素です。H層の保護者は、それを積極的に伝えています。そうした保護者の働きかけは、子どもの学習意欲や行動にプラスの効果をもたらします。教育格差の本質的な問題は、お金をかけることではなく、こうした働きかけの違いにあります。

図3:SESによる働きかけの違い

*数値は「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の合計。
*出典:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2021」
*対象:小1~高3の保護者15,598名のうち、SESが判別できた15,552名を分析。

では、保護者は子どもにどう働きかければよいのでしょうか。
学ぶ意味を伝えることなんて難しいし、できない。そう感じられるかたがいるかもしれません。でも、「さあ、今から子どもと勉強のことを話そう」などと、構える必要はありません。学校で何を学んだのかを折にふれてた尋ねてください。それに対して、「おもしろいね」「よく考えたね」と前向きの言葉をかけたり、「どう思ったの?」と思考を促してあげたりすることが大切です。

子どもが小さいうちは、子どもにとって「ちょっとだけ難しい問題」を一緒に解くなどして、知ることやわかることの楽しさを味わえるとよいでしょう。中高生になると、自分の学びを将来と結びつけて考えることができるようになります。親子で一緒に社会のできごとを学んだり、「学ぶこと」が将来にどうつながっているのかを話したりしてみてはどうでしょうか。

H層の保護者のかたがしている子どもへの働きかけから、学ぶことはたくさんあります。まずは、子どもに対して高い期待をもつこと。そして、学びを通じた試行錯誤は能力を高めるうえで大切な経験であり、将来の幸せに役に立つことなのだと感じてもらうことです。このことはお金をかけなくても、意識すればできます。H層の保護者は、お金をかける教育だけでなく、こうした働きかけをたくさんしているのです。

最後は子ども自身の主体性を信じて励ます

このように、家庭によって子どもの教育に対する考え方や働きかけは異なります。まずはその違いに気づくことが、教育格差を小さくしていく第一歩です。お金がないから十分なことができないという“考え方”を改めて、「学ぶことの大切さ」を伝えるような働きかけを、家庭でぜひしてみてください。

しかし、保護者がどんなに働きかけたとしても、結局は子ども自身が学ぶことの意味を考えて、自分で学習をコントロールできるようにならないと、学習成果は上がりません。また、保護者が働きかけないと自分から学習しないようになってしまっては、逆効果です。

保護者は子どもの学びの環境を整え、ときに一緒に考え、ときに子どものやる気を刺激する。そうしたら、あとは子どもの主体性を信じて、励ますしかありません。子どもにできることは子どもに任せて、関わりすぎないことも大切です。

家庭ではできないこと、うまくいかないこともあるでしょう。全てを家庭で抱え込まず、対応に困ったときや不安があるときは、学校に頼ることも必要です。子どもに十分な対応ができないときは「学校の先生に聞いてみて」と促したりするだけでも違います。

また、経済的な問題は、家庭では解決できないことがたくさんあります。そのため、社会的な政策が必要になります。具体的には、子どもの学習や進学を支えるような経済的な援助が考えられます。これは教育格差を是正するうえで、社会に必要な機能です。そうした制度について理解し、活用することも、教育格差を乗り越えるうえで重要です。

まとめ & 実践 TIPS

SESの影響があり、家庭によって、子どもへの働きかけは異なります。しかし、家庭環境に関係なく、大事なことは、子どもが学習の楽しさやおもしろさに気づくような働きかけです。親子で一緒に学んだり、学習が社会でどう役立つかについて話したりすることで、子どもに学びの価値を育んでいきましょう。

プロフィール

木村治生

木村治生

ベネッセ教育総合研究所主席研究員、CRN主席研究員、東京大学客員教授。
ベネッセコーポレーション入社後、子ども(乳幼児~大学生)、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、 学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。 文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。 東京大学客員准教授(2007年、2014~16年)、追手門学院大学客員研究員(2018年~20年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~)、文部科学省「中高生を中心とした子供の生活習慣づくりに関する検討委員会」委員(2013年)、「中高生を中心とした生活習慣マネジメント・サポート事業」における選定委員会委員(2017年)、光り輝く「教育立県ちば」を実現する有識者会議委員(2014年)、富山県学力向上対策検討会議アドバイザー(2014年)、草加市子ども教育連携推進委員会専門部会委員(2014年~)など。専門は社会調査、教育社会学。

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株式会社ベネッセコーポレーションの教育、調査、研究機関です。子ども、保護者、先生、学校などを対象に、教育に関連する調査、研究を行い、その研究成果や調査報告書、各種データを無償で公開しています。

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