AI時代に輝く子どもの育て方 第2回「AIが進化して、今ある仕事がなくなったら、どんな力が求められるの?」 世界トップティーチャーの回答は?

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AIの進化によって、多くの仕事がなくなるかもしれない、と言われている将来を生きるために、どのような力が求められるのでしょうか。立命館小学校の正頭英和先生は、2019年、「教育界のノーベル賞」といわれる「グローバルティーチャー賞(Global Teacher Prize)」の世界トップ10ファイナリストに選ばれ、AI時代の教育をテーマとした講演活動にも力を注がれています。お話を伺いながら、社会の変化に伴い、「学力」のとらえ方が大きく変わりつつあることがわかってきました。

正頭英和先生 立命館小学校 主幹教諭
聞き手 加藤由美子 ベネッセ教育総合研究所 主席研究員

この記事のポイント

求められるのは「問題を解く力」から「問題を見つける力」へ

加藤 AIが進化を遂げた社会では、人間に求められる役割が変化すると考えられます。これからの社会を生きる子どもたちには、どのような力が求められるのでしょうか。

正頭先生 AIが進化すると、多くの仕事がなくなるといった話を耳にしたことがあると思います。それは、人間に求められていた「問題を解く力」が、AIが代わりにしてくれるようになるからです。しかも、AIのほうが正確かつ素早く問題を解決できますから、人間にとって「問題を解く」役割は、不要になります。

一方で、AIが進化するからこそ、人間に求められるようになるのが、「問題を見つける力」です。社会をよりよくするために、解決すべき問題は何かを人間が見つけ出し、その解決に向けてAIなどを活用することが、これからの社会の在り方になると考えています。

「知識」と「体験」が結びついて「経験」になり、「経験」をとおして「問題を見つける力」を付ける

加藤 「問題を見つける力」の大切さがよくわかりました。社会の変化に合わせて、学校教育も変わると思いますが、保護者のかたはどのような点を意識しておくべきでしょうか。

正頭先生 「問題を見つける力」を高めるためには、多様な経験が必要です。「体験」と「経験」は似た言葉ですが、私は「体験」に知識が結びつくと、「経験」になると定義しています。まず行動し、体験してみて、その意味を振り返ったり、調べたりして知識と結びつけることで、経験へと昇華されるのです。

学校教育においても、経験をとおして問題を見つけ出し、それを解決する過程が学びであるという考え方が重視されつつあります。たとえば、「総合的な学習の時間」などで行う探究的な学習は、まず問題を見つけて、その解決のために国語や算数などの各教科の授業で学んだ知識・技能を活用する、といった流れで進められています。

子どもが日常生活でさまざまな経験をすることも、「問題を見つける力」につながります。自分が困った時に問題は見つけやすいのですが、快適で便利な社会に生きる子どもたちはあまり困らずに日々を過ごしていますので、「問題を見つける力」を磨く機会が少ないのです。加えて、動画やゲームなどの受動型エンターテインメントに囲まれていて、手足を動かしたり、五感を刺激したりする行動の機会も少ないのが現状です。

いったん心に火がつくと、次々に新しい行動につながっていく

そうした時代だからこそ、子どもが行動を起こすモチベーションを高める保護者のサポートが重要になってきます。その際に意識したいのは、今の子どものモチベーションは長持ちしないことです。たとえば、子どもが「カブト虫を捕りに行きたい!」と言った時、すぐに行くことができず、翌週になって時間をつくっても、子どもは「もういいや……」とモチベーションが下がっていたといった経験は、多くの保護者のかたがお持ちではないでしょうか。子どもが行動したいと意欲を見せた時は、できるだけ早めに行動することが大切です。

子どもには行動によって満たしたい感情があります。行動によって、その感情にいったん火がつけば、次の行動に結びついていきます。私がある公立小学校の児童を対象に行った調査では、「やってみたいことがある」と答えた子どもほど、過去の体験が豊かなことがわかりました。過去の体験が子どもを次の行動に駆り立てるのです。

保護者ができるサポートは選択肢をたくさん見せること

加藤 子どもの感情にうまく火をつける行動を促すために、保護者のかたは、どのようなサポートをするとよいでしょうか。

正頭先生 子どもにどんな体験をさせればよいのかと悩んだり、特別に考えたりする必要はないと思います。大人にとっては当たり前に感じることが、体験の少ない子どもにとっては、十分に新鮮なものである場合が多いからです。体験というと、自然体験などを思い浮かべるかもしれませんが、都市部か地方かなど、地域に関係なく豊かな体験はできます。日常生活の中で子どもが主体となってできることはいたるところにあります。家庭の中で料理や掃除、洗濯をしてみることなども、貴重な体験になります。

子どもに進路や職業を考えさせる場合は、選択肢を広げ、たくさん見せることも大切です。
「将来はどんな仕事をしたいの?」と、子どもに質問をしても、「スポーツ選手」や「医師」など、ひと昔前と変わらない答えが返ってきます。それは、子どもがそれ以外の職業を知らないからです。子どもが自由に考えられるようにしているつもりでも、大人は無意識に選択の幅を狭めている可能性もあります。世の中には思っている以上に多くの選択肢があることを示せば、その中から興味のあることを見つけやすくなり、そこから行動につながるでしょう。

子どもの興味・関心が転々とするのは自然なことです。かつて、一度始めたことは弱音を吐かずに続けるべきといった根性論的な価値観がありましたが、子どものたくさんの体験を尊重するのであれば、興味・関心がなくなったらやめる勇気も必要でしょう。たとえば、続けてきたピアノのお稽古をやめたいと言い出したとします。その時、ピアノは好きだけど教室の友達とケンカしたからやめたいと言い出したのであれば、続けるように話し合ったほうがよいかもしれません。しかし、ピアノそのものに興味を失ったのであれば、ほかの体験に時間を費やすほうがよいのではないでしょうか。

保護者のかたは、子どもの興味・関心の移ろいを見守りながら、モチベーションを高く保てるように支える、よき伴走者であってほしいと思います。

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