直島でアートに浸かる!?大竹伸朗による「I♥湯」の楽しみ方と象のサダコとは【直島アート便り】
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瀬戸内海に浮かぶ直島は、島全体に美術館や屋外作品などが点在し、様々なアート作品を見ることができます。アート施設の一つである直島銭湯「I♥湯(アイラブユ)」は、ただ作品を観るだけではなく、実際に入浴することもできます。今回は、直島を訪れる方と島の方の交流の場にもなっている直島銭湯「I♥湯」について紹介します。
この記事のポイント
様々なオブジェが組み合わされた銭湯
直島の宮浦港のすぐそばにある直島銭湯「I♥湯」は2009年7月に営業を開始しました。高齢化が進み、自宅でお風呂を焚くのが難しくなっているという島の方の声が直島に銭湯をつくるきっかけのひとつでした。また、来島者からもどこか汗を流せる場所がほしいという声があり、島の活力となり、島の人々と直島を訪れる人々との交流ができる場となることを目指し、銭湯がつくられました。
写真:渡邉修
写真:渡邉修
女性の形をした看板、「ゆ」のネオンサイン、ヤシの木、船底など、建物は様々なオブジェが組み合わされています。直島銭湯「I♥湯」を手がけるアーティスト・大竹伸朗は、現代アートに興味がない人でも楽しめるように「飽きさせない」アイデアを至るところに反映しています。
大竹は直島島民の家の軒下で発泡スチロールの箱に植物が植えられている様子を見て、発泡スチロールを模した陶器の箱をつくり、そこに植物を植えたものを入口の手前に置きました。このように島の日常と作品の共存を感じさせるアイデアも隠されています。
全身でアートを体験する
アートの鑑賞方法について考えたとき、もしかしたら「観る」ということしか思い浮かばないかもしれません。しかし、直島銭湯「I♥湯」では作品を観るだけではなく、実際に銭湯に入りながらアートを体験することができます。
写真:渡邉修
銭湯の中でも一際目立つのは、男湯からも女湯からも見える浴室中央にある大きな象。もともと北海道・定山渓の秘宝館に展示されていたもので、定山渓の「定」の字をとって「定子(サダコ)」と呼ばれています。象のサダコが設置された背景には、島民や来島者が銭湯に親しみをもてるような、誰にでもわかりやすいものが必要であるという大竹の想いがありました。
他にも色鮮やかな天井画や絵付けタイル、一つ一つデザインの異なるカランなど、大竹ならではの世界観が広がっています。いつもとは違うアートに囲まれた空間で浴槽につかると、直島での体験や普段の生活に思いをめぐらせる時間になるかもしれません。
あたたかな島の番台さん
直島銭湯「I♥湯」には建物に入ってすぐのところに番台があります。施設の運営はNPO法人直島観光協会が行っており、直島で暮らしている方が番台であたたかく対応してくださいます。
写真:渡邉修
今回、銭湯で働かれている島の方2名にお話をうかがいました。
普段銭湯を訪れる方の様子をお聞きすると「皆さん来られたら象を一番に楽しまれますね。インパクトがあるんでしょうね」と言います。象についてのお話の中で「小さい子は本物そっくりで泣く子もいる。『どしたん?』と聞いたら象が本物そっくりでこわいって。お母さんが『後ろ向きになってなさい』と言ってずっと後ろ向きで入っている子がいました」というエピソードも教えてくださいました。
活力を生み出す場として
銭湯で働き続ける理由をうかがうと「色んな人が来るからやっぱり楽しいわけですよ。若い人と話していたらその人のパワーをもらえるじゃないですか」と銭湯を訪れる方と話すことが力になっていると話してくださいました。他にも様々なエピソードを教えてくださり、たくさんの交流が生まれている場であることが感じられます。
「結構お客さん同士でもコミュニケーションされていますよね。島民の方とお客さんがずーっと話していることもある」と裸で湯につかりながら番台さん以外の島の方が来島者と交流を深めていることもあると言います。「愛され、活力が生み出す公衆浴場を」という直島に銭湯をつくるときの願いが体現されていると言えるのかもしれません。
全身でアートを体感し、島の方と交流することは、銭湯を訪れる方にとってそれぞれの記憶に残る特別な時間になることでしょう。
直島銭湯「I♥湯」を手がけたアーティスト・大竹伸朗の作品は、直島だけでなく瀬戸内の複数の島で展開されています。今年の秋、瀬戸内海に点在する大竹伸朗の作品をめぐるツアーを開催します(2021年6月現在)。この機会にぜひご参加ください。
https://benesse-artsite.jp/stay/benessehouse/program/shinroohtake-tour-202109.html
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