AI時代に求められる「生きる力」を育てたい。将来のために子どもに無理をさせてはいけないワケとは?
- 教育動向
子どもの将来の幸せを願わない親はいません。将来の役に立てばと、塾や習い事に通わせたり受験を考えたりするご家庭も多いと思います。でも、子どもの将来に本当に役に立つのは、子ども任せの自由な時間なのだと言われたら? なぜ自由時間が役に立つのか、自由時間に大切なこととは…。教育評論家の親野智可等先生にお話をうかがいました。
これからの時代に本当に求められる力とは
今、時代は激変の最中にあり、子どもたちが社会に出る頃にはAIがさまざまな仕事を担うようになるでしょう。多様性やSDGsが重視され、これまでのやり方が次々と見直されています。そんな時代に求められるのは、目標を自分で見つけ、やる気を示せる人、アイディアがあって、熱意のある人です。
自分で課題を設定したり、指示なしに試行錯誤したりする能力はAIにはありません。そして、こうした力は、仕事で活躍すること以上に、自分らしく幸せに生きていくために重要なのです。自分でやりがいを見つけて楽しむ力があれば、プライベートでも人に流されることなく、生き生きと過ごすことができるでしょう。では、そのために子ども時代に重要なことは、何でしょう。
今は塾や習い事に通う子どもが多く、相対的に自由な時間が減っています。中には受験を控えて日々の大半を勉強に割いていることもあるでしょう。学習も習い事も、決まった目標に向けて努力を積み重ねていくもので、先生に指示されたことをしっかり理解し、こなしていくことが中心です。一方、自由時間は設定された目的や指示のない時間。すると子どもは自分の気が向くことを探し、楽しめるように工夫します。この経験が大切なのです。
自由時間を見直そう
毎日、ある程度は予定のない時間があるというご家庭でも、知らないうちに子どもを管理してしまっている場合があります。よかれと思っての親心とはいえ、見直してみると、子どもにとってよりよい環境を与えられるかもしれません。例えば、のんびりしたいのに「何もしないの?」と過ごし方に口を出したり、好きで絵を描いているのにアドバイスのつもりで指示をしてしまったり、大人の価値観で課題や結果を求めると、子どもはのびのびできません。自分がやりたいと思うことだからこそ、子どもは積極的に行動し、努力や忍耐も発揮するので、とにかく任せるということが重要です。
ただし任せることと、指示しないこと、放置することは違います。ちょっとした工夫で先に進めることがあればサポートをし、段取りのフォローが必要なら対応してあげてもいいでしょう。見守って、必要なときに求められた手助けをすることで子どもの自由時間はさらに充実します。「見て」と反応を求めてきたときは、真面目に感想を考えたり、思い切りほめたりしてあげてください。
また、自分で始めたことがうまくいかずに不機嫌になったり、途中で投げ出したりしても否定しないでください。時間をあけると気が向いて、またやり始めることもありますし、次にやりたいことを自分で探すのもよい経験です。楽しみがコロコロ変わってもいいのです。どこかで、積極的に工夫できることや、うまくいかなくても頑張れることに出会えるだろうと考えて待ちましょう。
「好きにしていいと言われても何をすればいいかわからない」という場合には、はじめは楽しめることを一緒に探してあげてもいいでしょう。子どもは情報が少ないので、体験のきっかけをいろいろと提案してみて、子どもにハマるものを見つけてください。そして、もっとやりたい、もっと知りたいというときは、できる限りかなえ、必要な環境や道具を惜しみなく提供してほしいと思います。
将来は永遠にたどり着けない水平線のようなもの
もし受験や勉強、つまり将来のために今は自由時間などとっている場合ではないと考えるなら、その考え方は間違いです。受験はあくまでも手段で、目的ではありません。どのご家庭でも受験の目的を突き詰めれば「将来、子どもが幸せになるため」だと思います。
でも、この「将来」というのは水平線のようなものです。水平線は、存在するように見えますが実際には存在しません。水平線に向かって一生懸命船を漕いでも、それは常に遠ざかります。将来もこれと同じで、実際には存在しません。それがやってくるときは、常に今日の「今・ここ」としてやってくるのです。ですから、今日の「今・ここ」において幸せであってほしいと思います。
子どもは今日の「今・ここ」が幸せなら、幸せ体質が身につきます。
それは、1つには自己肯定感が育っている状態です。
もう1つは、よい親子関係を経験することで親への信頼感が育ち、それによって他者信頼感も育っている状態です。
この幸せ体質が身についていれば、その延長線上で「将来」においても幸せになれるのです。
今日の「今・ここ」が不幸せだと、子どもは不幸せ体質が身についてしまいます。
それは、1つには、親に叱られ続けることで、「どうせ自分は何をやってもダメだ」と思い込んで、自己否定感にとらわれてしまっている状態です。
もう1つは、「親は自分のことが嫌いなんだ。どうせ自分は誰にも好かれないよ」と思い込んで、他者不信感にとらわれてしまっている状態です。この不幸せ体質が身についてしまうと、その延長線上で「将来」においても不幸せになってしまうのです。ですから、将来のために今を犠牲にするのはやめたほうがいいでしょう。
中学受験などで無理をすると、不幸せ体質になりかねません。そうならないためには、子ども自身がやりたいことをやったり、子どもらしい健全な生活を楽しみながら、本人に見合った範囲のがんばりでできる中学受験がよいと思います。
同時に、親子の関係を良好に保ちつつできる範囲で、ということも大事です。
もし無理だと思ったら、中学受験からは撤退して、高校受験、あるいはその後の受験で勝負するなどした方がよい結果が得られるかもしれません。お子さんをよく見て、一緒に考えてあげてくださいね。
まとめ & 実践 TIPS
親も子どもも、目の前の課題や目標に追われて、気がつくと一生懸命になりすぎていることがあります。「将来、幸せになってほしいと思ったら今を幸せに過ごすこと」というのは、とてもシンプルですが、大切な視点。任せて、見守り、求められたら応じるという関わり方で、子どもの自由時間を見直してみませんか?
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